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内気少女といにしえの恋  作者: メイズ
諸行無常な恋をして
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元カノ、再び

 雅秋は、錦鯉研究部の小会議に行くミアを見送ってから、図書室へと戻った。


 机に向かってはみたが、ミアのことが気になって薄ぼんやりとしてしまう。



 ふと、視線を感じて振り向いた。


 後ろのテーブルには牧野のばらがいた。



 ──またアイツ! なんてしつこいやつなんだ! この間はミアにまでちょっかい出しやがって。


 ああいうのはシカトした方がいい。相手にしたらこっちが損する。



 雅秋はさっさと荷物をまとめたのだった。だが、ミアが戻って来るのを待たなければならない。


 ミアの開きっぱなしのノートに走り書きで、メッセージを残した。


 一時席を外す旨を記し、図書室を出た。のばらと一緒の空間にいるのも煩わしい。



 下の渡り通路の自販機で飲み物を買って外の空気を吸いながら暇を潰そうと思ったが、階段を降りたところで美術部の後輩に会った。誘われるまま、少し美術室に行くことにした。暇潰しに丁度いい。



 一方、のばらは雅秋の様子をずっと窺っていた。


 雅秋の姿が消えると、すぐにノートに書いたメッセージをささっと確認した。


 すぐさま雅秋の後を追う。


 雅秋と誰かの声が聞こえたので階段の手すりの隙間から様子を伺った。


 雅秋は誰かと美術室に入った。



 ──チャンスだわ! きっとここで待っていればミアちゃんが一人で来る可能性が高い! うふふ。私、ミアちゃんのためにがんばったの。



 チャンスとばかりに廊下の奥に張りついてミアが来るのを待った。


 のばらは美しいものを愛する。それは高校入学の頃から徐々にジェンダーを越えていた。



 ミアが1F外渡り通路に現れるまで、ほんの数分しか待ってはいなかった。



 ──こんなにうまく行くなんてラッキー! 




「ミアちゃんみーっけ!」


 頃合いを見計らい声をかけた。



「こんにちは。私のこと覚えてる?」


「あ‥‥‥牧野先輩」


 ミアはびっくりしたようだ。


 ドギマギしているのを隠そうとガンバっているその表情が何とも可愛らしい。



 ──逃がさないわよ。私の見つけた子猫ちゃん。



「牧野先輩なんて呼ばないで。私のことはのばらって呼んで」


 優雅に微笑みながらミアに促す。


「えっと、はい。のばら先輩」


「ありがとう。ミアちゃん、あのね、ちょっといい?」


 のばらは親しげにミアの横に並んだ。


「うふっ。ねえ、ミアちゃん。私、ナッツメッセでやっている夏の特別イベント、"私は絶叫 あなたは絶望 ナイトメアー ブラッディ ホーンテッドハウス" のチケットを2枚もらったの。一緒に行かない?」


「えっ! でも、これは大人気で当日券もすぐに売り切れてしまうとかって友だちから聞いてます」



 実はそのチケットは、のばらの彼氏である現生徒会長の雪村がのばらを誘ったものであったのだが、のばらが作ったことにしたメイド作のクッキーと、新たな後日のデートの約束と引き換えに、のばらが手に入れたものだった。


「私とですか? どうして私を‥‥‥?」



 ほとんど面識のないのばらに誘われたミアは戸惑った。しかも彼女は雅秋の元カノだ。



 ──私を誘う理由がわからない。キレイで優しそうな人に見えるけど‥‥‥


 もしかして、甲斐先輩と親しくしている私を偵察したいとか‥‥‥かな?


 断りたいけど、この圧の強さはどういう‥‥‥



「ね、日にちはミアちゃんに合わせるから行きましょう」


 ミアの腕に巻きついて、期待に膨らんだ笑みを向けられている。


「えっと、私‥‥‥」





「残念だったな!」


 雅秋がふっと現れた。


「それ、ミアはもう俺と行く約束してるから」



 ******



 美術室の窓からすぐそこの渡り通路に、なにげに目に入って来たのばらの目立つ長く赤い髪。


 ギクッとして窓辺に近寄りよく見ると、ミアもそこにいてビビった。


 雅秋は光の速さで美術室を出た。そして、のばらが何を話しているのか気になり、二人にそっと忍び寄ったのだった。




 雅秋がミアとのばらの間に割り込んでミアを引き離す。



「それ、ミアはもう俺と行く約束してるから」


「あらー? ミアちゃんは今、そんなこと言ってなかったけど?」


 片眉を吊り上げ、のばらが顎を上げる。



「今した。それでいいだろ」


 しれっと雅秋が答えた。



「なによ、それ?‥‥‥‥ミアちゃん、もうこんな男とは別れた方がいいわよ」


 のばらは、これ見よがしに大きなため息をついた。



「お前は自分の彼氏と行けばいいだろ?」


 雅秋は反感を隠そうともしない。



「あんたに関係無いでしょ? 私はミアちゃんを誘っているのよ!」


 二人の視線が火花を放つ。



 ミアはこの不毛な争いを止めるべく、ついに勇気を出した。



「ごめんなさい、のばら先輩。私、夏休み中は予定がもういっぱいで‥‥‥」


「‥‥‥そう。ならいいのよ。ただ‥‥‥こういう男の言いなりになるのは良くないわよ。モラハラ気質があるもの」


「はい? おもしれーな。モラハラ? お前にブーメランじゃね? ふっ‥‥じゃあな~」 


 雅秋はミアを管理棟の入口に引っ張った。


 のばらは雅秋に一瞥してから、図書室のある普通教室棟側へ戻って行った。



「ほら、俺がちょっと目を離せばこれだよ! あいつミアのこと狙ってるじゃねえか! それに俺の元カノと仲良くするなんてやめてくれよ」


「狙ってるなんて‥‥‥考え過ぎよ。のばら先輩は女の子なのよ。私が女の子と話すだけで心配するなんてどうかしている。それって重症の心配症よ」



 雅秋は以前、噂で聞いていたことがあった。先日までは信じてはいなかったのだが。


 今は生徒会長の雪村煌と付き合っているのばらだが、1年の時は3年の女子と付き合っていたという噂。

 のばらの前回でのミアへの態度を見て、それは事実ではないかと思い始めていた。



 ──アイツ、ミアを狙ってやがる。なんて貪欲なお嬢様だよ? 俺がしっかりしねーとな。ミアは俺が護る!



「荷物は俺が取りに行くから、ミアは靴替えて昇降口で待ってろよ」


「いいの? ありがとう」



「あっれー? 真夏多さんじゃん。ちわー!」


 中庭から陽気な声がした。


「あら、中村くん。そっか、今日錦鯉研究部の当番ね!」


「おう! 真夏多さん多く当番してくれてアザーっす!」


 敬礼しながら日に焼けた屈託のない笑顔で答えた。


「その人、誰?」


 じろじろと雅秋を見る。


「えっと、美術部の先輩の3年の甲斐雅秋先輩よ」


「ちわっす! そう言えば絵のモデルしてるんだよな、真夏多さん」



「甲斐先輩、こちらは錦鯉研究部の1年の中村ヒトミくんです」


「よろ、1年」


「甲斐先輩ってかっけー。俺もちょっと髪伸ばそうかなー」


 中村は自分の前髪を摘まんでフッと吹いた。



 陽キャなおしゃべり男子の中村は、話し出すと止まらない。話題をころころ替えて話は尽きない。


「なあなあ、真夏多さん、ミチルから絵はがき届いた? アイツいいよなー。ワイハー!」


「うん、来たよ。ミチルは学校が始まる2、3日前まで帰らないみたいね」


「俺、ミチルがそんなお金持ちの息子だなんて知らなかったよ。真夏多さんも将来安泰だな! やっば、腹減ってる? 鯉が俺を呼んでるような気がする! じゃ、真夏多さん。まったなー」


 中村は無認識かつ無邪気に地雷を置き、笑顔でミアに手を振り、生物室へ向かった。




「‥‥‥ミア。ミチルって誰だ? 将来安泰ってまるで婚約者みたいな言い様だな」


 雅秋のこめかみには青い血管が浮いていた。


「あの、落ち着いて。ミチルは私の幼なじみです」


「‥‥‥だが周りはそう見てはいない。そういうことだろ?」


「それはわからないけど‥‥‥」



 ミアは雅秋の心配症がますます悪化するのではと戸惑う。



 索とのばらと中村の3連チャンとミアの困り顔に、もどかしさとイライラが更に募った。


 雅秋の限界は超えた。



「ミア、俺はもうこんなの我慢出来ない! ミアが誰よりも、名波より、久瀬より俺を選んだという(あかし)が欲しい。ちゃんと俺と付き合うって明言してくれ!」





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