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内気少女といにしえの恋  作者: メイズ
諸行無常な恋をして
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ミアに纏わる邪魔者たち

「何か困ったことでもあるの?」


 姿は無いが、索の声だけが聞こえる。


「な、な、名波先輩の声! どうして? このホタルから?」


「どうしてって、ミアが僕に助けを求めたから。僕がミアに与えられる守護は僕自身だ。なぜなら僕は生前はただの人だったわけだから大した呪術は持ち合わせていないからね。僕自身でミアを守護するしかない」


「‥‥ウソッ‥‥これって今日貰った守護の御守りの力なの?」


 そういえば、左耳がじわっと熱くなって来てる。



 金色の光は小さな一粒から急に縦に伸びると、人のシルエットを作りそして索の姿に変わった。


 索の影法師。索自体が明るさを保っているように暗闇の中くっきりと見える。


 その姿は暗闇に浮かび上がるバーチャルリアリティー。索のアバターのようだ。



「で、どうしたの?」


 索がベッドのわきに座った。


「ど、どうしたって言われても! これってどうなっているの?」


「ミアが僕を呼んだ」


「私が? 突然こんな所に来るなんて‥‥‥」


「どうして? ミアは僕に助けを求めたのに」


 索は珍しくもふざけているようにも見える。


 こんな索は初めてだ。


「だって、この御守りにこんな力があるなんて知らなかったし‥‥‥」


 ミアは恐る恐る身を乗り出して索に近づき触ってみるも、その手はすり抜けた。


 ふと気づけば索の顔が目の前だ。


 慌てて壁際に戻ったミアの顔は火照っている。



「‥‥‥‥君は、本当に清純なんだな‥‥‥。蓮津と似ているけど中身は全然違う」


「あ‥‥蓮津姫‥‥‥‥」


 ミアは蓮津と比べられて、胸に何かが突き刺さるような痛みを覚えた。



「蓮津は‥‥その美しさで出会う人を惹き付ける。そして手練手管に長けていた。蓮津を玉の輿にのせるため、彼女の母は人を操るあらゆる技を蓮津に仕込んだらしい。蓮津はあの美しさの上に、頭の回転も速く度胸もあった。だから蓮津は対象とした者を自分に夢中にさせてしまう(すべ)を持つ‥‥‥それゆえに‥‥‥‥」


「あの‥‥‥?」


「‥‥‥君は君のままでいればいい。無垢な君は美しい」


 索はミアのほほにそっと手を伸ばす。


 ミアには感触は無いものの、ビクッとしまう。




「僕は君に何もしないし出来そうもない。この守護の呪いはどうも弱過ぎたみたいだ。本来は僕が愛すべきミア。では、続きは明日学校で話を聞こう」


 索が、ふっと消えた。


 ただ金の小さな光の粒がミアの目の前にふわふわ漂っていた。



 ──この光は、久瀬先輩が見たものと同じなのね‥‥‥?



 ミアは金の光に手を伸ばす。


 すると、ミアの指先にすっと吸い込まれるように消えた。と、同時に部屋は真っ暗になった。



 全てが消えると今の出来事は幻だったように感じてしまう。



 左耳の熱さだけが、夢ではなかった余韻を辛うじて残していた。



 ──名波先輩、明日学校でって言った‥‥‥




 ミアは目を瞑ったもののなかなか眠れなかったが、気がつくと朝になっていて既に明るくなっていた。



 ミアは学校に行く用事を作って、今日も学校に行く。


 午前中は一人で図書室で勉強することにした。


 錦鯉研究部のグループSNSに、今日もミアが餌やりすることが出来ると朝イチで連絡すると、当番だった中村からは、自分で行くから大丈夫だとリプが来た。



 今日は雅秋とは約束はしていない。




 いつもよりゆっくり目に学校に着いた。


 もう、図書室には勉強している生徒がわりと来ていた。


 涼しくて静かで雰囲気の良い図書室は、家で勉強しづらい生徒にとってありがたい場所であった。


 ミアはどちらかと言えば、一人で黙々と部屋で勉強するより、周りに真面目に頑張っている姿がある方がやる気が出る。



 室内を一回りしたけれど、索の姿は無かった。



 ミアは窓際のカウンター席に座りノートを広げた。


 今度受けようと思っていた漢字の2級の検定試験の問題集を一週間で終わらせる予定だった。


 せっせと進めていると、すっと人影が見えて、ミアの隣の席に誰か着席した。



 ──名波先輩?


 ちらりと横目で確認するミア。


「あっ!」


 思わず漏れて口を押さえた。今度は囁き声に変える。


「甲斐先輩!」


「やっぱここか。当たったな」


 机に過去問の問題集を広げながら雅秋が微笑む。



 そのくちびるに目が行く。


 ──私、昨日甲斐先輩と‥‥‥



 ミアはなんだか昨日の事を意識してちょっと恥ずかしい。


 急に鏡を見て身だしなみを確認したくなった。



「あの‥‥‥私ちょっとお手洗いに」


 小さな声で雅秋に言った。


「‥‥‥ミアもトイレとか行くんだ?」


「当たり前でしょ‥‥‥」


 ミアが呆れた顔でツンとした。


 雅秋にとってミアは特別過ぎてどこか神聖視してしまう。


「まあ、そうだけど‥‥‥じゃ、俺も行く。心配だし」




 図書室から出ると、ミアは真っ先に聞いた。


「あの‥‥‥お手洗いに行くだけなのに、何が心配なのですか?」


「だって、ミアの回りには変なの寄って来るじゃん? この間の牧野とか、久瀬とか」


「久瀬先輩は変な人では無いですよ? 牧野先輩については知りませんけど」


「いや、久瀬はな、意外と思い込みが激しいタイプなんだよなー。ミアは知らないだろうけど」


「‥‥‥そうなんですか?」


「結構、めんどくさいとこあんだよな。ま、良く言えば、そういうとこが芸術家タイプなのかもな。クリエイティブに向いてそうだし」


「ですね、久瀬先輩は素敵な絵を描きますよね」


 ミアは昨日貰った似顔絵を思い出して自然に微笑みがこぼれた。



 トイレの前まで来た。


「甲斐先輩は待って無くてもいいですから。先に戻っていて下さい」


「へー、そんなに長くなるって?」


 雅秋がニヤニヤする。



「もうっ! 甲斐先輩キライッ」


 ミアは赤くなって女子トイレに入って行った。



 雅秋はちょっと意地悪を言ってみたい気分だった。


「ったく、ミアはまた久瀬の味方しやがって‥‥‥」





 ミアが女子トイレに入ったのを見届けてから雅秋も隣の男子トイレに入る。


 雅秋は先に出たら廊下で待っていようと思っていた。が、用を済ませた後、つい髪型を気にして鏡に見入ってしまった。




 ふと、ミアと誰か男子の声がぼそぼそと聞こえて来た。



「────夜は僕、楽しかっ───アレ、僕も初めての体験だったんだ」


「そういえば、御守り─────初めてで加減が分からないって───────」



 所々が聞こえないが、ミアに間違い無い。



「あれでは─────ミアを───出来そうになかった────────」




 ──誰だ! ミアと何の話をしている?


 雅秋は思わず廊下に飛び出した。



「‥‥‥でも、美しくて夢みたいでした。私だってああいうのは初体験で‥‥あっ!」


 ミアが言いながら、急に出て来た雅秋を振り向いた。



「なっ、名波! 名波がなんで!?」



 雅秋からは怒りのオーラが立ち上っている。


 そのままつかつかと二人の間に入る。



 まずは索に詰め寄った。


「おいっ、夜楽しかったって? 初めての体験ってどういうことだ!」



 ミアにも、泣くのを耐えているような顔で詰問する。


「名波と‥‥‥夢みたいな初体験ってなんだよ?」



「あ、キミは確か、美術部の‥‥‥」


「‥‥‥俺をバカにしてんのか? これって名波、お前ミアに‥‥‥」



「‥‥‥君はもう少し落ち着いたほうがいい」


 索は動じる事無く雅秋に言った。


「質問に答えろっ!」


「‥‥‥言葉の通りだろ? 君はまるで癇癪玉(かんしゃくだま)だな。冷静さを欠く者は、隙だらけで見ていられないね。一昔前だったら真っ先に殺られてるタイプだ」



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