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内気少女といにしえの恋  作者: メイズ
諸行無常な恋をして
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雅秋の元カノ

「先生と、何話してたんだよ?」


 雅秋は、図書委員と本日の予定を確認している島田の横顔を振り返り見ながら、ミアの前まで来た。


「甲斐先輩、おはようございます。何でもないです。えっと、錦鯉のお話を聞かせて頂いていただけです」



 ミアは返事をしつつも、思考は先程の続きのままだ。


 ──まるで名波先輩が私を取り殺そうとしているかのような言い種だったわ。


 名波先輩はそんなんじゃないよ? 困ってる私を助けてくれていたのは他でもない名波先輩なの!


 それに蓮津姫が望んだから彼女の精力を奪っただけ。島田先生の言い方は間違ってる! 私は名波先輩の思い出を追体験したんだから。


 索に余りいい印象を持っていないらしき島田の話に、ミアは心の中で反発していた。



「ふーん‥‥‥錦鯉ね。今日も餌当番?」


 ちょっと呆れたように雅秋に苦笑いが浮かぶ。


「うん、そうよ。だって暇なのは私だけだし」


「ふふ、俺がいるじゃん。それに二人の時は俺をガシュウと呼べ。ほら」


「えっと‥‥‥まだ付き合ってるわけじゃないから」


 ミアは上目遣いでチラッと雅秋の目を見て下を向いた。


「はい? 俺ら付き合ってるから」


「‥‥‥‥私、まだわからないわ。さ、勉強始めましょ。今日はどこのテーブルがいい? 一番に来たから選び放題ね」


「‥‥‥‥ミア? なんか今日は冷てーじゃん?」


「いつもと一緒です」



 ミアは分厚いカーテンを引かれた窓際のカウンター席で雅秋と並んで宿題を始めたものの、索のことが浮かんでしまい、開いたページはそのままだ。


 雅秋はワークとノートを広げたままシャーペンを持ってぼんやりしているミアの横顔を(いぶか)しげに横から見ていた。


 小一時間ほど、問題集を進めていた雅秋も、途中から嫌に落ち着きなくキョロキョロしたり、時計を見たりし出した。


 そんな雅秋の様子を見て、ミアがささやくような小声を雅秋の耳にそっと吹き込む。


「どうしたの? 甲斐先輩。もしかして用事があるのですか? だったら別に帰ってもいいですよ」


 雅秋はミアの肩をぐぐっと引き寄せ、耳元で息だけの声で返す。


「ちげーよ! なあ、場所変えね? ファミレスとか」


「私、お昼に鯉の餌当番があるから」


「先にやっちまえよ。ちょっとくらい早くたって構わないだろ?」


「どうして? お腹が空いたの? 私、シリアルバー持ってるから食べますか?」


「‥‥‥そういうんじゃねーって」



 時は午前10時を過ぎていた。図書室に集まってきた生徒は既に十数人ほどに増え、それぞれ勉強したり、本を読んだりしている。



 ──その中には、雅秋の元カノの2年生の牧野のばらが含まれていた。



 のばらは雅秋の後方から、反目の視線を雅秋の背中にぶつけていて、遂に雅秋と目が一回合っていた。


 だがのばらは、何か仕掛けて来るわけでもなく、そこからは完全に雅秋を無視していた。


 雅秋にとっては無視されることはありがたきことだったが、のばらと同じ空間にこのまま居続けることは、居心地がすこぶる悪かった。




 今年の3月ごろから二人は付き合い始めたが、4月、雅秋は新入生のミアに一目惚れしたために、たった一月余りで早々に のばらに別れを告げた。


 それから 突然言い渡した別れについて、のばらからは強い抗議を受け、しばらくはネットストーカーされていた。


 だが、夏休みが始まる少し前に のばらに新しい彼氏が出来、ようやく落ち着いて一段落した。


 それで、雅秋は夏休み早々にミアを誘い、ようやくコクったのだった。




 一方、雅秋と数回一緒に下校しただけで、いきなり別れ話を持ち出された のばら。


 確かにその数回で、恐ろしく雅秋とは気が合わないことは、のばらの思い知るところとはなっていたが、のばらには別れる気など全く無かった。



 雅秋は、のばらの美しい外見だけを飾りとしたくて付き合おうとしていたことなど のばらはとっくにお見通しで、雅秋の のばらへの壁ドン告白は白々しく感じてはいたが、それなりに演技して乙女っぽく繕った。


 なぜ、のばらが雅秋の誘いに乗ったかというと、学校でNo.1イケメンと噂されている雅秋と付き合っているという事実は、実に自分に都合が良いと考えたからだ。


 周りにはマウントをとれるし、のばらのもう一つの秘密の顔を隠すのにもってこいだ。


 雅秋と付き合えば校内で二人の噂が広まるのは必至。それがのばらの一番欲しかったものだった。


 だから、噂をなるべく長引かせるために別れに応じなかっただけのことだった。だが、夏休み前に次の都合のよい物件が現れたのでそっちに乗り換えた。


 その人は新生徒会長で、なにかと目立つ役職の彼ならば、校内にのばらとの噂が広まるのは(かた)くない。




 雅秋とのばらが落とし所に落ち着いたとしても、彼女の気は収まらない。


 ───この牧野のばらを一方的に都合良く使おうとした男。このままで終わると思ったら大間違いよ? 


 私の懸命の抗議のメッセージもとことん無視してくれた。


 名前を呼ぶのも汚らわしい。私は性悪なアイツの毒牙にかかる次の女子を、このまま見過ごすわけにはいかないわよね‥‥‥


 勧善懲悪。


 アイツの隣のあの子にその本性を教えてあげなきゃね。ふふふっ‥‥‥


 その子にどんな顔をされるやら。


 あー、楽しみね! もうすぐ次の幕が開くわよ。カウントダウンはもう始まってる。





 とても似た者同士だった雅秋とのばら。


 狐と狸の化かし合いだった。


 雑誌モデルのような美しいのばらを隣に置き、自分のステータスにしようとしていた雅秋、そして雅秋の校内での名声に自分も乗っかって隠れ蓑に利用しようとしていたのばら。


 そして今、利用価値が完全に無くなった男に のばらはもう容赦はしない。




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