噂話とセンシティブ
「その‥‥最近、真夏多さんとキリルが校内でイケてる女子二人ってことで、目立ってるみたいじゃんか。8組まで知れ渡ってるぜ?」
リアスはチラッとミアを見てからルイマの方を向いて言った。
ミアをまっすぐ見るには眩し過ぎるし、照れる。
ミアと同じテーブルについているというだけで気後れしているし、普段通りには喋れない。
「目立ってるの? そうなの? ミアはともかく私まで? それマジなの?」
ミチルが思案顔になった。
「‥‥‥そういえば‥‥‥そうかもね。僕、クラスの人にさりげなく僕にミアちゃんとキリルのこと、探りを入れてこられたことあるよ」
「オレ、広報委員の仕事でキリルと一緒になったじゃん? 朝も通学路は同じだし靴箱の辺で偶然会ったりするだろ? そんで二人で話してんの何回か見られただけで怪しまれて根掘り葉掘りの人がいてさ‥‥‥」
そう、あの噂好きの女子はくせ者だとリアスは警戒している。その砂区愛は、社交的性格でクラス内では女子のリーダー的存在になりつつある。
眉間にしわを寄せなからルイマが言った。
「何それ? そんなんどうだっていいわよ。ほっとけば良くない? そういう人って。ねぇ、ミア?」
ミアは無表情で言った。
「‥‥‥そうね。関係ない人たちが何言ったって耳を塞ぐしかないの。だって、どれもこれも無責任な戯 れ言だもの。私のことなど知りもしないくせに勝手な想像をして私を傷つけるの。関わりたくない‥‥‥」
何やら今まで相当大変な思いをして来たらしかった。
そうだよな‥‥‥‥‥
中学時代からリアスはミアの噂を何度も耳にしている。
どこからどう出てくるのか、どう見てもフェイクだろう、という単に中傷めいた噂も何度か流れて来た。
『ねぇ、聞いたかよ? あの真夏多ミアってさ、学校では大人しそうにしているけど、実は裏では相当遊んでるらしいぜ? 渋谷でオヤジと歩いてるの誰か見たらしい』
『あの子さぁ、整形っぽいよね。それにあの目カラコン入れてない? スッゴく不自然だよねっ』
『真夏多さんってサッカー部の秋田先輩とバスケ部のイケメンハーフのランディくんと二股してるらしいよ』
いずれもその噂はフェイクだと擁護の噂も同時に流れた。
渋谷では、スカウトにしつこくされていただけだったとか、彼女は幼少の時から美しかったという数人の証言者もいたし、秋田先輩はコクって撃沈しただけだったらしいとか、ランディくんは真夏多さんてかわいいよな、と呟いただけらしいとか。
「関わりたく無くたって向こうから来るんじゃね? 気を付けろよ、二人ともさ。注目されてんだから」
ミアとリアスはふと目が合った。が、リアスが反らす前にミアが瞬時に反らした。
感じる。ミアがこのメンバーの中で、リアスだけに引いている境界線。
少しばかり傷つきながら、リアスは続けた。
「でも、真夏多さんとキリル、注目されてるのは間違い無いことじゃん。真夏多さんはともかく、キリルは言動に気をつけろよ! おまえ、鮫肌のうえに鬼の角 とサーベルタイガーのキバ持ってるからな。反感買いすぎると叩かれるぜ?」
「‥‥‥ほぉ、ザッカリーの私へのイメージがわかったから。"防御の鮫肌の衣 "、そして攻撃力アップのための、"パワーチャージ鬼の角 " と "伝説の聖獣の幻のキバ" ってとこね。勇猛アイテムだこと。課金しないと手に入らなそうじゃない。私、レベル高めの冒険者ね」
ルイマは顎を上げてリアスを斜めに見た。
「いえ、あの‥‥‥それは‥‥‥でも、そうだからじゃん!」
リアスは追い詰められても否定出来ないバカ正直者だった。
クスクスしながらミチルが割って入った。
「まぁまぁ、結局、ザッカリーはミアちゃんとキリルが心配で、僕のとこに来たって事だね?」
「あ、うん、さすがミッくん! そうだよ。うんうん!」
「‥‥‥ふーん、ま、どうでもいいことだったわね。ザッカリーも私たちのこと、他の人に余計なこと言わないようにね。いいわね? ねえ、あんたは他人の心配より自分の次回のテストの心配をしなさいな」
「はい‥‥‥」
なぜか最後にリアスが説教されこの話は終わった。
その後他の高校へ行った友だちの近況などの噂話をして一通り話が尽きた頃、ルイマが切り出した
「ええー、今日は、せっかく日良豆中仲間が集まったから話があるの。聞いて!」
もったいぶったように3人の目を順に見つめた。
「協力して欲しいことがあるの!」
「?」
ミチルとミア、リアスの目線が絡んだ。
「あ、ザッカリーは私の広報委員撮影助手だから絶対なんだけど」
「ええぇー、なんかこえーじゃん。オレ、無理とだけ予言しておく」
「あらぁー、いいのかな? そんな冷たいこと言ってくれて。後から後悔するよ? なら私は、ザッカリーが後から泣いて私の仲間に入れて下さいって頼んで来ることをここで予言しておくわ。‥‥‥でね、私の話を聞いて、ミア、土方」
リアスはミアをちらりと見たけれど、ミアは隣のルイマの顔だけを見ていて、リアスには何の興味も無いことは明白だった。
「最近、広報紙のネタにどうかと思って学校の怪談を調べ始めたんだ。この落花生高校の敷地は歴史ある土地なのよ。その昔はここにお城が建っていたの」
「ああ、それ知っているよ。父さんから聞いたことある。僕の両親は、落花生高校の卒業生なんだ」
ミチルはその事についての概要は既に知っていた。
「そのお城に関する伝説や怪談がたくさんあって今、個人的にも興味もあって調べているんだけど、そのこと、今は出来るだけ内密で遂行したいのよ。訳はそのうち話すと約束する。で、それを手伝って欲しいの! どうかしら? ミアはどう?」
「いいけど‥‥何をすればいいのかわからないわ。私に出来ることなら構わないけど」
「ミア、私ね、ちょっと怖いのよ。怪談だし。心細いというか‥‥‥。怖い話ってふと、畏怖を感じる瞬間ってあるじゃない?」
「‥‥‥キリルにも怖い時があるなんて意外だわ。こんな私が役に立てるのかわからないけれどいいの?」
「もちいいよ! ミアが側にいてくれるだけで心強いし。私の話を聞いてくれるだけでいいの」
「そうなの? それくらいなら私にも出来そう‥‥」
「ありがとう、ミア! で、土方はどう?」
ルイマはミチルの顔を見た。
「あ、ミアちゃんがいいなら僕もいいよ。手伝うよ」
ミチルは幼少の頃から、ミアの側にいて彼女を護ると決めている。
「土方、ありがとう! じゃ、うちら個別のしかないから早速3人のLINEグループも作ろうよ。連絡に必要だから。いい?」
「いいよ。なんか面白そうだね!」
「私もいいよ。キリルとミッくんだもん」
そこにリアスがすごすごと言った。
「あの‥‥キリルさん‥‥」
「あらぁー、ザッカリーさん。何かご用かしら? どうやら私の予言の方は的中したようね」
ルイマがふふふん、とジト目でリアスを見た。