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内気少女といにしえの恋  作者: メイズ
諸行無常な恋をして
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I can't help worrying about you〈ゼツガ〉

心配せずにいられない〈ゼツガ〉

 金曜日。今日も甲斐は休みらしい。連絡は無し。


 甲斐は今年は秋の作品展には出品しないから、真夏多さんの人物画は描いてないし、来なくたってなんら問題は無いわけだけど‥‥‥


 今まで無かったよな。こういうこと。

 


 甲斐は描くよりも批評する方が合っている。技術は正直いまいちなんだけど、見る目があんだよな。


 パースの狂いとか、不自然になってるラインとか、どっかおかしいのはわかってるんだけど どこを修正したらいいかわかんない時とかに見て貰うと教えんの上手いし、センスはいいから、俺も甲斐に指摘される分には嫌な気はしないんだ。

 

 もしかして甲斐は、このまま引退するつもりなのかも知れない。次の部長は2年の絵島(けい)と既に決まっているし、引き継ぎも済んでいるから問題は無いんだよな。俺だって副部長って言っても最早名前だけだし。



 ちょい、メッセージを送ってみっか。



《甲斐、どうした? 週明けには来られる?》


 昨日に引き続きスルーかよ?‥‥‥あ、読んだ!



《俺が行くとどうしてもみんな俺に頼るし、俺が目立って新部長の絵島の出番が減るからな。後輩を思って控えてんの。近い内に俺の荷物引き上げに行くからよろ。久瀬もはやいとこ絵を仕上げろよ!》


《了》


 ったくさぁ。素直じゃねーな。甲斐のやつ。それもあるだろうけど、本当は真夏多さんに次会ったらどう接するか迷ってんじゃないの?



 その真夏多さんはといえば、いつになく機嫌良さげなんだけど。


 星野&辻コンビに混じってお喋りしている。



 はい? どういうことだよ? あの孤高の真夏多さんが微笑みさえ浮かべてるじゃないか!


 俺は因縁のマイスケッチブックに真夏多さんの尊い笑顔をささっと記録しておいた。

 

 これはなかなかいい光景だ。離れて見ている分には。


 星野と辻は眺めてる分にはかわいい後輩だけど、突っ込みセンスが鋭いやつらなので、あまり近づきたくはないな。



  

 もうすぐ9時だ。始まりの時間。


 いつも真面目な真夏多さん。


 始まる5分前には椅子にきちんと座って待機している。


 一人でいる今が名波のことを尋ねるチャンスだ。



 やっぱ、見過ごせねーよ。

 

 だって名波は、真夜中近い時刻に学校に忍び込み、謎の儀式?をしていたんだぞ?


 怪し過ぎんだろ。


 それを見ていた俺だって十分怪しいヤツだけど‥‥‥



「あの‥‥‥ちょっといいかな?‥‥聞くけど‥‥‥その‥‥、錦鯉研究部の部長の名波は、真夏多さんと仲がいいのか?」


「あ‥‥‥いえ。ただの部活の先輩と後輩ですから、少しお話する程度ですけど、なにか?」



 ‥‥‥あれ? 彼氏じゃなかったのか?



「久瀬先輩っ!」


 星野塔子が意味深ニヤけた顔で寄って来た。


「久世先輩。ホントはね、らぶらぶですよー? ふっふっふ‥‥‥」



 俺の耳に手を添えてささやく。


 女の子のミルキーな匂いが、ふわっと俺に届いた。


 星野はいつまでも子どもみたいにこんなことしてると、なにかと勘違いされて、トラブルに巻き込まれんじゃないかって、こっちが心配になる。


 俺を意識してないから近くても平気なのかな? まったくわからん女子の心理。だから俺には彼女も出来んのか? そこはもういい。



 う。真夏多さんが俺に(いぶか)る眼差しを投げている。‥‥‥だよな。


 いきなりプライベートな質問してしまって。


 でもさ、夕べのあの光景を見てしまったからには放っておける訳がない。


 真夏多さんがおかしなことに巻き込まれるかも知んないのに知らんぷり出来るわけないじゃん。



「あ、そう。‥‥‥‥これは‥‥やばい?‥‥‥のか?」



 真夏多さんは、ただの先輩だと言ったけど、友人の星野によるとラブラブ。


 まだ、付き合うまでは行ってはいないけど、いい雰囲気にはなっていると言うところだろうか?


 このまま二人が深い付き合いになったら、どうなんの?


 

 名波は普通じゃない。あの金の光を集める姿が、頭に甦る。



 夢のように美しい光景。



 俺のちょいやましいことを露見させつつ、目撃の事実を話したとしても誰が信じてくれるというのだろう。


 名波に直接聞くのも時期尚早だ。なんの証拠も無いし、しらを切られたらそれまでだし。


 俺は今は見守るしか出来ない。



 俺の真夏多さんを描いた人物画も、もうこれ以上仕上がりを伸ばすのも限界だ。3年なのに、いつまでも意味も無く部活に顔出すのも憚られるよな‥‥‥


 そんな俺の苦悩も知らず、定時終了時刻の12時になると、真夏多さんは急いで帰って行った。


 今日も錦鯉鯉研究部の鯉の餌やり当番らしい。



 俺がカーテンの隙間から中庭を見ると、名波が池を見ていた。


 再び中庭を見た時には真夏多さんもやって来ていて、明るい日差しの中、二人で仲良さげに餌をまいていた。


 ──らぶらぶか。星野の言う通りだな。



 名波索。


 こうして見ていると、あの光景は俺の夢だったように思えて来る‥‥‥






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