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内気少女といにしえの恋  作者: メイズ
諸行無常な恋をして
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素敵な先輩〈ミア〉

 そこには見たことない男子が鯉を眺めていた。というか、鯉に話しかけていた。


 変わった人ね。


 私の姿を見て、なぜか一瞬驚いたような顔になった。


 もしかして、私に虫でも止まっているのかと思って私は引きつってしまったけど、そうではなかった。



「やあ、君は錦鯉研究部に入ってくれた子だね? はじめまして。僕は部長の名波索です」


 部長なのに今日初めて会った。ほとんどミチルが部長だし。あれ? そう言えばミチルは部長に誘われて入部したって言ってた。‥‥‥と、言うことは、ミチルを錦鯉研究部に誘ったのってこの人だよね? たぶん。


 爽やかな笑顔。優しそうな人。


 私も自然と緊張が解ける。


 

「私は1年の真夏多ミアです。今日は餌の当番なんです」


「ああ、土方くんから聞いたよ。僕は名前だけの部長でごめんね。でもこうして鯉の様子はいつも見ているんだよ。大事な子たちだからね」


「いつも見てらしたんですね。私、知りませんでした」


「ん~、真夏多さんにも軽く説明しておこうかな。せっかくの機会だし」



 名波先輩は一匹一匹の鯉の名前と性格を語り出した。



「あの赤白の小さい子は千歳(ちとせ)、おてんばで元気。このオレンジの大きな鯉は業平(なりひら)、強くて優しい。あっちの鮮やかな赤の鯉は─────」



 本当に鯉が好きみたい。一生懸命説明する先輩を見ていたら私は自然に微笑んでいた。


 だってこんなに素敵な人が鯉に夢中なんてちょっと面白いわよね。



 すぐそこにある美術室の窓が気になる。


 甲斐先輩、まさか本当に窓から私を見てる訳じゃないよね?


 窓は閉じてるし、窓辺に人影は無いみたい。



 私、ふっと甲斐先輩のことが頭をよぎって、よそ見して暗い顔になってしまっていたみたい。



「あっ、ごめんねっ。真夏多さんが聞いてくれるからって僕はつい調子に乗って鯉の話を延々と‥‥‥‥」


 いけない! 名波部長に気を使わせてしまったわ。でも、名波先輩が焦った顔、かわいい‥‥‥



「えっ? そんなことありません! 名波先輩の話はとても面白いのですが、ちょっとこのあと憂鬱なことがあって‥‥‥‥」


「‥‥憂鬱なことってなんだろう?‥‥‥困ってるの? もし話せたら僕に言ってみて。一応部長だし、たまには後輩部員たちの役に立たないとね!」


 名波先輩はにこっとして首を少し傾げてから私の目を見た。その目はとても神秘的なゴールドがかった薄い色の瞳に見えた。眩しい日差しのせいかしら。


 私はなぜか名波先輩なら信頼出来る気がして、先ほどの強引な甲斐先輩の誘いのことを話した。


 聞き終わると名波先輩は、私の顔を見ていたずらっ子みたい、ニカッと笑って親指を立てた。



「僕に任せていいよ。君はもうこのまま帰っていい。この容器は僕が片付けておく」


 そんな優しいことを言ってくれたの。


「いえ、生物室の前のロッカーの空きに私のリュックを入れてあるので、私が。それに、このまま帰ってしまったらどうなったか気になります」


「そう、ならロッカーの前で待っててくれる?」



 私が生物室の前で待っていると、5分もしない内に名波先輩が戻って来た!



「君には錦鯉研究部の仕事があるからって断っておいたよ。今後も誘わないように言っといたから。また困ったら僕に言えばいい。君は貴重な錦鯉研究部部員だからね」


 そう言って名波先輩は微笑んだ。



 私、今初めてあったばかりの男子の先輩とこんなに楽しくお話したり、まして相談事をして助けてもらうなんて。


 ──初めてだわ、こんなこと‥‥‥


 そうだ、あさっての花火、思いきって名波先輩を誘ってみようかな? ダメだったら仕方ない。今日中に星野さんに断れば気を悪くされないわ。ミチルは今、家族旅行中。他に誘う人なんていない。



「あの、名波先輩。あさっての木曜─────」



 すっごくドキドキした。泣きそうなくらい。


 かなりしどろもどろになってしまった。

 


 私は、突然こんな誘いを男子の先輩にするなんて、今までは考えられなかったから、この大胆さに自分でも驚く。



 私の誘いを受けて、先輩は少し困ったような顔になった。


「いえ、無理ならいいんです。急にごめんなさいっ!」


 私は顔がめちゃくちゃ熱くなってうつむいてしまった。


 もう、ここからガッと駆け出して逃げたい!



「いや、僕は構わないけど、君のことが心配で‥‥‥」


「え? 私のことが心配?」


「あん‥‥そう、‥‥‥‥‥あんまり僕と一緒にいたら君が疲れてしまうかもしれないし。まあ、僕も気をつけるし、半日くらいならどうってこと無いと思うけど‥‥‥‥僕は君が心配で」



 私が先輩に気を使って気疲れするんじゃないかって気遣ってくれているんだわ。


 優しい人。



「私は大丈夫ですけど?‥‥‥あの‥‥‥だったら私たちは早めに帰ればどうですか?」


「ああ、それでいいのなら」


 名波先輩は優しい笑みを私に返してくれた。


 素敵な笑顔。



 私たちは落花生(おかき)駅の前で、夕方の7時に待ち合わせすることした。先輩は事情があって今はスマホを持っていないらしい。連絡先を交換出来なかった。


 修理中とか? 親に禁止されちゃったとか? 


 ううん、本当は持っているのに隠しているのかも?


 一回話しただけの人となんて、繋がらない派の慎重な人なのかもしれない。



「じゃ、木曜7時に落花生駅の前で」


 名波先輩は私に右手を上げてそう言うと、渡り廊下への角を曲がって消えた。


 普通教室棟に向かったということは、図書室で受験勉強している最中だったのかも。受験生を誘ってしまって悪かったかな‥‥‥




 私は自分のことしか考えてないことに気づき、反省したけど、名波先輩と出かけることになって嬉しくて、勝手に顔が笑ってしまって、今頃またもやドキドキしてしまった。



 今の私の顔は誰にも見せられない! 





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