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内気少女といにしえの恋  作者: メイズ
城跡に立つ高校
23/76

頼れる友だち

 ミチルと中村から別れた後、リアスはルイマと中庭の池の縁に座っていた。

 

 丁度そこだけ木漏れ日程度の木陰になっていて、もう夏本番とも言える日差しからは多少は逃れていた。影の色が濃い。

 

 滲み出る汗を手の甲で拭いながら、リアスから文句が出る。

 

「なんでこんなとこで話そうと思うんだよ? キリル。暑すぎるだろうがっ!」

 

「しょうがないでしょ? 秘密の話なんだから!」

 

 

 確かに暑すぎて周りに人はほぼいない。向こうの校舎の壁際の方に後ろを向いた男子と女子が二人で立ったまま、なにやら熱く語りあっているだけだ。

 

 ーーーよくもあんな直射日光浴びながら立ち話出来るよな。

 

 リアスは男子のシルエットに見覚えがあるような気がしたが、人のことは、最早どうでもいい。

 

「で、なんだよ?」

 

 リアスはなぜか汗一つかいていないルイマの顔を見た。

 

「‥‥‥まず、これを見て」

 

 ルイマは自身が撮影した、那津姫がVサインしている写真を渡した。

 

「これは本物の心霊写真なのよ。私が撮ったの」

 

 リアスが呆れた顔でルイマを見た。

 

「‥‥‥こんなフェイクにオレがひっかかると思ってんの? 俺で遊ぶためにこんなクソ暑い所に呼び出したのかよ? ふざけんな。‥‥‥そっれにしても、お前作るの超センスナッシングじゃん」

 

 写真をルイマに返しながら言った。

 

「‥‥‥私のこと信じてくれないわけ? 酷い。こんないたずらのためにわざわざあんたなんか呼び出すわけないでしょ! 私にはザッカリーだけが頼りだったのに‥‥‥」

 

 ルイマの瞳が潤んでいるように見えた。

 

 

ーーーマジなのか? この写真。どういうつもりか知らないけど、いつも強気のキリルがオレを頼るなんて、なんか気分良くね?

 

 リアスは、この写真がどうこうより、ルイマに頼られたことが嬉しく感じた。

 

 

「しょうがねぇな。で、これ見てどうすりゃいいの? オレ」

 

「じゃあ、一緒に来て」

 

  

 

 ***********

 

 

 

「オレ、ここあんまり好きじゃないって言ったよな?」

 

「でも、この間は呼んでもいないのに来てたよね?」

 

 ルイマとリアスは図書室の前まで来ていた。

 

 

 ーーーー島田先生はいるかな? 突然来てしまったけど‥‥‥

 

 ルイマはリアスを引き連れ図書室の戸を開けた。

 

 島田はカウンターにいる図書当番のポニーテール女子と立ち話をしている所だった。

 

 このカウンター業務の当番の女子には幾度と無く見覚えがある。

 

 

 島田は入って来たルイマにすぐに気がついて声をかけた。

 

「切取さん。久しぶりの登場だね。どうしたの?」

 

「あの、夏休み前に解決したい問題があるのですが、お話を聞いて頂いてもよろしいですか?」 

 

「‥‥‥もちろんだよ。今日のお供は座家くんなんだね。こちらの部屋で聞こう」

 

 島田は、ルイマを見て、もしかしてミアにまた問題が起きたのではと思ったが、ルイマがリアスを連れて来たことで、何か別の話だろうと察しをつけた。

 


 ルイマは島田の後ろに続いた。

 

 リアスがルイマに耳打ちした。

 

「おい、見ろよ、図書委員の女子がお前のこと睨んでるぜ?」

 

 

 

 「失礼します」

 

 

 かつて知った部屋で、さっさと折り畳み椅子を出し、ルイマはリアスと島田の向かい側に着席した。

 

「今日はどうしたのかな?」

 

 島田はチラリとリアスを見た。

 

「先生、この写真を見て下さい」

 

 ルイマは、テーブルの上を滑らすように例の写真を島田の前に提示した。

 

「‥‥‥‥‥これはっ! くくっ」

 

 島田は深刻そうな顔をしつつも目が笑っている。

 

「‥‥先生、こいつは真剣なんです。ちゃんと聞いてやって下さい!」

 

 リアスは島田に抗議した。

 

 島田もきっとフェイク写真だと思っているのだろうと思ったが、ルイマはマジらしかったので敢えて同調しておいた。

 

 ーーーオレ、頼られているわけだし。

 

 

 ルイマはリアスの真剣な横顔を驚いて見た。

 

 ーーーザッカリー、私のために‥‥? ちょっとはカッコいいとこあるのね。

 

 

「ごめんなさい。座家くん、切取さん。ええと、僕はふざけている訳じゃありませんよ。これはまさしく那津姫の仕業だね」

 

 島田はちろりとルイマの目を見てから聞いた。


「えーっと、切取さん、約束は守られている?」

 

「はい、もちろんです」

 

 

 ルイマはリアスには、蓮津姫やミアのこと、松ぼっくりのこと、一切話してはいない。ミアにさえ。島田とミチルとルイマの約束はきっちり守られている。

 

 

「なんだよ、キリル。オレを頼っておきながら何のことだよ?」

 

「それはザッカリーには関係ないこと。でもこの件についてはザッカリーと先生と私の3人の秘密よ。誰にも言わないでね。ミアにもよ」

 

「ああ、勿論、他言無用だ」

 

 島田が頷いた。

 

 ルイマはこの写真を撮った時のこと、それ以来大好きな写真を撮るのに臆すようになってしまったことを話した。この写真には何か意味があるのかと密かにずっと怯えていた。

 

 

「これは、君に辛い思いをさせて‥‥‥那津姫も罪深いことを」

 

「やはりこれは那津姫様なんですね」

 

「なぁ、さっきから先生もキリルもこの心霊写真、全肯定してるよな?」

 

「おや? 座家くんはそうではないのですか? さっきは僕に真剣に見てくれって言ったのに」

 

「っま、そうだけど‥‥‥」

  

 

 リアスは蓮津姫を見ていない。島田が霊が見えることも知らない。ミチルの父との繋がりも。

 

「座家くんは信じられないかもしれないね。でもこの学校に那津姫という幽霊が確かにいるんだ」

 

 

「‥‥‥‥」

 

 リアスは、そういえばなぜ、自分が図書室が苦手なのかを思い出した。

 

 ーーー幸い今は何も感じないけれど。まさか本当に? いやいや、さすがにそれは。

 

 

「切取さんは何も悩むことはない。那津姫に悪意は無いと思うよ。だが時としてこのような人に迷惑な結果に‥‥‥これはただ写真に写ってみたかっただけじゃないかな。よく生徒がこんな風に写真におさまってるでしょう? 真似しただけだと思うよ」

 

「‥‥‥は?」

 

「ふふふ‥‥‥那津姫は好奇心旺盛でね。たくさんいたずらをしているけど、人間は気がつくことなんてほぼないからね。切取さん、那津姫をも意図せず写すなんて、すごく気迫のこもった撮影をしているってことだね。すばらしいことだ」

 

「オレはにわかには全肯定して信じらんねぇけど‥‥‥‥‥。でもさ、褒められてるぜ? キリル。先生によるとどうでもいいことだったみたいじゃないか。悩んで損したな。それにしても‥‥‥島田先生って何者だよ?」

 

 リアスは島田をまじまじと見た。

 

「私はただの司書教諭だよ。ただし、霊感が少しばかり備わっている‥‥‥ね」

 

「座家くん。切取さんを助けてあげてね。彼女は強くてしっかりしているから1人で問題を抱え込んでしまう。私は君のように側で見ていてあげられない。僕の助けが必要ならばその時は言ってくれればいい。僕は生徒たちのためにここにいるのだから」

 

 

 

 

 二人は図書室を後にした。

 

 廊下を歩きながらリアスが尋ねた。

 

「なあ、キリル、普段困った時って誰に相談すんの?」

 

「え? そうだなー、それにもよるけど、今んとこわりと土方に相談するかも。土方だって、そう、呼び出しの手紙の時は最初に私に相談して来たじゃない? お互い様よ。友だちなんだから」

 

「‥‥オレはそういうとこもミッくんには敵わないな‥‥‥」

 

「あら? そんなに卑下することは無いよ? 私、今日はザッカリーがいてくれて本当に助かったし。だって、私が秘密をばらせる人は数少ないのよ?」

 

「でも、今日俺いなくても先生と話せば解決してたことだろ」

 

「何言ってんのよ。だからザッカリーが必要なのよ。ミアにも話せなくて、土方にも頼めなかったら、私にはザッカリーしかいないじゃない」

 

「いやっ、そのっ、オレしかって‥‥‥なんだよ、照れるじゃん」

 

「あの部屋で私が先生と二人きりになってみなさいよ。あの図書委員見たでしょう? あの図書委員のポニーテールの先輩、島田先生推しなのは明白でしょ? 変に勘ぐられて逆恨みされたらどうすんのよ。"李下に冠を正さず" よ」

 

「‥‥‥そこかよ」

 

「ふふん、でもね、今日はザッカリーのこと結構見直したわ。本当にありがとう。お礼に‥‥‥もし、ミアに振られた時には、私が、や・さ・し・く慰めてあげるから」

 

 ルイマがスカートをひらりんチラリとさせた。 

 

 

「ふぁっ? ばっばか! どういう意味だよっ? はしたないことすんな、ったく。また誰か見てたらどうすんだよ」

 

 耳と首筋を赤く染めたリアスが周りをきょときょと見回す。

 

「あ、今いやらしいこと考えたでしょう? ばーか。ふふん」

 

 ルイマはリアスを置いて、スタスタ歩き出した。

 

 

「‥‥‥くっそ、今の言葉忘れんなよっ!」

 

 

 7月の空はまだまだ明るいままだった。

 

 

 

 

 

 

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