美人 & イケメン女子
今日も行っきますよ~♬
(*ノ゜Д゜)八(*゜Д゜*)八(゜Д゜*)ノィェーィ!
《登場人物》
1年1組 真夏多ミア‥‥‥内気な美少女
切取ルイマ‥‥‥イケメン女子、小6から密かなるミア推し(キリル)
2組 土方ミチル‥‥‥ミアの幼なじみ、ミアに恋心 (ミッくん)
8組 座家リアス‥‥‥わりとイケメン、成績悪し 中1からミアに片想い(ザッカリー)
中村ヒトミ‥‥‥陽気な男子
砂区 愛 ‥‥‥‥パパラッチ女子
5月、ゴールデンウィークも過ぎ去り、生徒たちの緊張もほぼ解けて来ている。昼休みの教室の中では、あちこちでおしゃべりの輪が出来ていた。
ここはザッカリーこと、座家 リアスのいる8組。
「なあ、ザッカリー、知ってる?」
「何を?」
自分の席に座ってスマホをいじっていたリアスは顔を上げた。
「1組にさぁ、すっげぇ美人がいるんだってさ」
リアスの前の席の中村ヒトミが、話を振って来た。
彼は中肉中背の見かけは ただただ普通の男子。そして陽気なムードメーカーで話し好きな男子だった。席が後ろのリアスには特にしょちゅう話しかけて来る。
中村は横向きから、よいしょ~と、大股を広げて自分の椅子の背もたれを跨ぎ、後ろのリアスの方を向いた。
「‥‥‥でな、その美人の横にはいつもイケメン女子がいて二人で目立ってるんだって。それって二人とも才色兼備ってヤツだよ。見てみて~よな。でもさ、こんな8組なんかからだと遠いし、未だ、まず見かけることすら無いよな」
「あ、それ私、見たことあるよ~」
横からクラスの女子の砂区 愛が入って来た。
「‥‥‥そのイケメン女子と座家くんが話してんのを」
ふふふん、と興味深々の目をリアスに向けて来た。
「えっ、な、なんだよ、急に、砂区さん‥‥‥」
砂区の言葉に反応して中村の目が はっと大きく開かれた。
「なんだよ、じゃないよ。ザッカリー! イケメン女子と友達なのか? 特別選抜の1組のやつらだぞ?」
「‥‥‥1組に友だちはいるけど‥‥‥砂区さん誰のこと言ってんのかはっきりわかんないし‥‥‥」
リアスは出来れば砂区には言いたくは無い。だって、彼女は‥‥‥
「ふっ、女子同士のクチコミを甘く見てはいけないよ。入学ひと月も過ぎれば私のネットワークは大筋出来上がって来てるんだから」
ーーー『見た』って言われても‥‥‥
別に隠す事でも無いんだけど、キリルと話していただけのことで話題にされちゃうなんてなんか、こぇーじゃんか。
それにこの砂区さんは、ヤバい女子だと思う。地雷だ。深く関わると痛い目に遭いそう。この噂好きはハンパねぇ‥‥‥
一瞬の内にそんな思考がリアスの頭をよぎった。
だが、ネタを収集する砂区は、目の前の情報源を おいそれ逃がしはしない。
「あの背が高くてスラッとしたショートカットの子よ。朝、靴箱のところで座家くんと話してるの、私、何回か見かけたけど? それに放課後、特別教室の前で一緒にいたの見たよ」
首を、いかにものポーズで傾げる砂区の、『私は知っているのよ?』‥‥の、薄ら笑いの浮かぶ口許と、上から見下ろしてくる目力の圧にリアスは屈した。
「‥‥‥えーっと‥‥‥たぶん切取 ルイマさんのこと?」
「へぇ~♪ 切取ルイマさん、っていうのね! 名前も素敵ね。で、なんで座家くんと友だちなの?」
ーーー根掘り葉掘りが始まりそうじゃん。逃げろっ!
リアスの中に警戒警報がキンコン鳴り始めた。
「俺ら中学が同じなんだ。偶然委員会も同じで。それだけ。俺、今の内トイレ行くから‥‥‥」
リアスは教室を出る時振り向くと、砂区と中村はそのままお喋りを続けている。他の女子も二人加わって何やら話題を変えて わいきゃい盛り上がっているようだった。
「ハァ~‥‥‥やれやれってか」
つい、独り言が出てしまった。
リアスがルイマと話していた場面として思い浮かぶのは‥‥‥
ルイマ、ミア、ミチルとは、駅も同じだったし、入学以来、朝のホームで個別に偶然見かけること数回。だからって、偶然会ったとしてもリアスはミチル以外とは学校まで連れだったりしない。
ルイマと朝の駅で会ったとしても、一言おはようと挨拶してそれだけだし、ミア一人の時のばったりシチュエーションに至っては、悲しきことに、リアスは彼女にシカトされているというか、自分は彼女には透明人間、もしくは避けられているようにも感じていた。
ーーー砂区さんが見たって言うのは多分こういうのだろ?
学校に着いてから、ばったり靴箱辺りでルイマと出会って、『あれ? 俺ら同じ電車に乗ってたんだね』ということが数回あって、多分その時のことを砂区は言っていたと思われた。
放課後、ルイマと話してたのは、公報委員の仕事でのことに違いない、とリアスはわかっている。
公報委員の第1回の集会で、リアスとルイマはお互いが公報委員になったことを知った。別に示し合わせた訳では無い。
ルイマは、入学直後にも関わらず、誰よりもこの広報委員の仕事に積極性を現した。
ルイマは自身は撮影に自信があることを顧問にアピールし、学校のHPや、広報紙へのより良い記録の為、という口実で、構内で自由に写真を撮影する許可を特別に獲得した。
これにて、校内のスポーツ祭、文化祭等のイベント時にも、広報の腕章さえ着けていれば、一般生徒立ち入り禁止の場所も自由に入って撮影出来る。
リアスは彼女から撮影助手、ということに任命されている。だからと言って今のところ何のお呼びもかかってはいないけれど。
リアスは帰りのSHRが終わった後、すぐに2組に向かった。ミチルにミアの最近の様子を聞きたかった。8組まで流れて来るミアとルイマの人気ぶりの噂が気になっていた。
ーーー真夏多 さんの存在が周りに知れ渡って行くのは仕方がないことなのかも知んないけど‥‥‥
人気になればますますオレから遠ざかってく気がする‥‥‥
オレの心の中の彼女、真夏多さん。高嶺の花なのはわかってる。だからせめて近くで見守っていたい。そのためにオレは中3の1年間、必死に死ぬほど勉強してここへ来たんだ。
2組はまだ、SHR中だったが、少し待っていると椅子を引く音が ガタガタ聞こえてきた。
終わったらしい。
ガラリと引き戸が開いて、先生がさっさと出て行った。その後すぐに続いて数人、ガヤガヤと教室から出て来た。
リアスは開いた引き戸から中を覗きこんだ。
「おーい、ミッくん! オレ」
リアスは扉から手を振った。
一番前の教卓の真ん前の席で、リュックに教科書を入れていたミチルが顔を上げた。
「ザッカリー! どうしたの? ちょっと待ってて。すぐ行くから」
ミチルが人懐こい笑顔を返した。