親友とリスペクト
島田との秘密会議はとりあえず一段落した。
ルイマにはまだ聞くべきことがあったが今は良しとした。
ルイマとミチルと島田が話し合った結果、ミアにも蓮津姫様のことは言わないことに約束した。
次の日の昼休み。ルイマは中庭にミアを誘った。
中庭の真ん中には、教室の半分位あろう程の、大きな長方形の人工池があった。
錦鯉や金魚が泳ぐ、レンガ張りの水槽池の縁に座り、二人の少女は語らう。
すぐ横の角に生えた一本の大木が、その繁った葉っぱでまだら模様の日陰を作っている。
風が吹くたび、チラチラ眩しい光が 彼女らの上を掠める。
「ミア、私が学校の怪談を調べて七不思議をまとめたのがいけなかったのよ。ミアが何かに憑依されたこと。私は人が入ってはいけない領域に触れてしまったのかもしれない。ミアやみんなに手伝うように頼んだ私が間違っていたんだと思う。ごめんなさい」
ルイマはミアに異変が起こったのは自分のせいだった可能性を示した。
「‥‥‥それは変ね。だってミッくんとあの、なんだっけ、あ、座家くんには何にもないんでしょう? あれはキリルのせいじゃないと思う」
「あれは怪異から私への警告だったのよ。そう思うわ」
ーーー私、ミアを安心させてあげたい。出来るかな?
「‥‥‥私はね、そうは思わない」
ミアは後ろを振り向いて、池に浮いている桃色の蓮の華をぼんやり眺めながら言った。
「じゃあ、ミアはどう思っているの?」
「‥‥‥私ね、多分心の奥ではモデルに誘われたことは嬉しかったの。でも、私、臆病で弱虫で‥‥‥。きっと、今までずーっと無意識に押し込めていた心がああいう形で現れたんじゃないかな? これってあながち間違ってはいないと思う。キリルのまとめた七不思議には関係無いよ?」
ミアはルイマに申し訳なく思っている。そして心の中を素直に言える友だちがいてくれることに感謝していた。
「‥‥‥ミアがそう言うならそうなのかも。じゃ、そういうことにしておこっか。もうあれからは何も起こっていないしね」
「うん、そうよ」
ミアはルイマに向けてふわりと微笑んだ。
「美術部の方はどうなの?」
「うん‥‥最初はいやいやだったけれど‥‥‥今は楽しいの。描いてもらうことが。美術部の人達はすごく親切よ。私の絵もみんな真剣に描いているし。私、冷やかしで呼ばれたのではないかと思っていたけど、全然そうではなかった。部員の人たちは皆、良い絵を描こうと必死なの。私は今まで意識過剰だったみたい。頑なに周囲にガードを固めていた。周りの人に偏見を持っていたことに気づいたの」
「ミアはとても綺麗だわ。それが元で、今まで嫌な目に何度も遭って来た。だから目立たないように気を付けていたのは知っている。でもね、ミアはそれでもどうせ全然目立ってしまうの。だから、周りの事は気にせず、興味のあることはどんどんやっていく方が良いと思うよ」
「ありがとう。キリル‥‥‥。私、変われるかな‥‥‥?」
ミアはルイマの肩にそっと頭をもたげた。
ミアのストレートの黒髪がさらりと揺れる。
ルイマの口許に笑みが浮かんだ。
「もちろんよ! ミアはもっと視野を広げるべきよ。お互いにリスペクトできる人はこの学校にもたくさんいるはずよ? まだ知らないだけで」
「うん、きっとそうね。‥‥‥キリルがいてくれて良かった。キリルは私にとって、とても特別だわ。私、変われるならキリルみたいな人になりたい‥‥‥。私、キリルをリスペクトしてる。きっとずっと前から‥‥‥‥」
ーーー私だって。
私はミアに特別な想いを寄せているの。
‥‥‥でもこれは秘密よ。多分ずーっと永遠に。
今はミアの親友として、大好きなミアの側にいたい。お互いを高めながら。
休み時間の終わる予鈴が鳴った。