美しく生まれついた娘
3日目の島田との秘密放課後会議が始まった。
今日もミチルとルイマは昨日同様、二人並んで座っている。
「先生、昨日は肝心なところで途切れてしまって‥‥、なぜ蓮津姫はミアに乗り移ったのでしょうか? それがわからなければ不安が残ります」
ルイマの不安はまだ解消されてはいない。
「私はこの図書室で何回か見かけた、とても綺麗な顔立ちの女子生徒がいてね、それがミアさんだと知ったよ。その子、似ていると思わないかな? 蓮津姫に」
「系統は同じかも。確かに似通った美しさだと思います。‥‥‥でも、そんなことが取り憑いた理由ですか?」
「まあ、それもあるかもしれないが‥‥‥‥僕もはっきりとは言えないけれど、蓮津姫は珍しく気紛れを起こしたみたいだ」
ルイマは顔を曇らせた。
「霊は気まぐれだし、人間がコントロールできるものじゃない。生きてる人とは違う力を持っているからね。一般的に知られるように、怒らせたら祟られる事だってある。通常はこちらが手を出さなければ向こうだって知らんぷりしているだろう。まあ、那津姫に限ってはあてはまらないけど」
ミチルが不満げだ。
「では、ミアちゃんが蓮津姫様に何かしたみたいじゃないですか」
「いや、今回は、その『通常』ではない方だ。蓮津姫が勝手にミアさんに興味を持ったんだ。たぐいまれな美しさを持っているのに、その美点を隠したいかのように怯えて日々過ごしているミアさんを蓮津姫様は歯がゆく思っていたようだ」
「怯えて?‥‥‥そう見えてていたんだ‥‥‥」
ルイマはふっと腑に落ちる所があった。
「それは蓮津姫の生前の経験に基づいているんだろう。蓮津姫はこう言ったんだ。
『あの娘には母君の教えが無かったようですね。美しき者が第一にすることは、先ずは周囲に麗しさを見せつけ、敬わせ、皆を操ることなのです。さすれば敵は近付けぬ。それでもふりかかる悪意には刀をむける気構えがいるのです。さもなくば、我が道を切り開けず、ただただ翻弄され、搾取され、不幸な人生になるのみ。だからわたくしがきっかけを与えたのです』とね」
ーーー美しいと認められし者はそれなりの身構え心構えがなくては身を護れぬ。
美しきは引き寄せる。
拐かそうとする者、利用して益を得ようとする者、対抗して悪意をむける者、羨むあまり貶めようとする者、力ずくで思い通りにしようとする者。
さまざまな悪意が取り巻いてくるのです。
自分の意思無く誰かに翻弄され続けるのならば、何のため生きるのか‥‥‥
「蓮津姫は生前の我が身をミアさんと重ねて見ているのだよ‥‥こんなことは僕が知る限り初めてだ」
「なんだか蓮津姫はひどいトラウマがあるようね。幽霊になっても」
「幽霊ってさ、強い思いがあるからなるんだろうからそういうものかもね‥‥‥」
ミチルとルイマは なんとなく理解出来たような、出来ないような、スッキリとは行かないけれど、ミアの憑依のことについてはこれ以上はもう何も出ないことはわかった。
「蓮津姫はミアさんにきっかけを与えたと言っていた‥‥‥だからミアさんが自分らしく殻を破ろうと努力し始めたのならもう、問題は無いのでは無いのかな? 彼女はいやいやながらでも美術部に通っているんだろう?」
「はい、放課後は毎日行っています」
「後は様子を見るしかないな。いずれにしても何か起こるのはほぼ学校内でだろう。その時は私にすぐ知らせてください。力になれるだろうから」
ルイマはミアが小学校のときから目立たぬように気を使って生きてきたことを知っていた。ミアは人とはなるべく関わらないようにしていた。他人からの嫉妬と悪意と利用されることを避けるために。
確かにそれではミアは自分らしく自由に生きて行くことは出来ない。
ーーー同じく美しく生まれた蓮津姫様は、ミアがこのままでは不幸になるとみて、放っておけなかったのかしら?
ミアは変わらなければならないという蓮津姫。
私は大好きな大好きなミアに何をしてあげられるの?
私が庇い過ぎるのはミアの為にはならないって警鐘だったの?
ねぇ、蓮津姫様。そうなのですか?