高校生活、始まる
《第1章 城跡に建つ高校》
落花生 高校入学の同じ中学出身の男女4人。
本日、美少女の真夏多 ミア、イケメン女子 切取 ルイマ、弟キャラ土方 ミチル、見かけだけはイケてる座家 リアスによるラブコメディ、始まります。
( ^-^)ノ∠※。.:*:・'°☆ うぇーい!!
「えっと‥‥‥僕は2組か‥‥ミアちゃんは‥‥えっと‥‥‥」
土方 ミチルは幼なじみの真夏多 ミアと同じクラスになれることを、二人の合格を知った直後からずっと祈っていた。
柔らかな日差しの中、真新しい制服に身を包んだ新入生たちが、昇降口のガラスに張り出されたクラス分けの表に目を走らせていた。
4月。桜は既に散り初め、時折、ひらひら視界をすり抜けてゆく。
数歩離れた向こうには、数人固まってミアをチラ見してる男子生徒がミチルの視界に入っていた。
ーーーやっぱ、いるだけで目立つよね。ミアちゃんは‥‥‥
「‥‥‥あら、私は1組よ。よかったわ。ミッくんと同じクラスじゃなくて」
ミアは自分より背の低いミチルをチラリと横目で見ながら、悪戯な可愛らしい笑みを送った。
「えっ! どういうこと!? 酷いよぉ。ミアちゃん‥‥」
「うふふ、だって、教科書忘れたら、ミッくんに借りに行けるもの。私がうっかりした時他に誰に借りに行けばいいの?」
「なんだよー、それ!」
ここ、落花生高校はミアもミチルも第一志望校であった。
ミチルがここに進学したのは、親友であり、でも密かに女の子として意識もしていたミアの志望校、ということもあったが、ここは自身の両親の母校ということもあり、ミチルとしても尊敬する両親の後を追うように自 らここを志望していた。
「おっはよ~う! 土方 、えっと、真夏多 さん、何組だった?」
切取ルイマがふいに横から二人に声をかけて来た。
彼女は、彼らと同じ日良豆 中学校出身で、フォトグラファーを目指しているクール系女子だ。略して通称キリル。しかしながらそう呼べるのは、彼女が許した限られた人だけ。
中学では、広報委員会で写真班に所属し、委員長も務めていたしっかりものだった。
宝塚歌劇団にいてもおかしくないスラリとしたスタイルの持ち主だ。
実は彼女は、美少女ミアの隠れファンで、密かにミアの写真を収集している。
「おはよう! キリル。僕、2組だよ。キリルは?」
ミチルとルイマは中学では3年間同じクラスで、気心も知れていた。
ミアと幼なじみのミチルから、彼女の情報をさりげなく聞き出そうとして、ルイマの方から近づいて親しくなった。
だが、ミチルは元より素直で天真爛漫なかわいい弟キャラだったため、周りから好かれていて、ルイマもそんなミチルはミアのことは抜きにしても、今では気に入った友だちの一人になっていた。
「おはよう。切取 さん。私は1組」
ミアは自分より少し背の高いルイマの目をちらっと見て言った。
ルイマはまだ、ミアとはミチルを介した友だちの友だちであり、顔見知りの域をほぼ出てはいない関係だった。
ーーー今日こそ真夏多さんと親しくなる千載一遇のチャンス‥‥‥最初が肝心よ!
ルイマは昨夜、ベッドの中でイメトレした通りに立ち振る舞う。
「あの、真夏多さん‥‥ "切取さん" じゃなくて、キリルって呼んでもらえないかな? 私たち小学校の時から顔見知りだもの。落花生 高校では知っている人は土方と真夏多さんとオマケ1くらいしかいなさそうだし、だから仲良くして欲しいの‥‥‥‥」
ルイマは自分でも、私って気が強すぎかしら‥‥‥と、思ってはいるくらいなのだが、密かに憧れているミアの前では全くそうでは無くなってしまう。
思い切って言ってはみたものの、ミアがどう反応するのか内心びくびくだ。
「‥‥‥そう、じゃそう呼ばせてもらうね、キリル。で、キリルは何組だったの?」
ルイマにはミアに刹那、戸惑いが走ったように思えたが、僅かばかりではあるけれど、彼女がニコリと微笑みを浮かべて承諾してくれたことに、心の中でガッツポーズした。
「わっ、私も1組よ! 私、真夏多さんと一緒なんてすっごくうれしいわ!」
首筋を赤く染めながらルイマが言った。
ほんとはミアが同じクラスということなど、とっくに確認済みだったのだが‥‥‥‥
「私も。キリル、よろしくね」
ミアがルイマを見て微笑した。
ルイマは嬉しさのガッツポーズの代わりに右の手のひらをギュッと握った。
自分が小学生時代からミア "推し" 、であることは、もちろん誰にだって絶対の秘め事なのだから。
「いいなぁ‥‥僕も一緒だったら良かったのに。ついてないよ。まあ、8クラスもあるんだからしょうがないか‥‥‥」
ミチルが肩を落として言った。
「あら、ついてるとか、ついてないとかの問題ではないのよ!」
出来の悪い弟を諭すようにルイマが言った。彼女はミア以外にはナチュラルに厳しい。
「えっ? どういうこと?」
さっぱりわからない風にミチルが聞いた。
「知らなかったの? このクラス分けは上下だけは成績で分けられているのよ。1組は成績の上位8分の1の生徒、特別選抜クラスよ。8組は下位8分の1の生徒、努力強化クラス。後は均等って聞いた。新しい校長が来て今年から変わったらしいよ」
「そうなの?」
驚いてミチルはルイマを見た。
「そうよ。ほら、あそこにザッカリーいるわ。だからザッカリーは当然8組よ。さっき聞いたし。塾の顔見知りの子にも聞いたからたぶん間違いでは無さそうよ」
3人揃って見た方向には、背の高い男子が、ばつの悪そうな顔でこちらを見て立っている。
彼も3人と同じ中学出身だったが、この上位に位置する高校を受験するには、相当なギャンブラーだと言わざるをえないような成績の持ち主だったのだ。
ルイマは、世話がやけるわね‥‥と独り言を言いながら手招きした。
「ザッカリー、こっち来て! ‥‥‥えっと、日良豆 中の子たちは、私が知る限り多分この4人だけだと思うわ」
「お、おはよー、皆さんお揃いで‥‥」
照れ笑いを浮かべつつ、座家 リアスが3人の前にやって来た。
「真夏多さん、これは座家リアスくんよ。中学は一緒だから見たことはあるわよね。ザッカリーは土方とも友だちだし」
ミアはちらりと一瞬だけ上目でリアスを見て、小さく会釈した。
「そして、ザッカリーは前から知ってると思うけど、この子は真夏多ミアさんよ」
リアスはぶっきらぼうにミアにペコリと頭を下た。
「は、初めまして。オレ、座家リアスです。オレ、とてつもなく奇跡を起こしてここに受かったんだ。よろしく!」
リアスは、中1の時、体育祭で見かけた美少女ミアに一目惚れしていた。だが、ミアとは3年間何の接点もなく、遠くから憧れ続けているだけだった。
学業成績は今一つ二つの彼だったが、中3の秋、ミアがこの落花生高を志望していることを噂で聞いてから、全てを投げ捨て勉強に打ち込み、それでも落花生高校は無理ではと先生からも親からも難色を示されていたが、初志貫徹し、ギリ合格を手にしていた。
自分は体育はガチの得意だったし、美術の成績だけは良かったのも幸いしたのでは‥‥‥と自己分析していた。
その博打 とも言える勇気ある受験の戦果により今、ルイマからミアを紹介されたのだ。
彼の中学1初夏からの3年越しの想いが、少し前進した瞬間だった。
その頃から、リアスの想いを密かに全てお見通しだったルイマは、調子の良いリアスが聖女のようなミアに、何か悪影響を及ぼすのでは? と、わざわざリアスに接近して彼の動向を見張っていたのだが、結果、リアスは "特に問題はない世話のやけるバカ" ‥‥‥いや、"害は無い、わかり易い わりといいヤツ" と、判断した。
だからといって、敢えて自分が密かに慕っているミアに近づけたくはなかったが、ここまで来てしまったのだから仕方がないだろうと判断したのだ。
「初めまして。真夏多ミアです。私、ミッくんから座家くんのこと聞いたことあります」
「‥‥‥え?」
リアスは、ばっとミチルに向かった。
「ミッくん、オレのこと、何て言ったんだよっ、真夏多さんにっ! 恥ずかしいことじゃないだろうなっ?」
ミチルとルイマとリアスは中学1、2年は同じクラスだったため、リアスが先生から注意されてきた数々を目撃している。
授業中は寝ていたり、ぼーっとして昨夜のアニメやゲームの余韻を楽しんでいることが多かった。宿題もしょっちゅう忘れて注意されていた。ゲーム機や雑誌を没収されたことも何度かあった。
「恥ずかしいこと? ザッカリー、心当たりがあるんだ? 例えばいつのどんなこと? もしかしてあれとか‥‥いやあっちかな‥‥ああ、あれのこと? ふふふーん」
ミチルは内心マジに焦っているらしきリアスを見て面白がっている。
結果、リアスがミチルに飛びかかり、大小でこぼこコンビでじゃれ始めた。
「うわ~、くすぐったいよ、ザッカリー、やめて!」
「いや、まず真夏多さんに何を言ったか吐けっ! ミッくん!」
「ハァ~‥‥‥」
ルイマがこれ見よがしにため息をついた。
「もういいわよ。あんたたち! 自己紹介は終わったし、教室に行くわよ!
あきれた顔できびすを返し、ルイマはさっさと昇降口に入ってゆく。
「ふぁーい」
「待ってよ~! ミアちゃん、キリル!」
ミチルも続き、その後をリアスが何か言いたげな顔をしながらついて行く。
ルイマの後ろからミアが言った。
「ねえ、キリル」
「なあに? 真夏多さん」
ルイマが振り向いた。
「あの‥‥‥私のことは、真夏多さんじゃなくて、ミアでいいよ。私もキリルって呼ぶし‥‥‥」
ミアが恥ずかしげにふわりと微笑んだ。
「‥‥‥‥わかった! そうするね! ミア」
ルイマに満面の幸せが浮かんだ。
ーーーなんて順調な滑り出し。私、初日から最高潮だわ!
そして今日、ここから彼らの高校生活が、始まった。
次回もよろしくお願い致します m(_ _)m