4.予兆
一年後、私は学校に入学した。
貴族子女は必ず入学を求められる学校だ。
当然ながら、クアントリル殿下も一緒に入学だ。
学校生活の三年間は、はっきり言って針のむしろだった。
クアントリル殿下は私を一切顧みず、あっちの女、こっちの女と、手当たり次第に手を出している。
そしてなぜか、殿下の素行の悪さを私の責任にされる。
私が良いことをすれば、それは殿下の功績にされ。
殿下が悪いことをすれば、それは私の責任にされ。
いい加減疲れ果てた。
本当に学校生活は最悪だった。
ちなみに、家では弟がいるから学校より全然マシだった。
王宮にも王子妃としての勉強という名目で、行くこともあった。でも、行っても何時間も待たされるだけで何もせずに帰る、なんてことも珍しくなかった。
座って休めるからマシだったけど、何のために呼ばれているのかが分からなかった。
コソッと教えてくれたのはオスリック殿下だ。
「クアントリル殿下は、結婚したらすぐ君を離宮に押し込める気なんだよ。その理由付けに、今のうちから“王宮に来たのに、勉強もせずお茶だけ飲んで帰るご令嬢“だという印象を周囲に植え付けてる」
それだけ言って、殿下はすぐ去っていった。
まあ一応私はクアントリル殿下の婚約者だからね。それが、オスリック殿下と仲良くしている所を見られたりしたら、どんな難癖つけられるか分かったものじゃない。
オスリック殿下が教えてくれたことを考えてみる。
つまりは、クアントリル殿下は結婚したからといって、私と結婚生活を送るつもりはない。
さっさと私を自分の目の届かない所に送ってしまいたいけど、何も問題がないのにそんな事はできない。
だから、今のうちから私が色々問題があるんだと、せっせと周囲にアピールしているわけか。
「ご苦労様ね」
離宮に閉じ込めたいなら、素直にそう言えばいいのに。
ドクン、と心臓が大きく波打った。
ここのところ、私の中の存在が大きく何かを主張してきている気がする。
「さて、どうしたものかしらね」
つぶやいて、静かに目を瞑った。