9-9話 男女の魂の超魔術2
クラリスは必死に勇者ゼノシュを説得する案を考えていた。隣では浩太とキマロも頭を抱えている。
浩太とクラリスが魔王の遺した魔術を使ってもきっと邪神竜は倒せない。勇者ゼノシュと賢者クーヤでもダメだったのだ。一番可能性のある拓海と日菜菊がやらなければならないとクラリスは思った。
「この場に莉子さんを呼びます」
フルーズはそう言うと、右手を掲げる仕草をした。
拓海の隣が光り、拓海と手を繋いだ状態の莉子がドリームワールドに現れた。
「莉子ちゃん!」
「リコ、来たね!」
浩太とクラリスが声を上げた。莉子は浩太たちに頷き返し、勇者ゼノシュを見た。
「魔術の譲渡ができないって聞いたけど」
「愛を感じられる男女にしか、譲渡はできない……。そうでなければ邪神竜を倒せる可能性がない」
勇者ゼノシュはこれまでの言葉を繰り返した。
「だが……、君たちからは可能性を感じる。コウタとクラリスの魔術紋様を譲渡するか?」
勇者ゼノシュのその言葉は拓海と莉子を指してのものだ。莉子は何かを考える仕草をしている。浩太から拓海に魔術紋様が移っても、クラリスのものを莉子に移しては意味がない。莉子はそう考えているのだろうとクラリスは思った。
「はい。まずこの男性、拓海に譲渡してください」
「いいだろう……」
勇者ゼノシュは右手を掲げた。すると浩太と拓海の右手が光り、青い紋様が拓海の手に移った。
(でも、ここからどうするの、リコ?)
クラリスが莉子を見ると、莉子は手でフルーズに何かの合図をしている。フルーズは右手を拓海に向けた。
「そうか、交代させるのね」
クラリスが呟く。どういうわけか拓海と日菜菊は同時にドリームワールドに存在できないが、交代はできる。クラリスの紋様を日菜菊に譲渡させるためにも、それは必要なことだった。
拓海の身体が光り、次の瞬間、その姿は日菜菊に変わった。
「よし、では次は……ん!?」
勇者ゼノシュが莉子の方に目を向けて疑念の声を上げた。莉子が手を繋いでいる相手が日菜菊に変わっているのに気が付いたのだろうとクラリスは思った。
「君は……??」
「この女性は日菜菊。クラリスの紋様をこの娘に!」
「……しかし、愛を感じる男女でないと」
「私たち、三角関係って奴です」
莉子が言った。勇者ゼノシュは目を見開いた。クラリスも莉子のその発言に驚き、浩太とキマロも唖然としている。
「私とこの娘、日菜菊は、さっきの拓海に二股を許しているんです。愛の形は人それぞれ!」
「むぅ……」
「拓海と日菜菊は訳あって、この空間には同時にいられません。だから、あなたが二人を同時に見ることはできない。でも、私は拓海にとって2番目の女ですよ。魔術紋様を渡すのは私じゃなく、この娘の方が相応しい」
「う……む……。そ、そうなのか……? いいだろう。では……」
クラリスは息を飲んでそれを見守った。
(ああ、凄いなぁ。リコは、凄い……)
勇者ゼノシュは悲しき呪縛霊になっていて思考力も残っていないから、論理的な説得が通じない。勇者ゼノシュは愛を感じる男女を基準にしての判断しかできていなかったから、莉子はそれに徹したのだ。
勇者ゼノシュは恐らくヒナタ・コンビと莉子の間の愛を感じ取ったのだろうが、拓海と日菜菊が一緒にいないことを逆手に取って、莉子は嘘をついた。拓海と日菜菊の真実を勇者ゼノシュに理解してもらうことは必須ではなかった。
勇者ゼノシュは左手を掲げると、クラリスの左手と日菜菊の左手が光り、緑の紋様が日菜菊の手に移った。
「やった! さすが莉子ちゃん!!」
「いいぞリコ、よくやった!!」
「リコ、ありがとう!!」
クラリスは莉子に向かって親指を立てる仕草をした。莉子も同じ動作で返してくる。
「ホント、賢い人だ。ルビー様が気に入るわけですね」
フルーズが呟いた。
「みんな、また後で!」
莉子が言った。
騙すような形にはなったが、これでいいのだとクラリスは思った。勇者ゼノシュの悲願は最大の形で実現されることになるのだから。
「これで……良いな? 後は任せる。どうか邪神竜を……」
勇者ゼノシュがそう言うと、クラリスは意識が遠のくのを感じた。
クラリスは空中で目を覚ました。天狗に抱えられたままだ。
「クラリス!」
横から浩太の声がする。浩太は右手をクラリスに見せていた。紋様は消えている。
「成功じゃ!」
キマロが叫んだ。
「やったね!」
クラリスは紋様の消えた左手で浩太の右手をタッチした。
「よし、後は君たちも援護に!」
天狗が言った。クラリスが目を向けると、今度は黒竜たちが拓海を攻撃しようとしていた。紋様が移ったことを認識したのだ。
「最後だ、気合いを入れるのじゃ、みんな!!」
キマロの呼びかけに誰もが答え、黒竜たちを迎撃していく。
黒竜を相手にしながらクラリスが横目で拓海を見ると、悪魔ベナカーイが赤い光の念動力を解除し、拓海を背中の上に乗せていた。拓海は青い紋様のある右手を邪神竜の方に構えた。
「タクミ、ここから撃つの!?」
「ああ! 『私』と手を繋いだりする必要はない! 離れた位置からでも余裕だよ!」
◇◇
莉子は目を覚ました。日菜菊と手を繋いだままだった。日菜菊の左手には緑の紋様が浮かんでいる。
日菜菊を魔術に集中させるため、莉子は退魔の結界の作業を引き継いだ。日菜菊は緑の紋様のある左手を邪神竜に向ける。九尾の狐に誘導され、邪神竜はちょうど六芒星の中心に入ったところだ。
そのタイミングで、六芒星の別の頂点から照明弾が打ち上がる。それはルビーからの退魔の結界の発動合図だった。
「先に退魔の結界、行くよ!」
「分かった!」
莉子の言葉に日菜菊が答えた。
続いて、莉子は照明弾を打ち上げた。他の4つの頂点からも同じものが打ち上がる。ルビーからの合図に了解を示すためのものだ。莉子がその場にいる協力者と共に魔具を発動させると、他の5つの頂点と共に光が生じた。
邪神竜の立つ地面から赤い光が湧き上がった。邪神竜は悲鳴のような咆哮を上げる。
邪神竜本体の危機を感じたのか、黒竜たちが退魔の結界の方に向かってきた。それは想定された事態だったので、周囲に展開している魔術兵器や地球の武器による迎撃が始まる。
「ヒナタ!!」
莉子は日菜菊の方を向いて叫んだ。日菜菊は静かに頷き、右手で左手の紋様に触れた。
「勇者ゼノシュ、魔術の発動を!」
日菜菊がそう言うと、左手の紋様の緑の輝きが一層眩しくなり、緑のビームが放射されて邪神竜を撃った。
空の向こうからは青いビームが飛んできて、邪神竜を挟み撃つように攻撃する。青い方は拓海からの攻撃だ。
邪神竜の地面からは赤く光る退魔の結界、日菜菊の左手からは緑色の魔王の魔術の一方、空の上の拓海がいる場所からは青色の魔王の魔術の他方。それらが交錯し、邪神竜の身体を削っていく。
青いビームと緑のビームが交わる場所から邪神竜の身体が黒いオーラに霧散していき、足元から輝く赤い光で邪神竜の脚が霧散していく。
ひとときその状態が続いた後、邪神竜の身体は様々な色の光に変わり爆散した。




