9-7話 邪神竜との激闘
日菜菊は莉子とルビーと共に戦況を見つめていた。周囲には通信員もいる。邪神竜の近くは電波障害が強く、上空のエアシップとは通信が不能になっているため、エアシップで拓海が得る情報を日菜菊が口頭で伝えていた。
「邪神竜が小型の黒竜をまた飛ばそうとしています」
「了解」
通信員はその情報を後方の各拠点に連絡する。
各地に落ちた黒竜の黒いオーラの影響で拠点間の電波障害も大きくなっており、音声通話はできず、通信速度を落としてのデータ通信が行われている。
それでも情報を後方まで伝えることができるのは大きく、日菜菊と拓海がこの場にいる最大の効果だった。
◇◇
拓海はエアシップの上にいる。エアシップは邪神竜の影響を受けないように高度を上げている。
邪神竜が小型の黒竜の軍団を再び飛ばすのが拓海の目にも見えた。
何体かは邪神竜と共に目の前の九尾の狐の攻撃に参加したが、九尾の狐の魂を喰らう能力なのか、近づいただけで身体を維持できなくなっていた。黒竜たちはすぐにそれを理解したようで、九尾の狐を無視して南下し始める。
リムザデール村に展開していた部隊は邪神竜の接近に伴って撤退していた。リムザデール村からの攻撃はもう望めない。後方の魔術部隊や、フェイズド・クリエイション砲台が攻撃を開始するのが拓海の目にも見えた。
「着実に進行されていますね」
「だけど、それも計算のうちです」
拓海と妖狐のエマが言った。
「拓海、エマ、あれを見ろ」
「「え?」」
悪魔ベナカーイの言葉で、拓海がエマと共に南方を見ると、小型の黒竜たちの一部が東に方向を変えるのが見えた。
◇◇
浩太たちはエアシップでダークエルフの里を飛び立ち、魔術紋様を運んでいた。
エアシップが戦場に近づいたことで、ようやくデータ通信が可能になった。
通信員が早速状況を伝えた。勇者の紋様のことを伝えることはできたが、逆に小型の黒竜の集団が東に向かっている情報が入ってきた。
「向こうから見て東ということは……」
「どう考えても狙いはこの船じゃな!」
「この魔術紋様のせいか!?」
クラリスとキマロと浩太が言った。
「あの黒竜に襲われるのはまずいですね。このエアシップは魔術で飛んでいるから、黒いオーラで魔術を妨害されると落ちてしまいます!」
ゾダールハイムの兵士が慌てて魔術武器を準備する。
「行けるところまで行こう。そこから先は我々が君たちを一人ずつ連れて飛ぶ」
同乗している天狗が浩太とクラリスに言った。竜神族たちもそれに同意した。
やがて黒竜の群れがエアシップに到達した。ゾダールハイムの兵士や竜神族は魔術で、天狗たちは手に持った魔具で、あるいはフェイズド・クリエイション・ピストルで黒竜を攻撃した。
黒竜は明らかに浩太とクラリスの手の紋様を狙っているようで、他の者には目もくれず、浩太とクラリスを攻撃しようとしてくる。近づく黒竜には、ヴァンパイアの壮亮やヴァンパイア・ハンターの津麦が近接戦闘を仕掛けて撃退した。ラミアのレシアも蛇の下半身を振り回して迎撃している。
「これ以上の飛行は無理です! 不時着しますよ!」
倒した黒竜の黒いオーラも周囲に残っていて、エアシップの飛行が限界を向かえた。
「クラリス、行こう!」
「うん!」
浩太とクラリスが叫んだ。キマロは浩太の肩に乗り、二体の天狗が浩太とクラリスを抱えて飛び立った。黒竜は狙いをエアシップから天狗二体に変更したようだった。
「フルーズ、来い!」
浩太が叫んだ。勇者ゼノシュと会話をするにはフルーズがドリームワールドを作り出す必要がある。彼も欠かせない人物なのだ。フルーズはエアシップに乗っている竜神族の一人に声をかけると、竜神族はフルーズを抱えて飛び上がり、浩太たちを追った。
「護衛を!」
エアシップ上で誰かが叫んだ。天狗と竜神族の数名がすぐに反応し、魔具を手に持って浩太とクラリスを追った。
「津麦、大丈夫か?」
壮亮は、黒竜の身体がぶつかって転倒していた津麦の手を掴んで引っ張り起こした。
「ありがとう、壮亮」
津麦と壮亮は天狗たちが飛び立った方向を見た。
「頑張って、みんな……」
もう津麦や壮亮の攻撃が届く距離ではなく、後は任せるしかないと思っているようで、津麦はそう呟いた。
天狗たちに抱えられて空を飛びながら、浩太は襲ってくる黒竜をフェイズド・クリエイション・ピストルで撃ち抜く。キマロとクラリスも魔術で応戦している。フルーズや護衛を引き受けた者たちも合流し、黒竜たちを攻撃した。
「くそ、数が多い!」
「油断するな! クラリス、後ろじゃ!」
「了解!」
浩太たちは声を出してお互いをカバーしていった。
◇◇
莉子は日菜菊とルビーと共に、巨大な魔具、退魔の結界の準備をしていた。九尾の狐と並ぶ、対邪神竜の切り札として用意されたものだ。6つの魔具で六芒星の頂点を成し、結界を作って中の闇を祓う。これまでに明らかになっている邪神竜の性質から、有効と考えられている。
しかし、今、浩太たちが重要な情報を持って来た。魔王が創った男女の魂の魔術。黒竜が血相を変えて阻止しようとしていることからも有効性が想定できる。
「どうなんだろう。私と『俺』でやれば邪神竜を倒せるのかな?」
日菜菊が呟いた。
「きっとヒナタがやれば、魔王が想定した最大の威力は出るはずだよ。でも、確かにそれで倒せる保証はない。きっと魔王だってテストしたわけじゃないんだから。でも、それでも私はやるべきだと思う。どうですか、ルビーさん?」
「ええ、私もそう思うわ。この世界の理で倒せるのならそれが一番良い。でも、退魔の結界は予定通り使うわよ。莉子ちゃんの言う通り、その魔術では不充分なことは想定すべきね」
莉子とルビーが言った。
「それにしても男女の魂か。そこから始まったのよね。この世界、ゾダールハイムとの繋がりは。もしかしたら運命だったのかもしれないわね」
「そうですね……」
莉子は、拓海と日菜菊が異世界の鍵を使った時のことを思い出した。その時には既に怪異研究会には入部していたものの、色んなことが動き出したのはあの時からだったと、莉子は思った。
「日菜菊ちゃんと拓海くんが合流する必要はあるかしら?」
「いえ、しなくて大丈夫です。私と『俺』はいつでも繋がってますから。あの異世界の鍵を使った時も、正直、手を繋ぐ必要性も感じませんでした」
「了解。なら、日菜菊ちゃんはこのまま退魔の結界の準備もお願いするわ」
「はい。片割れの方で、浩太たちと合流します」




