9-6話 魔王の遺した魔術
邪神竜が復活する少し前。
浩太たちはダークエルフの里を訪れていた。
ダークエルフはエルフと似た種族であるが、かつての大戦では多くの者が魔族側についた。その名残りか、ダークエルフの里には魔族も住んでいた。
「普段は敵対心が強くて、絶対来られない場所よ」
「そうなのか。まあ、目が笑ってないもんな、みんな」
クラリスと浩太が言った。
邪神竜の復活に関わる重大事態で、竜神族の祖メゾギルアの魂までが訪れているということで、ダークエルフの長老との面談が許された。浩太、クラリス、キマロ、メゾギルアが代表して会うことになった。また、メゾギルアが憑依した人形を調整するため、リッチもついて来ている。
「それで、勇者ゼノシュの呪縛霊とどんな話をされたのですか?」
ダークエルフの長老が浩太たちに尋ねた。浩太一人のために、わざわざ日本語を使ってくれている。浩太たちは、勇者ゼノシュから輝く紋様を長老に見せた。
「魔術の紋様ですね。一体なぜ……。いや、こ、これは……!?」
「何か分かるんですか?」
「そうですね。まずは他の国ではあまり語られることのない、この里に伝わる勇者と魔王の物語の裏側をお話ししましょう」
長老は語り始める。
それは、魔王側から語られる話だった。
魔王はダークエルフに育てられた魔族だった。
当時のダークエルフは様々な種族から迫害を受けており、後に魔王となるその魔族もそれに苦しんでいた。
人間と獣人族の一味に魔王を育ててくれた家族が殺され、そこから魔王は後戻りができなくなる。
最初の憎しみは人間と獣人族に向けられた。魔術に優れていた魔王は、すぐさま仇討ちを完遂する。
そして魔族を従え、多くのダークエルフを味方につけて世界と戦った。
しかし、勇者もまた魔族に家族を殺され、立ち上がった人間だった。
勇者と魔王の戦いは熾烈を極める。
決め手となったのは、魔王が愛したダークエルフの少女の裏切りだった。
それが元で、勇者は魔王を倒すこととなった。
裏切りの原因は、ダークエルフの少女が勇者を愛してしまったからだった。
魔王が元々持っていた憎しみに、愛する少女の裏切りが重なり、魔王の絶望は決定的なものとなる。
そうして生み出されてしまったのが全てを滅ぼす存在、邪神竜だった。
「しかし、魔王はもう一つ生み出したのですよ。ある魔術を」
長老は物語の最後に言葉を続けた。
「その魔術は邪神竜を倒し得るものとして作られたと伝わっています」
「魔王がそれを作ったというのか? 矛盾しておるではないか」
「あくまで倒し得るものです。倒せないと思ったのでしょうね、魔王は」
長老はそう言うと、室内の壁に描かれた絵の一箇所を指差した。そこには、勇者ゼノシュと賢者クーヤが描かれている。
「魔王が生み出したその魔術は、勇者ゼノシュと賢者クーヤが二人で使った魔術です」
「そうか。ゼノシュとクーヤが使ったあの魔術は魔王が作ったものだったのか」
「その通りですメゾギルア。あなたは直接見たのですね。その魔術は男女が魂を合わせて行使するもの。術者の魔力は一切問わず、魂がシンクロできた時にのみ効果を発揮する。それを可能にするのは完全なる愛。愛に絶望した魔王が、まるで試練のように作り出したのです。勇者ゼノシュと賢者クーヤでも成功させられなかった試練を」
長老は悲しそうに言ったが、浩太とクラリスとキマロは顔を見合わせた。
「男女が魂を合わせて使う? それ、ヒナタ・コンビの出番……なんじゃ?」
「だよな? そもそもこの世界へのゲートを開いたきっかけだって似たような魔具だったって聞いたぞ」
「いや、ダメじゃ! ヒナタ・コンビでは魔術が使えん」
「あ、そっか……」
浩太とクラリスとキマロは小声で語り合った。
そして、長老はさらに言葉を続ける。
「コウタ殿とクラリス殿の手の魔術紋様は、魔王の作った魔術の紋様。どうやら、勇者ゼノシュはあなたたちに託したようです。あなたたちに可能性を感じたのかもしれませんね」
「え、これがその魔術の術式!? 何で俺とクラリス??」
「いや待ってください、私たちは別にそういう関係じゃ……」
「そもそもなぜコウタにも? 魔術を使えぬではないか」
「その紋様は既に発動された魔術を他人に委ねるもの。魔術自体は勇者ゼノシュが事前に発動済みなのです。コウタ殿でも使えますよ」
浩太とクラリスとキマロは再び顔を見合わせた。
「私とコウタがやらないといけないんですか? さらに別の誰かに託すことは?」
「あなたたちに憑いて来ている勇者ゼノシュが認めれば可能でしょう。誰ぞ、相応しい方々でもいるのですかな?」
「ええ、いますよ! とびっきりに相応しいのが!」
「そうですか。邪神竜はこの世界に住む者全ての脅威です。そのような方々がいるのなら、きっと任せられる。この地より、成功を祈っています」
長老はそう言うと、浩太たちは頭を下げてその部屋を後にした。
浩太たちは早速エアシップに戻り、リムザデール地方にいるルビーに連絡を取ろうとした。しかし、魔術通信もアナログ無線も通じなかった。
「これは、邪神竜が既に復活している可能性があります」
「なに!? ならばもう?」
「ええ、そのための通信障害でしょう。もう、交戦に入っているはずです」
「なら、急がないと!」
エアシップは舵をリムザデール地方に向け、前進し始めた。




