9-3話 悪霊の住まう大森林
浩太はエアシップの上にいた。勇者ゼノシュの呪縛霊を探すチームとして、グリザレイの大森林に向かっているところで、キマロとクラリスも一緒だ。異世界ゾダールハイムにいる以上、二人は魔術を使えるので頼りになる。
ヴァンパイアの壮亮とヴァンパイア・ハンターの津麦もこちらのチームにいる。浩太にとっては初対面だが、莉子と日菜菊がヴァンパイアのスカリフルと対決した時に世話になったことはよく知っている。
キマロと同じ竜神族も数名乗っていた。竜神族は年齢によって身体がジワジワと大きくなるらしく、人間よりもだいぶ大きい者もいる。
「それにしても、でかい森だな……」
「そうね。この中から探すのは骨が折れそう」
浩太とクラリスが言った。
「そこで、彼の出番ですよ」
フルーズが一人の怪異を紹介した。黒いローブの中に骸骨の姿をしている、リッチと呼ばれる怪異だ。
「私が正規の仕事で呼ばれるとはね……。本来は禁忌なんだけど、まあ見ていてくれ」
リッチは人形を取り出した。人間の腹ほどの大きさだ。そして何やら呪文を唱え始めると、キマロの身体が赤く光りだした。
「ぬぬ!? な、なんじゃこれは!」
「キマロさんの中に潜んでいる竜神族メゾギルアの魂をちょっとね」
リッチがそう言うと、赤い光は人形に吸い込まれていった。浩太たちが人形を眺めていると、人形が瞬きをした。
「な、何だ……?? これは一体どうしたことだ!?」
人形が喋り始め、浩太たちは驚きの声を上げた。
「メゾギルア、君の魂を人形に移した。これで我々とコミュニケーションを取れるはずだよ」
「なぬ、ご先祖様じゃと!?」
リッチの解説に、キマロは興奮した様子で叫んだ。竜神族たちも驚いて人形の元に集まった。
「本当に不思議な世界なのね、チキュウって!」
「いや待て、こんなの俺の知ってる地球じゃない!」
クラリスと浩太が言った。
エアシップ内のどよめきはしばらく収まらなかったが、かくして勇者ゼノシュの墓への道案内を竜神族の祖メゾギルアが務めることになった。
大森林に降下するメンバーは次々と準備を始めた。浩太も降りるので、ルビーから受け取ったフェイズド・クリエイション・ピストルを腰に装備している。
「宗吾、無茶しないで」
「ああ。必ず戻ってくるよ」
柚希と剣持は抱き合っている。
「先生、あんまり死亡フラグなことを言わない方がいいですよ」
浩太は剣持たちを茶化した。
準備が済むと、エアシップに乗り込んでいる数体の天狗と身体の大きい竜神族が降下メンバーを抱えて飛び、森に降りた。天狗と竜神族たちはすぐに翼をはためかせてエアシップに戻っていく。
浩太は辺りを見渡した。巨大な木々に覆われて薄暗く、不気味な唸り声の響く不気味なところだった。
「薄気味悪いところだ」
「ええ。説明した通り、魔物のはびこる魔の森よ。油断しないでコウタ」
「ああ。お前も気をつけろよ、クラリス」
浩太とクラリスは手をタッチし合った。
「さてメゾギルア。きっと君の時代とは違っていると思うけど、墓の位置は分かるかい?」
「問題ない。私が勇者ゼノシュの気配を捉え違えることなどない。向こうだ」
リッチが手に抱える人形に尋ねると、憑依したメゾギルアはある方向を指差した。リッチはその方向に歩き始めた。
「よし、行こう」
続いて壮亮と津麦も歩き始める。
「さあ、私たちも行きましょ! 浩太さん、クラリスさん、キマロさん!」
そう言ったのはラミアのレシアだった。勇者探索チームについて来たのだが、勘違いで暴走して拓海を蛇にしてしまったポンコツ怪異ぶりは浩太も知っているので、複雑な気分だった。
「何でレシアがついて来たんだ」
「トラブルの元になるような気がするのぉ」
「身内にも注意を払わないといけないのは大変ね」
「ちょ、ひどい! 何てこと言うんですか皆さん!」
そう言いながら浩太、クラリス、レシアは歩き始めた。剣持と、ついて来た2名のゾダールハイムの兵士も歩き出した。
キマロが探索魔術で周囲の魔物を索敵しつつ、浩太たちは慎重に歩みを進めた。時おりクラリスやゾダールハイムの兵士が魔術で威嚇して近寄って来た魔物を追い払った。
やがて巨大な大木が見えてきた。大木は雄大に生い茂っているが、その周囲は数10メートルに渡って草木が生えていない。
「悪霊の溜まり場になっていますね」
「そうだ。嘆かわしいことだが、あの大木の下が勇者ゼノシュの墓だ。呪縛霊となってしまったがゆえに、死してなおその強大な魔力が悪霊に目を付けられてしまったようだ」
メゾギルアの憑依した人形が悲しげに言った。ちょうどそのタイミングで、辺りから黒い霧が集まり、怪物を形作った。煙のようなその化け物は次々と数を増やしていく。
「現れたな、悪霊め」
「追い払えないのか?」
「多分、私たちが勇者ゼノシュの魂を解放しに来たことに気づいてああなってるのよ。祓うしかない!」
メゾギルア、浩太、クラリスが言った。悪霊たちは浩太たち目掛けて飛んできた。
浩太と剣持とリッチはフェイズド・クリエイション・ピストルで悪霊たちを撃ち抜いた。キマロとクラリスと兵士は魔術を使っており、壮亮は赤く光る拳で、津麦は白く光る短剣で悪霊を斬り付けている。
「ふっふーん、私もお役に立ちますよ!」
レシアは右手で青い光を放つと、当たった悪霊が蛇に変身した。
「悪霊とはいえこの術には抗えない! そして蛇になったら身体の動かし方が分からなくて何もできないという……って、ええ!?」
自信満々に言っていたレシアの声が驚愕に変わった。蛇に変身させられた悪霊は動けないどころか、華麗な身のこなしを見せ、近接戦闘をしている壮亮に飛びかかってしまった。
「な、何だ!?」
壮亮は何とか反応し、飛びかかって来た悪霊蛇に腕を振り回して撃退する。地面に落ちた悪霊蛇は体制を整え、今度は津麦に飛びかかった。
「津麦さん、危ない!!」
レシアはそう叫ぶと、擬態を解除して下半身を本来の蛇の形に戻し、津麦に絡みつこうとしている悪霊蛇より先に津麦に巻き付き、空中に持ち上げた。
「わあああ!!」
悪霊蛇の方を警戒していた津麦は思わぬ方向から掴み上げられ、悲鳴を上げた。悪霊蛇は攻撃対象を失って再度地面に落ちる。
「この!」
ちょうど悪霊蛇が地面に落ちたところを浩太がフェイズド・クリエイション・ピストルで撃ち抜いた。
「レシア、悪霊に蛇変化は逆効果だ! これを使え!」
津麦を地面に降ろしているレシアに、剣持がフェイズド・クリエイション・ピストルを一つ渡した。
「な、何で何で!? ムキー!」
レシアは理由が分からずに憤ったが、素直にフェイズド・クリエイション・ピストルを受け取って使い始めた。
あらかた悪霊が片付き、浩太たちは一息ついた。
「ふぅぅ、何とかなったか」
「みんな、怪我はない?」
浩太とクラリスが言った。全員、大きな怪我はないようだった。
「まだだ! 大物が来るぞ!」
メゾギルアが叫んだ。すると、大木とは別の一本の木が動き出し、巨大化していった。高さにすると5メートルはあろうかという大きなだ。
「な、何だあれ!」
「悪霊が木に取り憑いてああなったようね」
「それも勇者ゼノシュの魔力のせいってこと!?」
「厄介な!」
浩太、クラリス、津麦、キマロが順に言った。他の者も、現れた悪霊の木について言葉を口にしていた。




