9-1話 異世界に集う怪異
■9章プロローグ
伝説の勇者と魔王の時代に始まり、異世界を蝕み続けた宿命、邪神竜。
今、地球の力を借りた討伐戦が始まろうとしている。
それは、地球と異世界を結んだゲートがもたらした最後の事件となる。
■プロローグ終
拓海たち怪異研究会の活動に、異世界ゾダールハイムを邪神竜の脅威から救うという、とてつもなく大きな仕事が加わった。もちろん、ただの高校生に過ぎない拓海たちには荷が重いことなので、主体として動いているのはルビーであり、地球側の怪異たちだった。それでも拓海たちは可能な限り手伝うことに決めている。
高校が春休みに入っていることを利用し、拓海たちは異世界ゾダールハイムで活動していた。
まず、封印の魔術を止めさせるためにクラリスとキマロが動いた。浩太とフルーズも同行し、領主ガストンを始めとして、竜神族たち、魔術協会に事情が説明された。竜神族の祖であるメゾギルアの魂の語る事実があったため、説得に時間はかからなかった。
拓海と莉子と日菜菊は、ルビーと共にゾダールハイムのゲート監視所にいた。協力してくれる怪異たちが訪れることになっているのだ。
最初にゲートをくぐって現れたのは悪魔ベナカーイだった。
「早くも俺に力を求めたのだな、人間たちよ」
「ベナカーイ、来てくれたんだな」
「当然だ、約束を違えたりはせん。拓海に莉子に日菜菊、お前達の願いには無条件で答えるさ。それに、事情を説明したら他にも協力を申し出た悪魔もいるぞ」
ベナカーイがそう言うと、数体の悪魔がゲートをくぐってきた。
「わぁぁ、す、凄い……!」
「ほ、ホントだな!」
莉子と拓海は思わず呟いた。悪魔たちは禍々しいオーラを発していて、決して人の手で立ち打ちなどできないと感じさせるが、逆にそれが頼もしいと拓海は思った。悪魔たちはそのままルビーの元に向かい、話をし始めた。
次にゲートから現れたのは拓海たちのよく知る人物、ヴァンパイアの壮亮とヴァンパイア・ハンターの津麦だ。
「ああ!」
「壮亮さんに津麦さん!」
「こんにちは、莉子さん、日菜菊さん!」
「久しぶりだね!」
日菜菊、莉子、津麦、壮亮が順に言った。そのまま全員で握手をし合う。そして、直接会ったことのない拓海も挨拶をした。
「はじめまして拓海くん」
「よろしくな」
津麦と壮亮が言った。
(実際のところ、俺にとってははじめましてじゃないんだけどな)
拓海はそう思ったが、壮亮と津麦には拓海と日菜菊の秘密を明かしていなかったので、調子を合わせることにした。
壮亮と津麦以外にもヴァンパイアとヴァンパイア・ハンターが多数やって来た。怪異研究会がゾダールハイムの力を使ってヴァンパイア・スカリフルの討伐の助けになったことは伝わっており、協力を申し出たとのことだった。
「えええ、あ、悪魔なの、あそこの化け物……??」
「俺たちも他の怪異と交流は始めているけど、悪魔は初めてだ」
津麦と壮亮が奥の方にいる悪魔たちに気づいて言った。他のヴァンパイアやヴァンパイア・ハンターの反応も同じだった。壮亮たちは悪魔たちの元に合流し、挨拶を始めた。
「津麦さんたち、元気そうだな」
「そうだね。あの二人、進展はあったのかな」
「どうだろ! ことが済んだら聞いてみよう」
「うん!」
拓海と莉子が津麦たちを見ながら言った。
そして、ゲートからは妖狐のエマが現れた。
「あ、エマさん!」
「お久しぶりです!」
「ご無沙汰していますね、拓海さん、莉子さん、日菜菊さん」
エマはいつもの着物姿、美しい姿勢で拓海たちの前に立つ。それだけで頼もしさを感じさせる振る舞いだ。
「今日は私だけですが、他にも妖怪たちが協力してくれることになっています。きっと、何とかなりますよ」
エマも、ルビーたちの集まっている場所に向かった。
「何とかなる、か……」
「そうだよ。きっと、何とかなる」
拓海と莉子が呟いた。
邪神竜は復活したら大砂漠を南下し、魔術協会の本拠地を目指すとされている。魔術の源であるマナが地中から湧き出ており、世界で最もマナの濃い場所であるためだ。邪神竜はそれを利用して世界全体に攻撃を仕掛けると想定されていた。
戦いの最前線となるのは大砂漠の端にある村リムザデールだ。現代ではただの観光地であるため、住民は避難を始めていて、代わりに邪神竜を迎え撃つための魔術兵器や、地球から持ち込んだ機材が準備されている。
今、拓海たちがいるゲート監視所からも、エマと悪魔たちは最前線に合流するためにリムザデールに向かった。拓海たちは一旦クラリスの故郷シュトールに移動し、クラリスたちと合流することになっている。ヴァンパイアとヴァンパイア・ハンターも一緒だ。数台のゴーレム車でシュトールに向かった。
シュトールの街は、秋の収穫祭で訪れた時と異なり、邪神竜との戦いが近づいている情報が広まっているために重苦しい空気に包まれていた。
「静かだね……」
「みんなきっと怖がっているんだよ」
日菜菊と莉子が言った。
「莉子さんたちは、この街に来たことがあるの?」
津麦が莉子たちに尋ねた。
「はい。去年の秋頃に」
「私たちのクラスメイトがこの街の出身なんですよ」
「へぇぇ。本当に不思議な体験をしているのね、あなたたち……」
莉子と日菜菊が答え、最後に津麦が言った。壮亮も驚きの顔を見せていた。
拓海たちはそのままクラリスの家に入った。クラリスの父ピエットが拠点とすることを了承している。玄関では執事やメイドだけでなく、ピエットとシャロンが拓海たちを出迎えた。
「皆さん、ようこそ」
「こんにちは。せっかくの再会が、こんな大事件になるなんて……。でも、来てくれて嬉しいわ」
ピエットとシャロンが言った。拓海たちはピエットとシャロンと握手をかわし、ヴァンパイアとヴァンパイア・ハンターを紹介した。
先行してシュトールの街に入っていた剣持と柚希と合流し、夜にはクラリス、浩太、キマロも戻って来た。
夕食後に、拓海たちはルビーと話していた。
「こないだ莉子ちゃんも言っていたけれど、呪縛霊となっているという勇者ゼノシュの魂を探しましょう。何か重大なヒントが得られるかもしれないわ」
「でも、どこにいるか分かるんですか?」
ルビーと莉子が言った。
「竜神族の祖メゾギルアの魂が教えてくれた。でしょう、フルーズ?」
「はい。勇者ゼノシュの墓です」
「ええ、そんなの聞いたことないわよ?」
ルビーとフルーズの発言にシャロンが反応した。
「グリザレイの大森林。メゾギルアはそこに勇者の墓を作ったそうです」
「ええ、あの魔の森!?」
「どんなところなんだ?」
血相を変えた様子のクラリスに浩太が尋ねた。
「危険な魔物の住むところよ! 悪霊もたくさん潜んでいる。そんなところに勇者ゼノシュのお墓があったなんて……」




