8-5話 邪神竜の真実
拓海が目を開けると、空は黒く、大地には黒いオーラの漂う異様な空間にいるのが分かった。
「う、うわ……これは」
「何て禍々しい……」
拓海と莉子は思わず口にした。
黒いオーラの出どころには、巨大な黒いドラゴンがいた。
「ま、まさかあれが……!?」
「本物の邪神竜!?」
クラリスと浩太が叫んだ。演劇で見た邪神竜などとは比べ物にならない、圧倒的な存在感だった。普通のビルよりも遥かに大きい。邪神竜の身体から放出される黒いオーラに纏わりつかれた植物は少しずつ枯れていっているようだった。
少し離れた位置に、人間とエルフと竜族とさらに様々な種族の混じった連合軍らしき一団がいた。一団は必死に魔術で邪神竜を攻撃しているが、邪神竜はまったく意に介さない。
邪神竜の目はその一団の後方に位置する街に向いており、どんどんと進行していった。
「恐るべし、邪神竜……」
どこからともなく低い声が響いた。拓海たちは顔を見合わせた。
「竜神族メゾギルアの声です」
フルーズが拓海たちに解説してくれた。キマロの悪夢と同様に、拓海には日本語で聞こえている。メゾギルアは言葉を続けた。
「この街もこの後数分と持たず、邪神竜に滅ぼされた。邪神竜に殺された者は魂を喰われ、邪神竜の身体の一部となる。成仏することもできず、苦しみ続けるしかないのだ」
声が響くと、場面は崩壊した後の街に移った。全滅した先ほどの一団らしき姿もあった。邪神竜の黒いオーラは人々に絡みつき、次々に邪神竜の身体に運んでいった。そして吸収してしまった。
「う……」
凄惨な光景に拓海は声を漏らし、莉子は青い顔をしてそれを見ていた。浩太は拳を握るような仕草をしているし、クラリスは両手で口を覆っている。
場面はさらに移る。邪神竜の前に対峙する男女の姿が見えた。服装から伝説の勇者ゼノシュと賢者クーヤだと拓海は思った。
勇者ゼノシュと賢者クーヤは手を繋ぎ、空いている方の手を邪神竜に向けた。二人が呪文を唱えると、勇者ゼノシュの手からは青い光が、賢者クーヤの手からは緑の光がビームのように照射され、邪神竜を攻撃した。
邪神竜は怯んで叫び声を上げる。
「これで勇者ゼノシュと賢者クーヤが邪神竜を倒したと伝えられているが、そうではない、そうではないのだ……」
再び声が響く。その直後、邪神竜は仰向けに倒れた。勇者ゼノシュと賢者クーヤは力を使い果たしたのか、膝をついてお互いの身体を支え合っている。
しかし、邪神竜の腹の辺りから小型の黒いドラゴンが大量に湧き出し、勇者ゼノシュと賢者クーヤに襲いかかった。一体一体は人間ほどの大きさで力もそれほどでは無いようだったが、力を使い果たした様子の勇者ゼノシュと賢者クーヤは苦戦を強いられた。
勇者の仲間たちが駆けつけ、乱戦となる。しかし、黒竜の数に押されて次々に力尽き、依然として邪神竜から発生している黒いオーラに絡みつかれて邪神竜本体に吸収されていった。
やがて賢者クーヤが黒竜に空中に掴み上げられ、勇者ゼノシュは絶叫する。賢者クーヤは勇者ゼノシュと生き残った仲間に逃げろと叫んでいる。その言葉に反応し、一人の竜族が勇者ゼノシュと生き残った仲間を抱え上げ、空を飛んで戦域から脱出した。賢者クーヤが黒竜と黒いオーラに絡みつかれる姿を見て、勇者ゼノシュはなおも絶叫した。
「邪神竜は魔王の創り出した魔術を統べる存在。魔術による正攻法で戦っても勝ち目はなかった」
メゾギルアの声が響くと、場面は勇者たちを助けた竜族と勇者ゼノシュが邪神竜に対峙するところに移った。
「今現在も続く、邪神竜封印の魔術の始まりの時だ。勇者ゼノシュは己の命と引き換えに、邪神竜を封印した」
メゾギルアの声の通り、勇者ゼノシュは何らかの魔術を行使し、邪神竜を赤い光で包み、邪神竜は空間から消え去った。
「無念だ……。口惜しい……。勇者ゼノシュはここで力尽き、私は後世に封印の魔術を残すことしかできなかった」
嘆くような声が響いた。
「邪神竜に殺された者たちの魂は邪神竜と共に封印されている。このままでは彼らは成仏することも生まれ変わることもできない。勇者ゼノシュは賢者クーヤや仲間たちを救えなかったことを嘆き、呪縛霊としてこの世にとどまり続けている。それにこの封印の魔術ももう限界なのだ。邪神竜には何度も見せてしまった。近い内に克服されてしまうだろう」
声は続く。
「どうか異世界の者よ、力を貸してほしい。対価の無い勝手な頼みだとは分かっている。しかし、この悲しみの連鎖を、どうか断ち切る手助けをしてほしい。ようやく、私の声が届いたのだから」
それは、拓海たちへの懇願だった。
やがて辺りはグニャグニャと変貌し、拓海たちは1年2組の教室に戻された。
「勇者ゼノシュと共に最初に邪神竜を封印したのが竜神族の祖、メゾギルアということのようです」
フルーズが言った。一番衝撃を受けていたのはキマロのようだ。
「封印の魔術が……効かなくなるじゃと……?」
「そのようですね。事態はキマロさんの知っていたことより深刻なようですよ」
フルーズが言った。
拓海たちはキマロの元に集まった。
「キマロ……」
「ったく、とんでもないことを隠していやがって……」
莉子と浩太が声をかける。
「すまぬ……。ワシはクラリスを巻き込みたくなかったのじゃ」
「だけど、もう私がどうこうっていう状況じゃないでしょ?」
キマロとクラリスが言った。
「そうじゃな。封印の魔術が効かなくなるのなら、それはもうゾダールハイムそのものの危機じゃ」
「けど、どうするんだ? ルビーさんに相談するか?」
「ああ、それがいい。ルビーは色んな怪異に顔が効く」
「きっと、対策を考えてくれるよ!」
キマロ、拓海、剣持、柚希が順に言った。
「私もそう思います。この手のことはルビー様に相談するのがよろしいかと。何にしても、一度ドリームワールドを抜けましょう」
そしてフルーズはドリームマスターの力を解き、拓海の意識はドリームワールドから離れていった。




