8-4話 夢を操る怪異の再訪
プチ修学旅行の2日目。
プチ修学旅行は一泊二日で組まれていたので、この日にはもう帰ることになる。2日目は、街中で行われていたイベントにクラス全員で参加したりし、クラリスとキマロと共に過ごす時間を作った。
しかし、帰りの時間になり、バスに荷物を詰め込んでいると、拓海たちの前に思わぬ人物が現れた。
「こんにちは、怪異研究会の皆様。スキー教室の時に会って以来ですね」
それはドリームマスターのフルーズだった。2組のほとんどの生徒にとって苦い記憶のある怪異だけに、生徒たちは警戒している。
拓海と莉子と日菜菊がクラスメイトたちの前に出て、フルーズと向き合った。
「フルーズ、どうしてここに?」
「キマロさんが囚われていたドリームワールドの解析が終わったのですよ」
「え?」
「何やら、早めにお知らせした方が良さそうな内容だったので、ここまで来ました」
スキー教室の時、フルーズは2組の生徒をドリームワールドに引きずり込み、悪夢を見せるという事件を起こした。その時にキマロが別のドリームワールドに囚われたが、それを引き起こした何者かのメッセージの解析をフルーズが引き受けたのだった。
夢の中で直接見た方が良いという話になり、拓海、莉子、浩太、クラリス、キマロが帰りのバスの中で夢を介してそれを見るということになった。なお、担任の剣持と柚希も一緒に見ることになり、日菜菊は拓海と同時にドリームワールドに入れない性質もあるので現実世界で待機する。
フルーズもバスに乗り込み、バスが出発するとフルーズによる能力行使が始まった。拓海は意識が落ちていくのを感じた。
◇
拓海はゾダールハイムらしき大地に足をつけた。ドリームワールドに入ったということだ。しかし、拓海の周りには誰もいなかった。代わりに、フルーズの声が響いた。
「皆様、まずはその夢の中で起こることを見てください」
周りには誰もいないのにフルーズは皆様という言葉を使った。したがって、拓海以外の者もこれを見ているということだ。
そこは人間の街ではないようで、キマロと同じような生き物や、キマロと同型だがかなり大きい竜のような存在がいる。キマロは広場にいて、その周囲には同じぐらいの大きさの生き物が集まっている。キマロたちの前には、かなり大きいドラゴンがいた。
拓海はその光景に見覚えがあった。スキー教室の時に見た、キマロの悪夢の内容だった。キマロたちの前にいる大きいドラゴンは、拓海の記憶によれば竜神族の長老だ。
「集まったな、竜神族の若者たちよ。これからお前達にはこの世界の真実を伝えなくてはならん」
竜神族の長老は、勇者と魔王の物語を語った。スキー教室の時は、この先を聞き取ることができなかった。しかし、今回はそのまま続くようだった。
「諸君が知らなければならないこと。それは、邪神竜は倒されてなどいないということだ」
邪神竜。それは魔王が創り出し、勇者ゼノシュと賢者クーヤが命を賭して倒したとされている。しかし、長老は邪神竜は生きていると言った。
「邪神竜は勇者ゼノシュでさえ倒せなかったゾダールハイム最強の存在。今後も封印し続けていくしかない。その役目は我ら竜神族が担っているのだ。だが、邪神竜封印の魔術は勇者と同じ種族である人間にしか使えぬ。そして、その魔術の術式は竜神族にのみ受け継がれている。契約者として選ばれた人間は、邪神竜封印の役目を担うのだ。悲しいことだが、人間はその魔術には耐えられぬ。伝説の勇者ゼノシュや賢者クーヤと同じく、邪神竜封印と引き換えに命を落とす」
長老が言った。
「え……?」
拓海は思わず声を出し、呆然とした表情で竜神族の長老を見つめた。
「邪神竜のことは竜神族以外は一部の者しか知らぬ。封印のために命を落とした歴代の契約者たちのことは人間の世界では語り継がれることさえないだろう。だが、この石碑を見てほしい」
長老は広場に設置された石碑を指差した。
「ここには伝説の勇者ゼノシュと賢者クーヤを先頭に、邪神竜封印の魔術を使った歴代の契約者たちの名前が記されている。人間たちが語り継ぐことができない代わりに、彼らの功績は我らが讃え続けていくのだ」
拓海は衝撃的な情報に、何も反応することができなかった。すると、辺りがグニャグニャになり、方向感覚が狂っていった。
次の瞬間、拓海は1年2組の教室にいた。黒板の前にフルーズがおり、夢の場面変換が起こったのだと拓海は思った。横には莉子、浩太、クラリス、キマロ、剣持、柚希がいた。
「今の夢って……」
「キマロの悪夢……だよな?」
莉子と拓海が言った。全員の視線がキマロに集中する。
「フルーズ貴様……。なぜ隠しておいたことを暴くような真似を!?」
キマロは苛立ちを隠さない口調でフルーズに言った。
「事実なのか? 契約者が命を落とす運命にあるというのは……」
剣持がキマロに尋ねた。しかし、フルーズが代わりに口を開けた。
「浩太さんは大丈夫ですよ。そもそも魔術が使えませんから。どちらかというと問題なのはそちらのクラリスさん。ですよね、キマロさん?」
「…………」
フルーズがキマロに確認を取ったが、キマロは沈黙したままだ。
「そうか、だからキマロはクラリスから逃げ回ったのね?」
「契約者が邪神竜の封印で命を落とすことになるから……?」
柚希と浩太が言った。
「……その通りじゃ。このような運命、クラリスに背負わせるわけにはいかぬ」
「で、でも! だったら邪神竜が復活しちゃうってことじゃないの!?」
クラリスが焦るように言う。
「そうはならぬ! ワシとクラリスがやる必要はないのじゃ! 竜神族はワシの他にもおるし、契約者候補もクラリスの他に数名見つかっておる!」
「じゃあ、その誰かを犠牲にするって言うの!? そんなの、納得できない!」
「クラリスならそう言い出すと思っておった! きっと罪の意識を背負ってしまう! だから、秘密にし続けたのじゃ!」
「そ、そんな!?」
「フルーズ! 貴様がワシの悪夢を暴くような真似をしたからじゃぞ! なぜこんなことをした!? なぜ皆にあれを見せた!?」
クラリスとキマロが言葉を荒げる。フルーズは落ち着けのジェスチャーをした。クラリスは青い顔をして混乱しているようだった。莉子が隣まで歩み寄り、肩を抱いた。
「理由があるんだよな? キマロの悪夢を俺たちに見せたのには」
キマロが興奮していて冷静でないので、拓海が言った。すると、さらにフルーズが言葉を続けた。
「ええ、その通りです拓海さん。皆様にこれを見せたのは、私の力を使ってキマロさんをドリームワールドに囚えた張本人の意思でもあります」
フルーズが言った。そして、改めてキマロを見た。
「キマロさん。あなたとここにいる皆様にメッセージを伝えたがっていたのは、あなたの祖先、竜神族メゾギルアです」
「なんじゃと……!?」
キマロが驚きの叫びを上げる。
「メゾギルアは故人ですが魂だけの存在となっており、キマロさんが地球にやって来た時に一緒について来たようです。彼もまた、悪夢を見ていました。それを皆様にお見せします。そして、それこそが、彼が伝えたがっていることでもあります」
フルーズは右手を掲げて光らせた。
再び、周囲がグニャグニャと変貌していくのを拓海は感じた。




