7-10話 悪夢に隠された裏事情1
拓海は意識が落ちていく感覚を味わっていた。しかし、次の瞬間には意識がはっきりとし、辺りが見たことのない大地に変わるのを認識した。空には巨大な月が見えており、それは異世界ゾダールハイムに違いなかった。
隣には莉子、浩太、クラリス、フルーズがいる。
「無事に侵入できましたね」
「あれ、でも、ヒナがいなくない?」
「え? あ、本当だ」
莉子に指摘され、フルーズが首を傾げる。
「ちょっとお待ちを。もう一度日菜菊さんに術をかけてみます」
フルーズが右手を掲げると、青い光がほとばしった。すると、拓海が現実で目覚め、代わりに日菜菊が意識を失ってドリームワールドに入ってしまった。ドリームワールドの中では拓海が日菜菊に変身したような形だ。
フルーズは混乱したような様子を見せ、もう一度右手を発光させた。再び日菜菊が拓海と交代することになった。
「ちょ……フルーズ、ストップ! 何度もやられると気持ち悪い!」
「むむむ、拓海さんと日菜菊さんは同時にドリームワールドに存在できないようですね。一体あなたたちは……?」
「まあ、後でルビーさんにでも聞いてよ、それは」
拓海が言った。拓海と日菜菊のことはフルーズにはとりあえず明かさず、日菜菊はそのまま現実世界で連絡役になった。
「ここが、キマロの囚われているドリームワールド?」
改めて莉子がフルーズに尋ねる。
「その通りですね」
そこは人間の街ではないようで、キマロと同じような生き物や、キマロと同型だがかなり大きい竜のような存在もいて、竜神族の街のようだった。彼らは口々に会話をしている。
「ゾダールハイムだけど、みんな日本語を使ってるぞ??」
「ホントだね……」
「え、タクミたちにはニホン語に聞こえているの? 私にはゾダールハイムの言葉に聞こえる」
「ふむ、なかなか珍しい現象ですね。ドリームワールドでなら、起こり得ない話ではありませんが」
拓海たちの疑問にフルーズが答えた。
拓海たちはキマロを発見した。キマロの周囲には同じぐらいの大きさの竜が集まっている。キマロたちの前には、かなり大きいドラゴンがいた。そのドラゴンは口を開いた。
「集まったな、竜神族の若者たちよ。これからお前達にはこの世界の真実を伝えなくてはならん」
その大きなドラゴンは、竜神族の長老のようだった。そのドラゴンは、勇者と魔王の物語を語った。その内容は演劇を通して拓海たちも知っている。そして、語り終わった後、長老はさらに言葉を続けた。
「諸君が知らなければならないこと。それは、邪神竜はxxxxxxx」
しかし、その長老の言葉の最後が拓海には聞き取れなかった。
「ん! 何だ、聞き取れなかったぞ!」
「拓海もか。俺もだよ」
「私もよ」
「みんなも? 私もだった。一体何だったの……」
拓海、浩太、莉子、クラリスが順に言った。
「夢の主が、どうしても知られたくないことなのかもしれませんね」
フルーズがそう解説した。その時、辺りがグニャグニャになり、方向感覚が狂うのを拓海は感じた。
「う、うわ!?」
「きゃ! 何なの!?」
「落ち着いて! 夢が別の場面に移るのです。気持ち悪いですが、すぐ慣れますよ」
慌てる拓海たちにフルーズが説明した。
次の瞬間、拓海たちは学校のような場所にいた。
「ここは……私の通った魔術学校!?」
クラリスが言った。
辺りを見回すと、そこにはキマロと幼いクラリスがいた。
「私はクラリスと申します。あの、よろしくお願いします、キマロ様……」
「ああ、キマロで良い、キマロで。様なんぞつけんでくれ」
それはクラリスとキマロの出会いの場面のようだった。
キマロの思い出がベースになっているのか、クラリスが親友のシャロンが楽しそうに日々を送る様子、クラリスが学年トップの成績を取って喜んでいる姿、魔術学校の行事でクラリスがクラスメイトと騒いでいる様子などが次々と映し出された。
「ち、ちょっと、なんで私ばっかり登場するのよ!?」
「この夢に、あなたも関係しているようですね」
「え……?」
クラリスにフルーズが答える。
そして、場面はキマロと領主のガストンが話している場面に移った。
「キマロ、竜神族の契約者というのは、竜神族の魔力を使って、強力な魔術を行使できるのだったな?」
「ん? ああ、そうじゃよ。人間がマナに作用できる力には限界があるが、ワシらは違う。契約者はワシらを介してマナに作用できるようになるので、魔術も強力になるという仕組みじゃ」
「だから性格診断までやるのか……」
「うむ。魔術適正があっても悪人に契約させるわけにはいかんからの。どうした? 誰か候補者でも見つかったか?」
「ああ。今年、魔術学校の成績がダントツでトップだったクラリスという少女が魔術協会の適正テストに合格した。キマロも知っている者だろう?」
「クラリス、じゃと……?」
「私も会ったことがあるが、良い少女だ。キマロが契約者としての相性が良いと判定されているのだが、問題はあるか?」
「問題は……」
キマロは複雑な表情を浮かべていた。
場面はさらに、キマロがクラリスとの契約から逃げようとしているところに移った。
「ちょっとキマロ!! 何で逃げるのよ!?」
「やかましいぞクラリス!! 竜神族との契約はそんなに簡単な物ではないのじゃ!!」
「私、試験に合格して、ちゃんと契約者に選ばれたじゃない!?」
「ええーい、そんなもの、人間が決めたルールじゃろう!! ワシには関係ない!!」
キマロがクラリスと言い争いながら逃げ回っている。
「クラリス、これって?」
浩太が本物のクラリスに言った。
「うん、私たちがチキュウへのゲートをくぐる少し前……」
クラリスが答えた。
そして、場面は再び、キマロとその仲間の竜神族の若者たちが長老から説明を受けているところに飛んだ。
「どうやら夢がループしていますね。これは、このキマロさんの悪夢のようですね」
「どうしてそんなことに?」
「このドリームワールド自体は、私が先ほどドリームワールドを作った時に力の一部を横取りして作られたようです」
「キマロが自分で横取りして、自分で悪夢を見ているっていうの……?」
「いえ、そうではありませんね……。力を横取りしたのは、何か別の存在のようです」
フルーズは右手を掲げると、そこから緑の光が生じた。辺りを分析しているようだった。
「何者かが、キマロさんに何かを伝えたがっています。ドリームワールドを利用しようとしたけれど、私の力を使ったから、キマロさんが悪夢を見ているだけになってしまっているんだな、これは……」
分析が進んだようで、フルーズが呟いた。
「なら、その何かがキマロに伝われば、キマロは解放されるんだな?」
「そうなりますが、ちょっと難しそうですね」
浩太が問い、フルーズが答えた。
「じゃあ、どうするの?」
「このドリームワールドを私が引き取りましょう。今すぐにとはいかないですが、何を伝えたいかを分析して、キマロさんに伝えるようにします。その代わり、キマロさんを解放するように伝えてみます」
フルーズはそう言うと、緑に光る右手を地面に触れさせた。何やら集中した表情になっている。
拓海たちがしばらくそれを見守ると、フルーズは立ち上がって拓海たちに振り向いた。
「分かってくれたようです。そして、どうやらキマロさんにだけでなく、あなたたちにも伝えたいみたいですね」
「え?」
「どういうことだ?」
「今はまだ、何とも。キマロさんは解放されるので、一度ドリームワールドから抜けましょう」
フルーズがそう言うと、拓海の意識はその場から消えていった。
次の瞬間、拓海はホテルの大部屋で目覚めた。莉子たちも次々と目を覚まし、謎のドリームワールドから解放されたキマロも目覚めた。




