7-9話 怪異の失敗2
莉子はホテルの部屋で目覚めた。ドリームワールドから解放されたのだ。一緒に取り込まれていた拓海が、現実世界の日菜菊と情報共有をして、偽物をあっという間に当てることができた結果だ。
莉子は見てしまった悪夢を思い出す。春先の、まだ日菜菊と出会ったばかり、拓海と日菜菊が魂を共有していることを知らなかった時の夢だった。
拓海が日菜菊を好きだと言い出し、莉子の元から離れていくという、今となってはそれがありえないことは分かっている内容だったのだが、夢の中では記憶が春先の頃に戻っていたため、莉子はとても嫌な感情に襲われた。
(そういえば、拓海とヒナの関係が怪しいと思った時、私、結構焦ったもんなぁ)
拓海と日菜菊の間に何かあると確信した時、莉子は動揺した。それは、莉子の拓海への想いを自覚させるきっかけにもなったことだった。
隣の布団を見ると、寝ていたはずの日菜菊はいない。きっと偽物を探り出すために各部屋を走り回ったのだろうと莉子は思った。
そして、周りの女子生徒も次々と起き出し、同じ夢を見たことを語り合った。
(さて……)
莉子は鞄を手に取り、妖気を探る魔具を手に取った。それによると、ドリームマスターのフルーズは異次元空間に潜んでいるようだった。莉子はメッセージアプリの、2組全員がメンバーのグループに、フルーズをとっちめるから大部屋に集合しようというメッセージを送信した。
莉子は着替えを済ませ、同じ部屋の女子生徒と共に、前日に大勢が集まった部屋に向かった。
「「莉子、おはよ」」
「おはよう、拓海にヒナ」
拓海と日菜菊が挨拶をしてきた。浩太やクラリスも莉子の元にやって来た。また、拓海と日菜菊は解決の立役者となったので、クラスメイトが次々と労いの言葉をかけにやって来ていた。
やがてクラスメイトが揃ったので、莉子は魔具をかざし、異次元空間に潜んでいるフルーズを強制的に呼び出した。
「うひゃあ!!」
夢の中と同じ姿のフルーズは、叫び声を上げながら大部屋の中央に出現し、仰向けに倒れ込んだ。
「あいたたた、一体なんですか! どこですか、ここ!?」
フルーズは起き上がって辺りを見回した。2組の生徒に囲まれているのが分かったようだ。
「あ、あれれ……。こ、これは2組の皆様、ご、ご機嫌よう……。」
「ご機嫌よう、じゃねーよ、このアホ怪異!!」
「そうよ、よくもあんな夢見せてくれたわね!!」
「どうしてくれんだ、この野郎!!」
クラスメイトたちは次々と怒りの言葉をぶつける。
「ひぃぃ、すいません、すいません!」
フルーズは現実世界で生徒たちと対面することになるとは思わなかったようで、必死に謝っている。
「まあ、俺たちは何も無かったわけだけどな……」
「そ、そうなんだよね」
「一体そのドリームワールドってところで何があったんだか……?」
「ここは皆に任せよ」
村岡を含む、被害に遭わなかった生徒4人が言った。
「これ使ってみようか……?」
莉子は別の魔具を取り出して言った。それは、ラミアのレシアが拓海にやらかしたように、馬鹿な真似をした怪異に使って良いとルビーに言われているおしおき魔具だった。
「げげげ、それはルビー様がお使いの魔具!? な、なんであなたがそれを……?」
「あ、ルビーさんのこと知ってるんだ」
「なら、話が早いな!」
莉子と拓海が言った。怪異研究会の面々はそれを使うことに賛成の意を表明した。
莉子がそれを使うと、フルーズの前後に棺桶のような箱が出現し、フルーズを閉じ込めてしまった。そして、電撃のような音が響き渡る。
「ぎょえーー!!」
フルーズの悲痛な叫びが聞こえてきた。電撃の次は鞭で打つような音も聞こえた。
「びょわ!! おげ!! ぅぼあーー!!」
フルーズがさらに悲痛な叫びを上げると、ようやく終わったようで、箱が前後に開いて消滅した。
しくしくと涙目になっているフルーズにクラスメイトはとりあえずスッキリしたようだった。
「あいたたた……。皆様、偽物をあっさり見抜いたり、私をここに引っ張り出したり、何者なのかと思ったらルビー様のお知り合いだったとは……。大変、失礼いたしました……」
フルーズが言った。
その時、女子生徒が別の異変に気づいた。
「ね、ねえ。キマロが全然起きないんだけど、これ、さっきのドリームワールドと関係ある?」
クラスメイトの視線が女子生徒の方に集まる。女子生徒の手元ではキマロが眠っていた。
「え、ちょっと見せてください」
フルーズがダメージによろめきながらもキマロの元に向かった。莉子、拓海、浩太、クラリスもその場に駆けつけた。
「ドリームワールドに……取り込まれていますね」
「え、どういうこと!?」
「俺たちは解放されたのに!?」
「この子は私のドリームワールドに引き込めなかったのですよ。この子は何らかの怪異ですか?」
「異世界の……怪異に当たるのかな?」
「ふむ、ドリームワールドに引き込もうとした時に、別の何かに引っ張られたようですね。それがそのまま新たなドリームワールドになってしまったようです」
「別の何か?」
「何なのかは分かりません。ですが、勝手に作られたドリームワールドというのはあまり良くないです。助けに行った方が良いですね」
フルーズは焦りの表情を浮かべ、キマロに向かって手をかざした。
「えと、私の行いが原因になっているので、こんなことを頼むのは心苦しいのですが、数名くらいなら一緒に連れていけます。どなたか、手伝って下さいませんか?」
フルーズは振り返って言った。
キマロのことなので、怪異研究会の面々がその申し出を受けた。
「ありがとうございます。では、行きますよ……」
フルーズの手から光がほとばしり、莉子の意識は落ちていった。




