7-7話 怪異は悪夢を見せたい
日菜菊の身体を通して莉子の温もりを感じ、拓海は安心感に包まれていた。なんて嫌な悪夢を見たんだろうと思いながら、背伸びをした。
「拓海……?」
声の聞こえて来た方向を拓海が見ると、そこには莉子がいた。
(ん? あれ、莉子??)
その状況のおかしさに気づく前に、莉子は拓海に抱きついて来た。
「う、うわ! 莉子、どうした……?」
「…………」
莉子は何も言わず、拓海を抱きしめる腕に力を入れた。拓海も莉子を抱きしめ返す。しばらくそうしていると、拓海の目の前の莉子が口を開いた。
「嫌な……夢を見たの」
「え?」
莉子も同じかと思いながら拓海も悪夢を見たことを伝えた。
「あれ、拓海に莉子ちゃん?」
拓海と莉子が身体を放し、声の方向を見るとそこには浩太がいた。
「その声、コウタ? あ、タクミとリコも」
さらにクラリスが現れた。
そして、次々とクラスメイトの生徒たちが現れた。辺りをよく見ると、そこは1年2組の教室だった。
「これは……おかしいぞ!?」
拓海が言った。これが夢の続きにしても、莉子の言ったことが生なまし過ぎるし、クラスメイトも一様に悪夢を見たと言い始めた。
今まさにホテルの部屋で眠っている莉子を抱きしめていた日菜菊は起き上がり、部屋を見回すと同じ部屋の莉子以外の女子生徒も眠っている。揺すったりして起こそうとしても誰も起きる気配がない。
次に日菜菊は拓海の泊まっている部屋に向かった。部屋の中を確認すると、拓海も、同じ部屋の浩太も男子生徒も眠っていた。
拓海と日菜菊はお互いに知覚を共有して二人の脳を使っているせいか、一方が起きると大抵他方も起きてしまうのに、そうなっていない。しかも、どうやら夢の続きを見ている拓海と起きている日菜菊がリアルに情報共有できている。
「これ……、ここにいる全員が同じ夢を見ている気がする」
「え……?」
拓海の言葉に莉子が反応した。現実世界で日菜菊が確認する限り、拓海も莉子も浩太もクラリスも全員眠っている。状況からして、眠っている全員の意識がここに集められているのではないかと拓海は思い、それを莉子に説明した。
「それって、もしかして……」
「ああ、怪異の仕業かも……」
莉子と拓海がそんなことを言い合っていると、教室に見たことのない道化師のような格好をした男が入ってきた。
「やあやあ、1年2組の皆様、ご機嫌よう!」
男は高いテンションで言葉を発した。生徒たちから警戒する声が上がる。
「もうお気づきかもしれませんが皆様は今、同じ夢を見ています。悪夢はどうでしたか?」
「え、どういうこと?」
「あんたがあの夢を見せたのか!?」
「何なのよ、あんた!?」
男の発言に、クラスメイトが反応する。
「悪夢の内容はあくまで皆様一人一人が創り出した幻。それが現実のことなのか、現実になりそうだったことなのか、はたまた、ただ嫌いな生き物を見たのか。どういう物を見たのか存じ上げませんが、悪夢に対する負の感情のエネルギーこそ、私の好物でしてね」
「でも、それなら悪夢を見るように仕向けたのはあなたなのね?」
「あんた、怪異だろ!?」
莉子と拓海が言った。
「おお、怪異という言葉が出てくるとは! なかなかやりますな。もしかして、過去にも遭遇したことがありますか?」
「また怪異かよ!?」
「色々起こるのね、このクラスは!?」
男子生徒と女子生徒が言った。
「私はフルーズと申します。ドリームマスターという怪異の一人。皆様にはもう少し悪夢を見て頂きますよ!」
「はぁ! 何でそうなるの!?」
「ふざけんな!!」
「さっきも言ったでしょう。皆様が悪夢を見た時の感情のエネルギーを、私は欲している!」
「そんなの、私たちに関係ないでしょ!」
「そうだそうだ! 一方的に、汚いぞ!!」
フルーズと名乗った怪異に対して、クラスメイトが罵りの言葉をぶつけている。
「ふむ、一方的にというのは確かに。ですので、ゲームを用意していますよ」
「ゲームだと?」
「ええ。この中に5名、偽物が潜んでいます。一人ずつ当ててください。全員当てられたら皆様はこのドリームワールドから解放されます。しかし、推理した人物が本物だったら、その都度、悪夢を見て頂きます」
「なんだそりゃ!?」
「一度の推理に許される時間は5分です。5分に1回は答えを出してもらいます。皆様の普段のコミュニケーションが試されますね! なぁに、心配せずとも、全部外れたとしてもその回数、悪夢を見るだけです。では、ご検討を!」
そう言うと、フルーズの足元に黒い穴が発生し、フルーズはその穴に落ちていった。穴はすぐに消えてしまった。
そして、黒板に残り時間を示すカウントダウンが映し出された。
「ねぇ莉子!! どうにかならない!?」
「何か魔具とか持って来てないの!?」
「持って来てはいるけど、ホテルの部屋に置いてあるから今は使えないよ」
「そ、そっか……」
女子生徒たちが莉子と話しているが、解決には至らない。
「ちょっとやめてくれよ! さっきの夢みたいのを何度も見るなんて俺は嫌だぞ!」
「誰なんだよ偽物! 名乗り出ろよ!?」
男子生徒たちが叫んだが、誰も答えなかった。怪異が用意した偽物だ、しっかり本物を装って行動するのだろうと拓海は思った。
「とりあえず、いないのは、キマロだけか」
「あ、そうだね。竜神族だから効かなかったのかな」
「かもな。他は全員いるから、怪しい奴を推理するしかないのか」
浩太とクラリスが言った。
「あー、そのことだが皆。多分一人はもう確定だ」
拓海が告げた。その言葉を聞き、クラスメイトは一瞬静まり返る。
「え、どういうこと?」
「分かってるの?」
クラスメイトたちが口々に言う。拓海は頷き、生徒たちの疑問に答えるように、対象の人物を指差した。
「え、私!? 何でよ、不室くん!?」
そう答えたのは日菜菊だ。しかし、その返答はかなりまずかった。本物の日菜菊だったら絶対にありえないその言動に、クラスメイトたちは納得の声を上げ始めた。
「ああ、そうだな……」
「これは、決まりね……」
「不室、よくやった!」
生徒たちは口々に確信の声を上げる。莉子も拓海に対して親指を立てる仕草をした。
「え、ちょ、なんでなんで!?」
日菜菊もどきは焦った様子で声を張り上げているが、拓海と意見が合わないというのは2組の生徒にとっては確信に至る情報なのだ。
(調査不足な怪異だなぁ……)
拓海はそう思った。クラスメイトたちは次々と日菜菊の姿をした偽物を指差した。
「推理が……早いですねぇ?? その子で良いのですか?」
どこからともなくフルーズの声が響いた。
「「「全会一致でーす」」」
生徒たちが声を揃えて言った。
「ふぅ、では成戸日菜菊さん。答えなさい。あなたは本物ですか、偽物ですか?」
再度、フルーズの声が響く。
すると日菜菊もどきの立っている場所にスポットライトが照射され、無駄にBGMまで再生されてクイズ番組のような演出が行われた。この怪異の趣味なのかと拓海は思った。
「私は、偽物でした……。やりますね、皆さん」
日菜菊もどきはそう言うと、フルーズが消えた時と同じように足元に黒い穴が生じ、そこに落ちていった。




