7-6話 スキー教室と怪異事件
拓海たちを乗せたバスは目的のホテルに到着し、まずは割り当てられた部屋に各々が荷物を運び込んだ。ゲレンデはすぐそこだったので、レンタル用品を借りて、拓海たちはスキー場に立った。
希望する班毎にトレーナーが付く形となっており、拓海、莉子、日菜菊、浩太、クラリスの怪異研究会関係者は1つの班で固まっている。さらに柚希、バスケ部の飛山、陸上部の村岡も混じっていた。当然、キマロは浩太について来ている。
クラリスが初心者だったのでトレーナーをお願いし、その指導の大半はクラリス向けだった。2組屈指のスポーツ組、飛山と村岡も色々とアドバイスをしている。クラリスは飲み込みが早く、あっという間に滑れるようになった。
「ま、後はコースを滑ってれば覚えていくんじゃない?」
飛山が言った。
「飛山、それは運動神経のない奴には言っちゃダメだぞ」
「かもね。でも、この班なら大丈夫だろ」
拓海が突っ込み、飛山が返答した。
何回か初級コースを滑った後、クラリスの希望もあって中級コースにチャレンジした。
「おおー、なかなか急だね!」
クラリスはそのまま笑顔でスタートしていった。どうやらスキーが楽しくなって来たようだ。
「度胸あるなぁ、クラリス」
「結構な角度なのにね。運動神経あるね」
そう言いながら、拓海と莉子もスタートした。
滑り終わった地点で合流すると、クラリスとキマロはだいぶはしゃいでいた。上級コースにも行きたいと言い始めたが、トレーナーに止められ、別の中級コースに行くことになった。
充分に滑った後、拓海たちはホテルに戻った。バイキング形式の夕飯を取ると、誰ともなく拓海のいる部屋に生徒たちが男女問わず集まった。2組の男子生徒の半数が割り当てられている大部屋だったので、生徒たちが集まってワイワイするのにはうってつけだったのだ。2組の生徒たちは、雑談やらカードゲームやらを楽しむのだった。
中にはゲーム機を持ち込んできた生徒もいた。Wi-Fiルーターを持ち込んでオンライン対戦をできるようにしている徹底ぶりだ。拓海と莉子も一度プレイさせてもらった。
拓海は正規コントローラーだと操作が難しく、性能を活かしきれないキャラを選んだ。拓海の持つコントローラーに日菜菊が手を添え、操作を補助する。その操作スタイルで次々と敵を倒す姿に、クラスメイトからも感嘆の声が上がった。
さらに莉子の戦況分析はここでも威力を発揮し、ヒナタ・コンビと莉子の活躍は目を見張るものがあった。
「おー、ヒナタ・コンビも凄いけど、千ヶ崎さんもゲーム上手いんだな」
「莉子、多才だねぇ」
クラスメイトたちが次々と声をかけた。
その後もオンラインゲームは交代でプレイされていった。
やがて夜も遅くなり、各人は自分の部屋に戻って床についた。
◇
その夜。
拓海は記憶が曖昧になっていた。ふと辺りを見渡すと、そこは通っていた中学の敷地内だった。
(あれ、なんでこんなところにいるんだっけ……?)
拓海は自分がどうして中学にいるのか分からずに混乱した。
「よっ、拓海」
聞き慣れた声が聞こえた。それは紛れもなく浩太の声だ。見ると、浩太は中学の制服を着ている。
「やっぱり莉子ちゃんのこと、気になってるんじゃないか」
(莉子……? 気になる……? ああ、そうか)
唐突に拓海は思い出した。そこは中学では告白スポットになっている場所なのだ。
(そういえばそうだった。莉子が、先輩に呼び出されたんだった)
頭の中が混乱しているような自覚がありつつも、莉子のことが気になって様子を見に来たのだということを拓海は思い出した。少しずつ自分が着ている中学の制服のことも気にならなくなっていく。
待っているとまず莉子が現れ、中学の時に莉子に告白した先輩の男が現れた。
「好きです、付き合ってください!」
男は莉子に想いを告げる。拓海の中に嫌な感情が湧き上がって来た。
(莉子が……この男と……? ありえない!)
拓海は今すぐに飛び出したい感情と戦いながらその場を見守った。
長い沈黙の後、莉子は告げる。
「よろしく……お願いします」
(は!? いやいや、待て待て待て!!)
莉子の肯定の言葉に、拓海は驚愕する。
男は歓喜の声を上げ、莉子に抱きついた。
(おい、こら止めろ!! なんでそうなるんだ!! そうじゃ……なかったはずだ!!)
今、目の前で起きている光景が信じられず、拓海は声を上げようとしたが、思うように身体が動かない。脚すら動かせなかった。
「あーあ、拓海が早く告白しないからだぞ」
隣で浩太が言った。
(いや、それも違う!! 莉子は断った!! その後に浩太が言ったセリフはそんな言葉じゃなかった!!)
拓海は浩太に叫ぼうとしたが、口も動かない。
莉子の方に目を向けると、男は唇を莉子の唇に近付けているところだった。
(てめえ、今すぐ止めろ!! なんで俺の身体は動かないんだ!! やめろぉおおお!!)
◇◇
「ぅぁぁぁあああ!!」
叫びと共に日菜菊は目覚めた。息切れしながら辺りを見回すと、そこはホテルの一室だった。適度に効かせてある暖房の中でも、寝汗のためにヒンヤリする。
(ゆ、夢……? なんて夢を……)
日菜菊は悪夢で目覚めたことを自覚した。拓海と魂を共有している以上、見る夢も共有される。事実と事実ではない内容の混じった本当に嫌な夢だと日菜菊は思った。
カーテンからは光が差し込んでおり、朝の到来を告げている。日菜菊はタオルで自分の汗を拭き、ふと隣の布団を見た。
莉子が寝息を立てて眠っている。莉子は紛れもなく自分の彼女だという事実に安心し、莉子の布団に移動して後ろから抱きしめた。他の女子もいる部屋なのでこういうことは避けるべきなのだろうが、誰も起きていないようなので、少しだけというつもりでそうしてしまった。




