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怪異研究会の事件ファイル  作者: シマフジ英
File 7 夢を操る怪異
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7-3話  異世界での出来事

 マラソン大会の日の放課後。


 この日は怪異研究会で異世界ゾダールハイムのゲート監視所を訪れる日だ。部活の主体はあくまで拓海(たくみ)莉子(りこ)()()(ぎく)であり、元々巻き込まれただけである浩太(こうた)はついて行くだけだ。


 いつものように剣持(けんもち)が引率で先導し、拓海たちが続き、その後ろを浩太とクラリスが歩いている。


 浩太はマラソン大会の後に拓海に茶化されたことを思い出していた。別にクラリスとの関係を茶化されたところで、いつものようにはぐらかせばいい。それは拓海に限らず、誰に茶化されたところで変わらないのだが、どうも最近、クラリスの態度が変わってきていることを浩太は感じていた。


(あの悪魔事件の時からか……。ちょっと俺も油断しすぎたかな……?)

 怨霊と戦うなどという緊張状態におかれた後、ルビーのアンティークショップでテンションがおかしくなり、クラリスと手を繋いで傍目から見ればイチャイチャしているようなことをしてしまった。


 クラリスがいかに美人でも、それだけでは浩太の心は動かない。しかし、下手なことをしてクラリスの心境を変化させてしまったのなら、良くない傾向だと浩太は思った。


「コウタ、難しい顔をしてどうしたの?」

「……いや、なんでもないよ」

「そう? 変なの」

 クラリスに返答し、浩太は黙って歩き続けた。



 既にゾダールハイム側も浩太とキマロの契約解除に諦めムードなのだが、この日は一人の学者がゲート監視所を訪れていた。つまりは契約解除を試すということだ。


「んじゃまあ、行ってくるわ」

「頑張ってな」

「また後でね」

 拓海たちに送り出され、浩太は剣持とキマロと一緒にゲート監視所の奥の部屋に入った。


 部屋の中で学者は何らかの儀式の準備をしていた。


「ちょっとヌルヌルした薬剤で床を汚してますので、滑らないように気をつけてください」

「魔術の力を増幅する薬じゃの。ふん、そんなの無駄じゃというのに」

 キマロが浩太の肩で呟いた。


 学者は何らかの魔術を行使し、床の薬剤が反応するように光り始め、その光は浩太とキマロをも包んだ。しばらくその状態が続いたが、光が収まると共に学者も諦めたようだ。


「これもダメですね。まあ、そんなことだろうと思ってはいましたが」

 学者は、足元に気をつけながら機材を片付け始めた。剣持も部屋を出ていき、外にいた兵士と何やら話し始めたようだった。浩太がぼーっとしていると、領主のガストンが部屋に顔を出した。


「あ、ガストンさん来てたんですね」

「コウタ殿、ご無沙汰しておるな。ちょっとキマロに話があって。キマロ、来てくれるか?」

「なんじゃ、コウタ抜きでか? あんまり距離は取れんぞ」

「すぐそこまでだ」

「ふーむ、分かった」

 キマロはそう言うと、ガストンの肩に飛んでいった。ガストンはそのままキマロを連れて向かいの部屋に入っていったようだった。


(まっ、異世界側にも色々と事情はあるよな)

 浩太はゆっくり椅子から立ち上がり、足元が滑らないように慎重に足を動かし、背伸びをした。


「コウタ? 終わったの?」

 クラリスがひょっこり部屋を覗きに来た。


「ああ、終わった」

「ふーん。タクミたちと一緒に領主様のお土産を食べてるから、終わったなら一緒に……」

「おいバカ、足元気をつけろ!」

「え?」


 床に薬剤が巻かれていることを伝える間もなく部屋の中に入って来たクラリスは、浩太の危惧通りに足元を滑らせた。それを予期していた浩太はすんでのところでクラリスの肩を押さえて転倒を阻止した。


「ぅ!?」

「っ!?」

 浩太のすぐ目の前にクラリスの顔があった。あと少しの距離で唇が唇に触れてしまいそうだった。目と目が合う。


(ぐ……それは……まずい)

 浩太は意地になって体制を立て直そうとする。ラッキースケベもラッキースケベられも絶対に遭ってはならない。そう思いながら、浩太は滑る床に自分を滑らせないようにクラリスを立ち上がらせた。


「あ、ありがと……」

「い、いや、俺も地面のこと伝えるの遅れた」

 心臓の鼓動が上がっているのは、ムキになって力を入れたせいかそれとも別の理由か。後者だと思いたくはなく、浩太はクラリスから目を逸らした。


「ありゃりゃ、すいません。床はすぐ拭きますので」

 学者はそう言うと、掃除用具入れからモップを取り出した。浩太とクラリスは滑らないようにして部屋を出ていった。


「……」

「……」

 やましいことは起こらないように徹底した。それでもこの美人な少女とあんなに接近してしまったという事実は覆しようがなく、浩太は無言になってしまった。


「えと……、お土産、食べに行こ……」

「……ああ、そうだったな」

 クラリスの助け舟のような言葉に反応し、浩太は歩き出した。クラリスもそれに続いて来る。


 二人はキマロのことをすっかり忘れていたのだが、浩太が歩き出したタイミングでキマロとガストンが部屋から出てきて合流したので、浩太とキマロの距離の問題は起こらなかった。


 浩太は自分の心臓の高鳴りが収まっていないことに気づいていたが、気づかないふりをするしかなかった。



    ◇◇



 時は少し前、キマロは浩太がいた部屋の向かいの部屋でガストンと話していた。


「一体どうしたのじゃガストン?」

「魔術協会から連絡があってな。キマロ以外の竜神族の契約者の候補が見つからないらしい」

「なに、一人もか!?」

「どういうことなのだ? 協会はかなり焦っているようだった。キマロと異世界の少年との契約解除はどうなったかと。契約者が一人もいないと何かまずいことでもあるのか?」

「そ、それは……」

「私も竜神族については勉強したつもりだが、この魔術協会の反応は何かがおかしいと思っている。キマロ、知っていることがあるのなら教えてくれ」

「…………」

 キマロは少し無言になった。しかし、やはりキマロはガストンにも言うつもりはなかった。


「いや、ワシは何も知らぬよ」

「そうか……」

 ガストンはその言葉をそのまま信用したわけではないようだったが、引き下がった。


「もし、何か重大なことがあるのなら後からでも言ってくれ。私にもこの領地を預かる責任がある」

 ガストンはそう言うと、部屋から出た。


(契約者がいない、それはまずいの……。じゃが、今しばらく待てば誰かしら候補が現れるじゃろ……)

 キマロはそのまま浩太とクラリスと合流した。

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