6-7話 召喚の呪文
拓海たちはオカルト研究会の喫茶店を後にした。
「ルビーさん、どうしますか?」
「まあ、何か起こるにしても文化祭が終わって、人がいなくなってからでしょう。今はみんな文化祭を回ってきても良いわよ」
ルビーはそう言うと、スタスタと歩き去ってしまった。
「うーん、どうする莉子?」
「ルビーさんもああ言ってるし、回ってみようか?」
日菜菊が尋ね、莉子が答えた。浩太はいつものように、ヒナタ・コンビと莉子に気を回したようで、クラリスとキマロを連れてさっさと歩いていった。
「どこから回ろうか」
拓海は文化祭の案内を開く。拓海の高校に比べて、気合いの入った文化祭ではない。写真部や美術部が作品を展示しているようだったので順番に見ていくことになったが、あっという間に回りきってしまい、拓海たちは校庭に用意されている椅子に座った。
「高校によって文化祭へのスタンス違うなぁ」
「まあでも、オカルト研究会の喫茶店とか、よく出来てたと思うよ。うちの高校が異常なんだよ」
拓海の呟きに莉子が反応した。
「でも、オカルト研究会、実際のところどうなんだろね」
日菜菊がオカルト研究会の喫茶店を外から眺めながら言った。
「悪魔召喚の書の他にもいくつかの魔具。メンバーの一人が邪気を放っている。ただの偶然だといいんだけど、そうとは思えない要素が揃って来ちゃったよね」
莉子がそう言った。
「他にあった魔具って、あの剣か……」
「うん。青く光っていたから、邪気を持ったものではないよね」
「とすると、ヤバそうなのは悪魔召喚の書と、その邪気を持ったメンバーか」
拓海と莉子と日菜菊が話していると、ルビーがやって来た。
「状況を整理しているようね」
「あ、ルビーさん」
「どこに行っていたんですか?」
「色々と今夜の準備を。調査もあらかた済んだわ。少し忙しくなりそうね」
ルビーは魔具らしきものを手にしながら言った。
「それ、異次元を作り出す?」
「ええ。事態が深刻化したら、異次元に引きずりこんで、逃さないようにするつもりよ。そうね、浩太くんたちと合流したら、皆にも説明しておくわね」
拓海たちは浩太と合流した後、ルビーから現状説明を受けた。それによると、この夜に事件が起こるのは間違いないようだった。
◇
その高校での文化祭の1日目が終わると、拓海たちは姿を消す魔具を使って、オカルト研究会の動向を監視していた。オカルト研究会のメンバー4人は、喫茶店をやった部室で打ち上げをしていた。帰宅を促す校内アナウンスが流れた後、教師らしき人物が訪れて帰宅するように伝えていたが、4人は依然として部室に残っているのだった。
「この内装、よくできたよな」
「明日には片付けちゃうんだよね? なんか勿体ないなぁ」
「悪魔召喚の書も返さないといけないしね」
男子一人と女子二人が話している。もう一人の男子は、その悪魔召喚の書を開いて眺めていた。
「なあ、みんな。あのアンティークショップのお姉さんが言ってたこと、覚えているか?」
「そこに書いてある呪文を唱えちゃダメって奴?」
「悪魔が出て来るんだっけか。ぶっちゃけ、そんな呪文があるなら、それも喫茶店で流したかったよな」
「やだ、怖い! でも、読めないよね、その文字」
「それがさ。実は他のオカルトショップで、この呪文の音源を見つけたんだよね。ちょっと、試してみないか?」
悪魔召喚の書を眺めていた男子が物騒なことを言い出した。姿を消したまま教室を外から監視している拓海は横にいる莉子の耳に口を近づけた。
「始まったのか?」
「みたいだね……」
魔具を使っている者同士は姿を見ることができるので、拓海には莉子が緊張しているのが分かった。
教室内を見ていると、男子がCDを取り出し、ラジカセにセットした。スイッチが入ると、ラジカセからは呪文らしき音が聞こえてくる。腹の底に響くような呪文は1分ほど鳴り響き、やがて終わった。
「やだ……怖かった」
「いやー、でもその書にピッタリの音だったな」
「確かに。明日、喫茶店で使えるんじゃない?」
男子一人と女子二人はそんなことを言っている。しかし、もう一人の男子は険しい表情で書を眺めていた。
「来る!!」
その男子はそう言うと、悪魔召喚の書を部室の入り口付近に投げ捨てた。
「お、おい、何やって……」
「きゃっ! 何あれ!!」
女子生徒が叫ぶと、悪魔召喚の書の上の空間に赤い光の玉が現れた。赤い玉は徐々に形を作っていき、翼の生えた筋骨隆々のモノに変わっていった。角や尻尾もあり、明らかに人間ではない。
「「きゃあああああ!!」」
「うわあああああ!!」
男子一人と女子二人が叫んだ。もう一人の男子は、静かに呟いた。
「ほ、本当に悪魔なのか……?」
「そうだ、俺は悪魔だ。俺を召喚したのは、貴様たちか……?」
その悪魔は低い声で言った。
その様子を見ていた莉子が、口を拓海の耳に近づける。
「拓海! 今じゃない!」
「ああ、分かってる!」
拓海は莉子に返答した。別の場所にいる日菜菊がルビーに合図をする。ルビーは頷き、魔具を使って、学校に残っている者を異次元空間に引きずりこんだ。
ルビーが準備した異次元空間は学校とほぼ同じに作られていて、ほとんどの者は引きずりこまれたことさえ分からない。
「ん? どうやら他にもネズミが入り込んでいるようだな」
異次元空間に引きずりこまれたことを察知した様子の悪魔が言った。
「お、おい! どうするんだよ、茂人!」
男子生徒が叫んだ。茂人と呼ばれたのは悪魔召喚をした男子だ。茂人は、男子生徒に顔を向けた。
「そうだ、あの剣を取るんだ!」
そしてその男子生徒に言った。男子生徒は、もう一つ紛れ込んでいた剣の魔具を取った。
「これ、お前が見つけてきた破邪の魔具って奴だろ! これで悪魔を倒せるのか!?」
「俺を倒すだと!? 人間ふぜいが、舐めたことを!」
悪魔はズカズカと剣を持った男子生徒に詰め寄る。
「う、うわあああ!! 茂人、どうすりゃいいんだよ!?」
「斬りつけろ!」
茂人に言われ、男子生徒は剣を振りかぶったが、緊張と重さのせいか悪魔に当たらず、床にめり込んでしまった。悪魔は右手を巨大化させ、男子生徒の胴体を掴み上げる。
「ぐえ……!?」
男子生徒の手から剣がこぼれ落ちた。
「きゃあああ!!」
「止めてえええ!!」
今にも握り潰されてしまいそうな男子生徒を目の当たりにして、女子二人が叫んだ。
「女ども、貴様らも少し黙れ」
悪魔の二つに分かれた尻尾が女子生徒二人に巻きつき、空中に持ち上げてしまった。女子二人は青い顔をして悲鳴を上げている。
「ちっ、使えない……」
最後の一人である茂人が言った。
「む、貴様……?」
「お、気づくのか……? さすが悪魔ってとこなのか」
何かに気づいた様子の悪魔に茂人が答えた。
「莉子、やろう!」
「うん!」
拓海と莉子が叫んだ。悪魔が茂人以外の者を掴んでいる今が絶好の機会だと拓海は思ったのだ。拓海は姿を消す魔具を解除し、別の魔具で異次元空間の部室の窓を割って叫んだ。
「そこの悪魔! こっちだ!!」
「なに!?」
悪魔が拓海の方を見た。拓海の横で莉子が別の魔具を掲げている。それは怪異に危険を知らせる信号だったので、悪魔はすぐに理解したようで、窓を破って校庭に飛び出た。
悪魔に掴まれたままの男子一人と女子二人は訳が分からないといった様子で叫んでいる。拓海は3人に向けて別の魔具を光らせた。すると、悪魔に掴まれたままの3人は意識を失って脱力した。
「む! 眠らせるのか?」
「その人達は巻き込まれただけです」
「ええ、本当にヤバいのは……」
悪魔の問いかけに答えると、拓海と莉子は部室内を見た。そこには目を赤く光らせた茂人がいた。
「ネズミが入り込んでいるってのは、お前たちのことか……。まったく、いいところで邪魔を」
茂人が辺りに響くような声で言った。
「ルビーさんの言った通りだな……」
「ホントだね……」
拓海と莉子が呟く。
ルビーから事前に聞かされていたこと。それは、茂人こそがこの事件の首謀者で、放っておけば召喚される悪魔が被害者になってしまうということだった。




