6-6話 悪魔召喚の書
異世界ゾダールハイムから帰還した翌日。拓海は登校のため制服の準備をしていた。まだ残暑はあるがこの日から冬服に衣替えだ。
制服に着替えて隣家に向かい、玄関に上がらせてもらって莉子を待った。
「拓海、おはよ」
「おはよう、莉子」
玄関に現れた莉子も当然冬服だ。春にも見た姿だったが、しばらく夏服だったので、新鮮に映った。
「冬服も似合うなぁ、莉子は」
「もう!」
莉子は照れたような顔で言うと、拓海の腕を叩いた。
「ほらほら、朝からイチャついてないで、早く行きなさい」
「は、はーい」
莉子の母がニヤつきながら突っ込んで来たので、拓海と莉子はそそくさと玄関を出た。
登校、授業、部活。
異世界を旅した前日までとは異なる、いつもの日常だ。この日はルビーのアンティークショップに行くことになっている。放課後になると、拓海、莉子、日菜菊、浩太、クラリス、キマロはルビーの店に移動した。
「こんにちは~」
「あら、いらっしゃい」
莉子が先頭に、ルビーのアンティークショップに入っていく。拓海たちも次々と挨拶をして入店した。
「あ、先客がいるね」
「ほう、珍しいことじゃの」
「いやいや、たまにいるじゃないかよ!」
店に別の客がいることにクラリスとキマロが気づき、浩太が突っ込みを入れる。
拓海と莉子と日菜菊は、ルビーから新しい魔具を見せてもらったりしていた。しかし、ふと拓海が店の端のランプを見ると、青く光っていることに気づいた。
「あ、あれ!? 確かあのランプって」
「拓海も気づいた?」
拓海と莉子が言った。日菜菊はルビーを見る。
「よく気づいたわね。うん、確かに邪気を放つ怪異が近くにいる。でも、その件は後にしましょう」
ルビーが小声で拓海たちに囁いた。
ちょうどそのタイミングで先客だった4人組がルビーの元にやって来た。
「あの、すいません!」
4人は展示してある骨董品のところまでルビーを連れ出した。拓海たちとは違う制服を着た男女が2人ずつの学生たちだ。
「この悪魔召喚の書なんですけど」
「レンタルできるんですよね?」
「ええ、書いてある通りよ」
「あの、私たちオカルト研究会っていう部活をやっているんですけど、文化祭でオカルト風喫茶をやるんです。可能ならこれをレンタルしたいんですけど、少し、価格が……」
「ああ、そういうことね。うちは学割もやっているから、このくらいの額でどう?」
「えっ! こんなに安くなるんですか!」
「やった! じゃあ、ぜひお願いします!」
学生たちは値切り交渉をするつもりだったようだが、ルビーが先に提示した値下げ額に満足して口々に喜んだ。
「ふふ、書いてある呪文を唱えちゃダメよ。 本当に悪魔が出てきてしまうかも?」
「え、まさか……はは」
「まあ、日本にそれを読める人はいないでしょう。喫茶店の飾りにするくらいなら問題ないわ」
そして、学生たちはその悪魔召喚の書という道具を持って帰っていった。
「ルビーさん!」
「今の人たち……」
拓海たちがルビーに駆け寄った。拓海も莉子も、今の学生たちが帰った途端に、邪気に反応するランプの色が赤に戻ったことに気づいたのだ。拓海と莉子と日菜菊の様子に、浩太とクラリスとキマロも寄ってきた。
「4人のうち誰かが怪異なのか、それとも何かに憑かれているのか。あのランプが反応した理由は調べてみたいと分からないわね」
「だったら、悪魔召喚だなんて、あんなもの、貸しちゃって良かったんですか?」
「あれは本物だけれど、召喚の呪文は人間にもそこらの怪異にも読めない。だから普通は大丈夫なのだけれど……」
(ん……?)
ルビーが意味ありげな視線をキマロに向けたように拓海には思えた。そして、ルビーは続けた。
「でもそうね。ちょっと動向を監視しても面白いかもね。みんな、彼らの高校の文化祭に行ってみないかしら?」
ルビーのその提案に、拓海は莉子を見た。どうやら莉子も肯定のようだった。浩太たちも了承し、拓海たちはその高校の文化祭に行くことにした。
◇
次の土曜になり、拓海は朝から制服を着て莉子と共に目的の高校に向かった。校門には既にルビーが来ていた。次に日菜菊が到着し、続いて浩太とクラリスとキマロが現れた。
「来たわね、みんな。早速、目的の喫茶店に行ってみましょう」
「はい」
「行きましょう」
拓海たちは校門をくぐり、文化祭をやっているその高校に足を踏み入れた。外部の人間もそれなりに来ているようだったが、拓海の高校ほど熱狂的な文化祭というわけではなく、静かな雰囲気だった。オカルト研究会の喫茶店も並ばずに入ることができた。
「いらっしゃいませ、って、あ! アンティークショップのお姉さん!」
「こんにちは。上手くやっているようね」
「はい、ありがとうございました。あの書もほら、あそこに飾ってありますよ!」
悪魔召喚の書は他のオカルトめいたグッズと一緒に並べられており、怪しげな雰囲気を作り出すのに一役買っていた。
拓海たちは少し人数が多かったが、席をくっつけることで同じ場所に座ることができた。コーヒーや紅茶をオーダーし、しばし時間を使うことにした。
「ふーん、悪魔召喚の書以外にも魔具が混じっているわね」
「あの剣、とかですか……」
「あれもそうね」
莉子は手に持った魔具で剣を覗き込んでいる。拓海も魔具を借りると、魔具ごしに見たその剣からは青白い光が漏れていた。
「どういうことなんじゃ?」
「詳細はまだ分からない。しばらく観察する必要があるわね」
「ねえルビーさん、本当に大丈夫? タクミかヒナギクがゾダールハイムにいた方が良かったんじゃ……?」
思ったより怪しげな状況に、心配になった様子のクラリスがルビーに尋ねた。
「魔術? いいえ大丈夫よ、今回は私もいるし。まあ、見ていなさい」
ルビーはそんなことを言って異世界組を落ち着かせた。




