6-3話 秋の収穫祭
拓海たちを乗せたゴーレム車はシュトールの街に入った。異世界の街はレンガ作りのような建物が並び、欧州の中世時代を思わせるような雰囲気を醸し出している。しかし、魔術を応用して作られたその街には街灯らしきものもあるし、文明が進んでいないというわけではないようだった。
「「「おおー!!」」」
思わず拓海たちは声を上げてしまう。こんな光景を目にしたのは地球人として初めてなのだ。それだけ感動も大きい。街は、この日から始まる収穫祭の準備が進んでいるところだった。
「くくく、燃えるわね。怪異の連中にも自慢できるわ」
ルビーは不敵な笑みを浮かべている。
「クラスの皆にも見せてやりたかったな」
「そうだよね。みんな怪異に関わっているわけだし」
「異世界にクラス全員というのは僕の荷が重いよ……」
拓海と莉子の感想に、剣持が答えた。
「そんなこと言って、柚希は呼んでいるじゃないですか!」
「私がワガママ言ったんだよ。15年閉じ込められたゲートの先の世界、どうせなら見てみたくて」
日菜菊の茶化しに柚希が反応する。
「あそこが私の家よ」
「久しぶりじゃな」
「おお、大きいな……」
クラリスとキマロと浩太は、ゴーレム車の向かう先の邸宅を見ていた。異世界にいる間、クラリスの実家に滞在することになっている。
クラリスの家は名の知れた家のようで、何かの施設なのではないかと思わされるような大きさをしており、拓海たちが下車した先には執事と思われる男性や多数のメイドと思われる女性がいた。
「ようこそ、チキュウの皆様」
執事が歓迎の言葉を発すると、メイドたちは一斉に頭を下げた。執事の立つ先にはクラリスの父ピエットがおり、剣持と握手をする。続いて、メイドたちは拓海たちを部屋に案内した。拓海と浩太とキマロは男子用に割り当てられた部屋まで来た。
「皆様がお住まいのニホンと違って靴のままで結構です。そのままお入りください」
メイドにそう言われ、拓海と浩太は靴のまま部屋に入っていった。
「でっかいベッドだな、これ!」
「うひょー」
拓海と浩太はとりあえずベッドに飛び込むことから始めた。
「異世界の寝具はベッドか。布団の立場ないな」
「コウタの家でも布団など使っておらぬではないか」
「ま、確かに」
そんなことを言っていると、メイドがお茶を用意して退出していった。拓海と浩太はお茶を飲みながらしばらくのんびりした。
やがてメイドが呼びに来て、拓海たちは大部屋に案内された。莉子と日菜菊と柚希も女子部屋から移動し、剣持も引率部屋から出てきている。なお、ルビーにも部屋が用意されているが、早速どこかへ行ってしまったようだった。
大部屋にはピエットの他に、拓海たちもよく知る顔がいた。
「シャロン!」
「文化祭以来ね、クラリス!」
クラリスはシャロンに歩み寄り、抱擁を交わした。シャロンは収穫祭の案内役をすることになっている。
シャロンの他、警備担当の私服兵士が同行しながら、拓海たちは外に出た。街の広場で、領主のガストンが開会を宣言し、収穫祭は開始となった。
たちまち街に仕掛けられた魔術器具が様々な色に光り、空には花火のようなものが炸裂しており、街からは人々の歓声が響いている。拓海たちも感嘆の声を上げ、手にスマホを持って写真に収めたりしていた。
「じゃあ、お祭り歩いてみましょう」
シャロンが言い、拓海たちはその後に着いていった。
街には沢山の屋台が出ていた。食べ物はもちろん、アクセサリーや、拓海たちには分からない魔術の道具も売られている。街中で音楽を演奏したり、大道芸をする者もいた。
「あ、あれは!」
莉子が屋台に駆け寄った。拓海もついて行くと、そこには一本の骨とそれを覆う肉塊、いわゆるマンガ肉が売られていた。
「こ、これは……」
「マンガ文化の人なら憧れるね……」
「○※▲△」
店の人はゾダールハイムの言語で話しかけてきた。シャロンが駆け寄り、通訳をしてくれた。
「フレイムリザードのモモ肉だって。買ってみる?」
「フ、フレイムリザードって……?」
「チキュウにはいない生物だけど、まあ、普通に食べる肉だよ」
「じゃあ、お願いしたいかも!」
シャロンはフレイムリザードの肉を代わりに買ってくれた。なかなかのサイズなので、拓海と莉子とで、肉からはみ出している骨の部分を持つ。
「これは……かぶりつくべきだよな」
「だ、だよね……」
まずは拓海がかぶりついてみた。
「うお、美味ぇ!」
「どれどれ……。あ! ホント!」
続いて莉子もかぶりついて肉を食べた。その様子を見て、浩太もフレイムリザードの肉を購入して食べ始めた。
「いやー、どれも美味しいね」
日菜菊が串に刺さった魚を食べながら言った。魚は地球では見たことのないものだが、脂が乗っていて食べやすかった。いつものように拓海と日菜菊は別のものを食べることにしている。キマロは浩太と距離を取りすぎない場所に浮かび、シャロンと一緒に拓海たちに色々と説明をしたりしていた。
剣持と柚希も楽しそうに屋台の食べ物を買っていた。
「……」
クラリスはその光景を笑みを浮かべながら見ていた。そして、手に持っている魔術の道具らしきものをかざしている。
「それ、何だ?」
浩太がフレイムリザードのマンガ肉を手に持ちながらクラリスに話しかけた。
「スマホで写真撮れるでしょ? それと同じ、かな」
「映像を残しておくのか」
「うん。原理は違うけどね」
クラリスが浩太の方を振り返って言った。
「キマロがあんたと契約してしまって、どうなるかと思ったけど、皆と知り合えたのは一生の思い出になるかな」
「……随分と神妙なことを言うんだな」
そう言うと、浩太も片手でスマホを出して、クラリスにかざした。クラリスは嫌がる素振りは見せず、浩太に向かって笑顔でピースサインをする。そして、再び拓海たちを見た。
「……ゲートがいつまで開いているかは分からない。だから、皆とのことは、ちゃんと残しておきたい。スマホでも、この道具でもね」
「…………」
浩太はクラリスのその呟きに言葉を返さなかった。きっと、返すことができなかったのだ。




