6-2話 異世界の行事に参加
文化祭に体育祭と行事ムードだった時期は過ぎ去り、拓海の高校は2学期の中間試験の時期に入った。拓海の部屋で莉子と一緒に勉強したり、逆に莉子の部屋を訪れたり、莉子が日菜菊の部屋に勉強しにいったりの試験勉強期間だった。
日によっては、浩太の家を訪れ、クラリスを交えることもあった。クラリスは今回も気合を入れたようで、浩太はそれに振り回されていた。
やがて試験は終了し、拓海たちの2組の教室も歓喜に包まれた。
「終わったぁぁぁ」
「お疲れ~」
「部活再開~」
クラスメイトは次々と想いを口にする。浩太とクラリスが疲労で机に突っ伏しているのも、1学期の試験と同じだった。
「お疲れ、コウちゃん、クラリス」
「今回もよう頑張ったの、クラリス」
莉子とキマロが声をかける。
「異世界に行く日だよね? とりあえず資料室に移動しよ」
日菜菊が浩太とクラリスに声をかけた。浩太とクラリスは気怠そうな身体を起こし、拓海たちは怪異研究会の資料室に移動した。
資料室でしばし談笑した後、引率の剣持が資料室を訪れ、全員で異世界ゾダールハイムのゲート監視所に移動した。この日は、ゲートの噂を聞きつけた商人がゲート監視所を訪れていた。
「こんにちは、異世界の皆様」
商人が拓海たちに挨拶をする。
「商人?」
「なんでまた?」
「いやあ、商売のネタになるかもしれませんからね。色々と話を聞かせて頂けるとありがたいです」
拓海は浩太とキマロを見た。もはや契約解除の意志すら、ゾダールハイム側から感じられなくなっている。キマロは肩をすくめる動作をした。
商人のお付きらしき人が、荷車から食べ物を取り出して拓海たちに振る舞った。
「お近づきの証に、どうぞお召し上がりくださいね」
商人がそう言うと、拓海たちはそのお菓子らしきものを食べてみた。
「あ、美味しい!」
「ホント! 地球、少なくとも日本には無い味だね!」
拓海たちは口々に感想を言う。
商人は拓海たちに地球での暮らしのことを色々聞いてきた。しかし、そもそもゲートの大きさが小さいので、商売に繋げるような物品の移送は難しいと感じたようだ。
「ふーむ、なかなか商売に繋げるのは難しいかもしれませんねぇ」
しかし、商人は異世界人との交流に満足しているようだった。
「それにしても、荷物が多いのぉ」
「そろそろ秋の収穫祭ですからね。オーダーが多いんですよ」
キマロの問いに商人が答えた。
「そっか、もう収穫祭の時期なのね……」
「収穫祭ってなんだ?」
「夏から秋にかけて収穫された食材を使ったお祭り。来年もお願いしますという気持ちを神に捧げる行事だね。街を上げてのお祭りだから賑やかになるのよ」
クラリスが浩太に答えた。
「へぇぇ。見てみたいなぁ」
「そうね、異世界のお祭りだなんて、ワクワクしちゃうね!」
拓海と莉子も収穫祭について語り合っている。
「ふむ、確かにそうじゃな」
「チキュウでばかり色んな行事に参加させてもらってるし、皆を収穫祭に招待したいね」
キマロとクラリスが言った。
クラリスとキマロはゲート監視所の兵士に事情を話してみた。ここの兵士は拓海たちの文化祭にも協力してくれたり、何かとノリがいいので、親指を立てる仕草をして引き受けてくれた。
相談はゾダールハイムのその地域の領主であるガストンに届き、怪異研究会顧問の剣持との間で調整が行われることになった。
◇
数日が経ち、拓海たちは剣持に呼び出され、怪異研究会の資料室に集まった。剣持はゾダールハイムの収穫祭への参加の調整ができたことを伝えてきた。
「ガストンは頭を抱えていたぞ。地球からの来訪者の安全第一とのことだよ」
「領主様も気にしすぎなのよね」
「ゾダールハイムに戻ればワシも魔術を使えるし、皆の安全なら任せておけ」
クラリスとキマロは拓海たちを収穫祭に案内できるのが楽しみなようだった。
「僕も引率でついて行くけど、ルビーも来るとのことだよ」
「ルビーさんですか?」
「怪異たちにとっても地球の人間を危険に晒すわけにはいかないんだそうだ。監視者という名目らしいでルビーが来る。だけど、多分、ルビーが行きたいだけで調整したんだろうな……」
「あ、あはは、ルビーさんらしいですね」
こうして異世界ゾダールハイムのゲート監視所より先に、初めて足を運ぶことが決まったのだった。
◇
異世界を訪問する日、拓海、莉子、日菜菊、浩太、クラリス、キマロ、剣持、柚希、ルビーは異世界ゾダールハイムのゲート監視所に来ていた。ゲート監視所には馬車のような、何かが引くことを想定した乗り物が置いてあったが、馬は見当たらない。
地球の服では何かと目立つということで、拓海たちはゾダールハイムの服に着替えた。
「皆さん、くれぐれもはぐれないようにお願いします。通訳がいないとコミュニケーションさえ取れませんからね」
「そうじゃぞ。翻訳術は、一般市民には使えんからの」
「そうなのか? 地球に来る人がみんな使ってるから、全員できるのかと思った」
兵士とキマロが説明し、拓海が答えた。
「お主らがこれまで会ってきた人間は、ゾダールハイムのエリートばかりということじゃ」
「うへ、そうだったのか。だったらあのデボールのおっさんもか」
「そうなんじゃよ。ワシもエリートには見えんのじゃがな、奴は……」
兵士に案内され、拓海たちは乗り物に乗った。兵士が何やら呪文を唱えると、乗り物の前に動物のような大きさの人形が現れた。
「あれは何?」
「ゴーレムよ。この乗り物はゴーレムが引くことで動くの。チキュウでも馬で引く乗り物があるんでしょ?」
「へえ、凄いな……」
莉子と拓海がクラリスからこのゴーレム車の説明を受けている。浩太や剣持、ルビーも興味深そうに聞いていた。
「では、出発しますよ」
兵士がそう声をかけると、ゴーレム車は動き出した。
ゲート監視所は公になっている施設ではないが、浩太とキマロの契約解除を試みるために学者たちが訪れるので、道はある程度整備されていた。ゴーレムは車の牽引に特化した作りにされているらしく、車の部分に大きな揺れが起こることもなかった。
森を抜けると、開けた空間に出た。遠くには山が見え、ゴーレム車は舗装された道に入った。
「おわー、広大だな!」
「ホントだね!」
拓海たちは思い思いに言葉を発し、スマホで写真を撮った。電波が入らないので、もはや役割はカメラのみだ。
舗装道路に入ると、ゴーレム車は速度を増して前進していき、やがて遠目にも街が見えてきた。それがクラリスの故郷、シュトールの街だった。




