5-11話 疑惑
ピエット襲来の翌日。莉子はクラリスとキマロのことを考えていた。前日は体育祭も後夜祭もあり、疲れで頭が動いていなかったのか考えが及ばなかったのだが、睡眠を取ってスッキリした途端、頭の中に違和感を覚えるのだった。
(やっぱ変だな……。キマロに聞いてみる? いや、直接聞くのはどうなんだろ)
そんなことを考えていると、拓海が莉子の家の玄関までやって来た。浩太の家に泊まったピエットを怪異研究会のメンバーで見送りするということになったので、一緒に浩太の家に行く予定だ。
休日とはいえ学校に行くことになるので制服に着替え、莉子は玄関まで出向いた。
「お待たせ、行こっか」
「ああ」
莉子は拓海と共に浩太の家に向かって歩き始めた。最寄り駅こそ違えど、同じ中学だった浩太の家はそれほど遠いわけではなく、電車には乗らずに最後まで歩くことにしている。
歩きながら、莉子は頭に浮かんだ疑問を拓海にも聞いてみることにした。
「ねえ、拓海。キマロのことなんだけど」
「ん?」
「クラリスとの竜神族の契約を拒んだ理由、覚えてる?」
「え? うーん、そういえば何でだっけ……?」
「確か、クラリスのお父さんが竜神族の力を悪用するとか、そんなことだったと思うんだよね」
「ああ、そういえばそうだったかも。……ん? でも、それってピエットさんだろ?」
「そうなんだよ。とてもそういう人には見えなかったよね、ピエットさん……」
「俺もそう思う。そういう人じゃないだろ」
ピエットが心の内を晒していない可能性はあるものの、キマロがクラリスとの契約を拒んだのは他に本当の理由があるのではないかと莉子は思った。
「気になるの、莉子?」
「うん、ちょっとね……。見過ごしてはいけない気がする」
「莉子のそういうの当たるからなぁ。キマロにそれとなく聞いてみるか?」
「そうね……」
話しているうちに浩太の家に着いた。
浩太とクラリスは、ピエットと浩太の両親を交えて何やら話しており、莉子と拓海はしばし朱里と談笑した。やがて日菜菊が到着した。
シャロンの時のようなクオリティでピエットをもてなす予定はなかったが、せめて地球の日本の名物でもある寿司を堪能してもらおうということになり、全員で寿司屋に移動した。
「ちなみに、寿司代は部費で落ちるそうです……。いくら頼んでも大丈夫ですよ」
莉子が浩太の両親に伝えた。
寿司屋に着くと、学生陣は持ち前の食欲で次々と皿を消化していった。ピエットも異世界である地球の食事に興味が湧いたようで、沢山の皿を平らげている。
ピエットと浩太の父はすっかり打ち解けたようで、酒抜きでも楽しそうに語り合っていた。浩太の母も話に加わっており、子育てはどうだったか等、親世代特有の話をしている。
「やっぱり良い人だ」
「だよなぁ」
莉子と拓海が小声で話す。
食べ終わって日本茶を啜りながら笑顔のピエットは、竜神族の力を悪用する人には思えないと莉子は改めて感じた。
寿司屋を出ると、タクシーで高校に移動し、裏の屋上のゲート前までやって来た。朱里や浩太の両親は初めて見るゲートに圧倒されているようだった。
ピエットは浩太の両親と挨拶を交わすと、浩太の前に立った。
「コウタ、もはや何も言うまい。ただ、クラリスを傷物にしたら必ず報復するとだけ言っておくぞ!」
「ああ、もう親バカっぷりはよく分かったよ、ピエットさん」
「万が一このバカ兄貴が何かしようとしたら、私も止めるからさ!」
浩太と朱里が返答した。
ピエットはクラリスとゾダールハイムの言葉で何やら会話をし、クラリスの肩をポンポンと叩くと、全員に手を振りながらゲートの中に入っていった。
「良い父親じゃないか」
「そう? 最近あんな感じで過保護で困ってるけどね」
「なんだ、クラリスはまだ反抗期なのか?」
「うっさいわね、そういうんじゃない!」
浩太とクラリスは言い争いを始めた。
「やれやれ、いつも通りの展開じゃの」
キマロは生暖かい目で浩太とクラリスを見ている。チャンスだと思い、莉子は切り出してみることにした。
「キマロ、ちょっといい?」
「ん、何じゃ?」
「クラリスとの契約を拒否した理由、ピエットさんだって言ってたよね?」
「ピエットさん、良い人そうだった。とても竜神族の力を悪用するような人には見えなかったぜ」
拓海も莉子の質問を後押しする。
「そうよ。だから、他に本当の理由があるんじゃないかと思って。どう?」
「……」
キマロはしばし沈黙した後、ため息をついて莉子たちに向き合った。
「そういうことを考えつくのはリコか。可愛い顔をして相変わらず鋭いのぉ……」
「じゃあ、やっぱりあるんだね? 別の理由が」
「…………」
キマロは再び黙り、何かを考えているようだった。
「お主たちを誤魔化すことはできなそうじゃな。理由は確かに別にある」
「知られてはマズいことなのか?」
「うむ。特にクラリスやピエットにはな。この件、リコとタクミと、もちろんヒナギクの間でとどめておいてくれぬか?」
「私たち以外もすぐに気づくと思うけど……」
「それでも、今はそうしてほしい」
「分かった。助けになれることがあるんだったら相談してね」
「ああそうだ。せっかく世界を超えて知り合ったんだから」
「……ああ、そうさせてもらおう。ありがとう、リコ、タクミ」
キマロは莉子と拓海の元から飛び去り、浩太の肩に着地した。
キマロの隠し事にキマロ自身も悩んでいる様子を莉子は感じ取った。しかし、今後良くない事態に発展していくのではないか。莉子はそれを心配するのだった。
File 5 学校行事、異世界事情 完
次話より新章




