5-4話 異世界人へのおもてなし
拓海、莉子、浩太、クラリス、キマロは電車に乗り、天知家に移動した。
玄関に入ると、浩太の妹、朱里が出迎えに来た。
「兄貴、クラリス、おかえり! 皆さんもいらっしゃい!」
「アカリ、ただいま!」
クラリスと朱里は軽く抱擁を交わした。拓海が浩太に聞いた話によれば、朱里はクラリスとかなり仲良くしており、しばしば徒党を組んで浩太に対抗してくるということだった。
「朱里、久しぶりね~!」
「莉子先輩~!」
莉子も朱里と軽い抱擁を交わす。拓海たちと朱里の学年は2つ違いで、中学時代は先輩後輩の間柄だった。
「朱里ちゃん、こんにちは」
「拓海先輩もお久しぶりですね!」
拓海も朱里と挨拶をした。
朱里はキマロを肩に乗せ、談笑しながら拓海たちをリビングへ先導した。しばし、休憩を兼ねて雑談に時間を使った後、シャロンを歓迎するための準備を始めることになった。
なお、浩太の両親は仕事で不在だ。そのため、無理に天知家で歓迎することもないのだが、浩太や朱里が推したのだった。
何の料理を作るかは事前に決めてあり、全員で買い出しに行き、天知家のキッチンで料理を開始した。
「ふぃぃ、疲れた……」
料理が終わると、拓海は椅子に座って一息をついた。何しろ、文化祭の後だ。心地よい疲れではあったが、やはりやることが多いと疲労も大きかった。
しかし、疲労の原因はそれだけではない。浩太とクラリスがやたら対抗心を燃やして料理に挑み、それに拓海たちが巻き込まれたこともあった。
「お疲れ様です、拓海先輩」
「お、朱里ちゃんか」
「どうぞ」
朱里は拓海に麦茶の入ったコップを手渡した。拓海はお礼を言いながらそれを受け取る。
「と~こ~ろ~で~、拓海先輩! 聞きましたよ、莉子先輩とのこと」
「聞いたのか、朱里後輩」
「先輩たちが卒業した時にも進展がなかったから、このまま何もないんじゃないかと思いましたよ。で!? どっちから告ったんですか!? 拓海先輩ですか!?」
「ん? ああ、俺からだよ」
「きゃー! やるぅ!! 莉子せんぱーい!」
朱里は莉子を手招きした。もうキスはしたのか、その指輪はどうしたのか等、根掘り葉掘り色んなことを拓海たちに聞いてきた。莉子と朱里は女子トークモードで話を進めているが、拓海も日菜菊の脳が思考に入ってくるので、問題なくついていくことができるのだった。
「朱里ちゃんこそ、好きな人とかいないのか?」
「んー、今んとこいないですね!」
「えー、もったいない!」
「でも朱里モテるでしょう? 可愛いもん!」
「もう、よしてくださいよ!」
このように朱里の恋バナにも展開した。
「コウちゃんとクラリスは家ではどうなの? 何か始まりそうな兆候とかないの?」
「いやー、いっつもあんな感じで張り合ってるんですよ。分かんないんですよね……」
「それ、学校と同じっぽいな」
「やっぱ、学校でもそうなんですね」
「クラリス美人だけど、コウちゃんの判断基準ってそれだけじゃないもんね……」
「そうですね。浮ついた話の多い兄ですけど、意外とそういうとこ真面目なんですよね」
朱里は基本的に浩太を信頼している。それは拓海もよく知っていた。学外で彼女を何度も作る浩太の中学時代だったが、複数人同時のようなことはしなかったし、誰でも良いというわけでもなかった。それは朱里にも伝わっていたのだと拓海は思っている。
(朱里ちゃん、きっと好きな人ができたら、浩太に相談するんだろうな……)
拓海はふとそんなことを思った。
やがて、天知家の前に車が到着した。運転して来たのは行政の怪異専門組織の者で、そのまま下車して後部座席の扉を開けた。中から、不思議な服装の女性が姿を現した。それはシャロンに違いなかった。
クラリスはシャロンの姿を見るなり、駆け寄って抱きついた。異世界ゾダールハイムの言葉で何やら会話をしている。
運転手が拓海たちに挨拶し車で去っていくと、シャロンを天知家の中に招き入れ、歓迎会の開始となった。
「「「ようこそ、地球へ!!」」」
地球勢がシャロンに声をかけ、全員で飲み物をもって乾杯した。シャロンも翻訳術での準備をしてきているので、言葉は通じている。
「皆さん、クラリスがお世話になっています。異世界で暮らすというのは、本当に心配したのだけど、楽しく過ごせているようでホッとしています」
シャロンが異世界を代表するかのような挨拶をした。
「まあ、堅苦しい挨拶は終わりにして、食事をどうぞ。ここにいる皆で作ったから」
クラリスがシャロンに言った。
拓海たちはシャロンに地球のことを紹介したり、普段のクラリスのことを話したりし、逆に異世界ゾダールハイムでのクラリスのこれまでを聞いたりした。クラリスとシャロンは同じ魔術学校にも通ったということだった。
「魔術学校なんてあるんだ」
「うん。普通の学校でも魔術の授業はあるんだけど、より魔術の教育に重きを置いた学校が魔術学校」
クラリスは魔術学校でも優秀な成績を納めており、竜神族との契約の話が持ち上がったのもそこが起点ということだった。
「ふん、人間側の都合だけで契約相手を選ばれたらたまったもんではないわい!」
キマロが呟く。
「でも、キマロがこんな強硬手段に出るとは思わなかったわ。魔術学校では、クラリスとも私たちとも仲良くしていたのだけど」
「へえ、キマロも魔術学校にいたんだな」
「ワシは教わる側ではなかったがの。というか、魔術学校に通うのは人間だけではないぞ」
「え、そうなんだ!?」
「ゾダールハイムにも様々な生物がいるよ。チキュウで言うところの怪異になるのかな。ゾダールハイムの方が人間とそれ以外との交流は進んでるかもね」
このように異世界ゾダールハイムの事情を聞いたりしながら、時間は過ぎていった。
やがて浩太の両親も帰宅し、改めて歓迎の挨拶をした。浩太の両親も、もてなす相手が異世界人ということを知っているので、少し緊張していたようだったが、クラリスと仲良くしているシャロンの姿を見て、すぐに和らいだ表情を見せた。




