4-12話 招待したい人
「皆様、ようこそいらっしゃいました」
窓に暗幕を貼って暗くした2組の教室に日菜菊が立っている。その目の前にはクラスメイトたちがいる。
「本日は、皆様を不思議な世界へお連れします」
日菜菊が口にしているのは、お化け屋敷で客を出迎える時のセリフだ。若干棒読みだが、日菜菊も練習しているわけではないし、そもそもまだ決定稿ではない。
「ここから先は、危険な怪異に溢れていますよ? 心してお進みください」
それを言ったタイミングで、異世界ゾダールハイムのゲート監視所を訪れている拓海が、目の前の兵士に合図をした。兵士は拓海に魔術を行使し、教室にいる日菜菊の髪がゾワゾワと伸びだした。
「う、うわ~……」
「げげ、怖っわ!!」
「す、凄いね……」
クラスメイトは口々に感想を言い、やがて拍手に変わった。
「制服の女子高生の髪が伸びだすだけでも充分に怖いけど……」
「でもやっぱり、ここは白装束でしょ!」
「だよね! 最初は美しく、演出が始まったら恐怖、って感じにできるといいね!」
一番心に火が付いたのは衣装チームのようで、日菜菊に合う幽霊風の白装束を作ることになった。
「ヒナ! エマさんたち来たって」
「え、ホント?」
莉子と日菜菊はエマとクモの妖怪とろくろ首を出迎えに行った。
「こんにちは~」
「ようこそ!」
「こんにちは、日菜菊さん、莉子さん。夏休みだというのに活気があって凄い学校ですね」
エマは、学校内が文化祭の準備で登校している生徒だらけなことに感心しているようだった。
エマの隣にはろくろ首のお姉さんがおり、クモの妖怪は姿を消しているのだったが、もう一人ついて来た怪異がいた。
「こんにちは、日菜菊様、莉子様! 私も様子を見に来ちゃいました」
「レシア……」
レシアの顔を見るや、莉子がその頭を引っ叩いた。
「あん、莉子様、何を!」
「バカ蛇!」
莉子はそう言いながらレシアの頭をもう一発引っ叩いた。レシアはテヘペロ顔を日菜菊に向ける。日菜菊は赤くなりながら右手で頭を抱えた。
エマたちを教室に案内し、挨拶を済ませると、早速ろくろ首のお姉さんが首を自在に伸縮させる様子を見せ、クラスから歓声が上がる。
次に教室を暗くし、エマが指を鳴らすと、青い光が数個浮かび上がった。鬼火のようだった。その光に照らされて、巨大なクモの姿が露わになる。クモの妖怪はそのまま天井や壁をカサコソと動き回った。
「ひぃぃ!!」
「ちょっと怖い怖い怖い!」
「ヤバいって、それ!!」
クラスメイトたちからは悲鳴が上がり、クモの妖怪は楽しくなってきたのか、クラスメイトたちがいる方向にジャンプした。
「「「ぎゃああああ!!」」」
多くの生徒たちが叫んだ。クモの妖怪は地面に着地した。
「まあ、こんなところだね」
日菜菊が照明のスイッチを入れた。クモの姿がよく見えるようになる。
「こんにちは、2組の皆! どう、怖かった?」
クモの妖怪はくりっとした目を生徒たちに向けて言う。
「あれ、かわいい……?」
クモの妖怪は顔がかわいいので、たちまち主に女子生徒からの人気を集めてしまった。
「でも、こんなにかわいいと、顔が見えちゃマズいね」
「暗いから大丈夫じゃない?」
「エマさんの鬼火とセットだな!」
エマの鬼火とクモの妖怪がセットになることに、異論を挟む者はいなかった。
怪異研究会からは、他にも内装に魔具を配置するなどの提案をした。みんな高クオリティだったので、お化けチームにも気合いが入ったようで、ゾンビや他のお化けの準備の議論が始まっていた。
クラスでのアイデア披露を終え、拓海、莉子、日菜菊、浩太、クラリス、キマロは怪異研究会の資料室に集まった。なお、エマたちも来ている。
「エマさんたちのおかげで、楽しい文化祭になりそうだね」
「本物の怪異に手伝ってもらうというのは、少しズルい気もするけどな……」
「あら、いいじゃない! 絶対その方が楽しいもの」
クラリスが楽しそうに言った。異世界で暮らすというのは大変だろうからこそ、こういうイベントはより楽しく感じるのかもしれないと日菜菊は思った。
「クラリス、お前、向こうの友達とか呼んでみたら?」
浩太が言った。
「え? うーん、でも難しいんじゃない?」
「ガストンに聞いてみたらどうじゃ?」
「ああ。聞くだけ聞いてみろよ」
異世界ゾダールハイムでクラリスの住む地域の領主ガストン。彼の意向もあって、ゾダールハイムから地球へ人が来ることは基本的に禁止されている。呼ぶというのなら許可を得なければならない。
「うーん、そうね。確かにそれが出来たら嬉しいかも!」
クラリスは友人を呼ぶことを前向きに検討することにしたようだった。
File 4 妖怪の街、蛇の怪異 完
次話より新章




