4-11話 蛇の怪異のお土産2
合宿から帰って来た翌日。
拓海が朝起きると、知里は既にいなかった。仕事に出かけた上に、出張でこの日は帰って来ない。
クラスで文化祭の打ち合わせがあるので、拓海は身支度を整え、制服に着替えて莉子の家に向かった。
「おはよ、拓海」
「おはよう、莉子」
莉子も既に制服に着替えており、拓海を家に招き入れた。莉子の父は仕事で朝が早いのだが、この日は莉子の母も既に仕事に出ていた。
拓海は家から持ってきた食材をキッチンに持ち込み、莉子と一緒に弁当を作る準備を始めた。
「……ねえ、莉子?」
「ん?」
「今日、二人分にしよう」
「え、ヒナ、どうかしたの?」
「ちょっと『私』の疲労がひどいので、部屋で休みたい」
「そっか。色々ありすぎたもんね、合宿」
しかし、拓海のその言葉は実は仮病だった。日菜菊は今、この日の諸々の準備をしている。
弁当を作り上げると、拓海と莉子は学校に向かった。2組の教室には続々とクラスメイトが集まって来ており、クラス委員長の愛佳のまとめの元で、お化け屋敷の打ち合わせが始まった。
怪異研究会からは、莉子がアイデアを説明した。
「魔術での演出!?」
「妖狐に、大グモに、ろくろ首!? それ本物が来るの!?」
「何だそれ、超凄いじゃん! もう、怪異研究会メインでいいんじゃね!?」
「いや、やっぱり手作りのお化けも配置すべきだよ」
拓海たちの持ってきたアイデアはクラスメイトにも大受けで、議論は大いに盛り上がった。本物勢以外にも、ゾンビを配置したり、井戸から出てくる怪物を配置したり、音楽をどうしようか等、議論は一気に進んだ。
「この分なら、内装は作業に入れそうだよね」
「じゃあ、次は外装だな」
「でも、もう時間だから、次の回だね」
時間は夕方前になっており、この日は解散となった。
◇
「拓海、ヒナのお見舞い行かなくてホントに大丈夫?」
「うん、大丈夫。今日は帰ろう」
「うん、分かった」
拓海と莉子はいつものように電車に乗り、手を繋いで最寄り駅から家までを歩いた。
「き、今日も来る?」
「……うん、行くよ」
拓海は普段と変わりなく自然に聞いたつもりだったが、先のことを思って少し挙動がおかしくなってしまった。
「じゃあ、着替えてからまた行くね」
「あ、ああ、分かった」
家の前まで来ると、莉子は自分の家に入っていった。
(母さんがいないことは莉子も知ってるんだよな。意識してるよな、きっと……)
そんなことを考えながら、拓海も家に入った。シャワーで日中の汗を流し、飲み物を持って冷房の効いている自室でしばしの時間を過ごす。
やがて、莉子がやって来たので、拓海は玄関で出迎えた。
「今日は本当に暑っついね。シャワー浴びたけど、また汗出てきそう」
「部屋は冷房効かせてるからさ。う、うーん、しかし可愛い格好してるな……」
「も、もう! ありがと……」
莉子は拓海が見たことのない私服姿だった。ノースリーブで涼しげというだけでなく、身体にピッチリとくっつくような形をしていて、莉子のプロポーションの良さを引き出している。動きやすそうなスカートから伸びる脚も綺麗で、そんな莉子の姿と蛇変化の魔具のことが頭にちらつき、拓海の思考はオーバーヒートしそうだった。
拓海は莉子を連れて自室に向かった。
「や、やあ、いらっしゃい、莉子」
「え……!? ヒナ、何でここに!?」
日菜菊は外出許可を取って密かに拓海の家に来ていた。合鍵を持っているので誰もいなくても入れるし、先回りしていたのだ。
「う、うーん、そういうことか……」
莉子は一瞬立ち止まった後、観念したような表情をして日菜菊の隣に正座した。
拓海と莉子が一線を越えたことはあるし、あの旅行の時に日菜菊と莉子の間でもそれはあった。だが、越えていない一線のパターンはもう一つ存在する。3者が揃っている今はまさにその状況だ。
莉子はそう考えているのだろう。もしかすると、旅行の時に莉子がヒナタ・コンビに意地悪をしたことへのリベンジだと思われているかもしれないと拓海は思った。
(だったとしても、莉子の想像を遥かに上回るよな。どうやって切り出そう……)
拓海は悩み、座っている3者の間で無言の状態が続いた。
なおも無言が続き、莉子がたまらないといった様子で声を発した。
「ね、ねえ、拓海もヒナも、どうしたの……? 何か冷や汗かいてない……?」
「あ、ああ、そうだな。……実はさ」
拓海は莉子に耳打ちをし、レシアにもらってしまった蛇変化のお土産の話をした。
伝え終わると、莉子は動きを止めた。そして、変な間を開けた後に立ち上がり、両手で拓海と日菜菊の頭にチョップを落とした。
「な……! な……! な……! な……! 何を言っているの!?」
莉子は全くの予想外のことを言われたという顔で叫んだ。
二つの身体を使ったリベンジというだけなら、いずれその機会が来ることを莉子が想定していた可能性は高い。しかし、蛇に変身する魔具を使うなど、頭の中にあったはずもない。
「そ、そそ、そんなこと……し、したいの? …………わ、私に……?」
莉子はチョップした腕をプルプルと震わせ、言葉を続けた。
拓海は、莉子のその姿を可愛らしいと思ってしまった。拓海と日菜菊の両方の手で、莉子の手を握り、そして……。
…………。
◇◇
幼馴染たちが、その魔具を使ったのかどうか。その情報は、彼らの頭の中にのみ存在する。




