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怪異研究会の事件ファイル  作者: シマフジ英
File 3 対決・ヴァンパイア
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3-13話 決着

莉子(りこ)……上手くやったね!)

 ()()(ぎく)は旅館の方を見ながら思った。


 旅館から紫色のオーラをまとった者たちが次々と飛び出し、外にいるグールに襲いかかっている。莉子の呪い上書き作戦が成功したのだ。


「な……なんだ、あれは?? グールとは違う、別の化け物だと!?」

 スカリフルも旅館での異変に気づき、狼狽(ろうばい)するような言葉を発している。


「嘘……。莉子さん……本当に??」

 ヴァンパイア・ハンターの常識ではありえないはずだった光景に、津麦(つむぎ)も驚きの目で旅館の方を見ている。


「世界は怪異に溢れている。あの手の呪いは、ヴァンパイアの専売特許ではないということだ」

 日菜菊がスカリフルに告げた。


「いや、まだだ。ここで貴様とその仲間を殺し、再びグールを増やしてやろう」

(そうだ。結局、こいつを止められなければ意味がない……)

 日菜菊は思った。


 きっとキマロとクラリスの力を借りても勝ち切ることはできない。壮亮(そうすけ)がやらなければならない。日菜菊の役目はそこまでの時間稼ぎだ。


 日菜菊は構えた。異世界ゾダールハイムでは、拓海(たくみ)の前にいるキマロ、クラリス、浩太(こうた)が心配そうに声をかけている。


 日菜菊とスカリフルが激突した。両者が繰り出す拳も蹴りも岩を砕く威力があり、辺りに凄まじい音が響き渡る。


 スカリフルは時折、風の刃の技を繰り出したが、何度も見るうちに日菜菊はさばき方を理解し、受け流せるようになった。クラリスが回復魔術をかける頻度も減少する。


 スカリフルは息を切らしながら戦っていたが、ついに日菜菊の息も切れ始めた。魔術を受けての体術もかなり疲労を生む行為なのだ。

「ぜぇ、ぜぇ、しつこいぞ、小娘……」

「はぁ、はぁ、お前こそ、早く倒れろヴァンパイア……」


 スカリフルが拳を繰り出す。日菜菊はそれを払い、左脚に蹴りを入れる。同じところを何度も狙っているので、スカリフルの踏み込みに力が無くなってきた。


「はぁ、はぁ、認めよう、貴様は私に並ぶ()()らしい。だが、やはり最後には私が勝つ……!」

 そういうと、スカリフルの両方の拳が赤く発光した。


(何かの技か……?)

 身体強化と回復以外に日菜菊側に持ち手はないので、未知の技の数についてはスカリフルの方が有利だった。


「くたばれ、小娘!!」

 スカリフルが右手を振るうと、赤い光がビームのように前方に飛び出した。


「!?」

 日菜菊はステップでそれを避けた。


「もらった!!」

 スカリフルは今度は左手を振るう。そこまでは読んでいた日菜菊だったが、避けることはせず、あえてスカリフルの方に突っ込んだ。


 赤い光が日菜菊の左腰付近に当たる。キマロの身体強化術の防御をかいくぐり、血が飛び散った。しかし、日菜菊はそれに構わず、渾身の蹴りをスカリフルの左脚に合わせた。


 何度も攻めた場所でヴァンパイアの再生能力も間に合っていないため、ダメ押しの被弾にスカリフルが体制を崩して倒れこんだ。


 日菜菊がすぐに回復することを警戒してか、スカリフルは構わずに追撃を加えようとした。


「あぁぁぁぁあああ!!」

 響いたのは津麦の声だ。津麦がスカリフルに飛びかかった。強靭な肉体を持つスカリフルも、予期せぬ方向からの攻撃にさらに体制を崩した。


「ぬぅぅ、貴様!!」

 身体を起こし、津麦に拳を振るおうとしたスカリフルだったが、日菜菊に連打された脚に踏ん張りが効かず、もう一度崩れ落ちた。


「そうすけぇぇぇぇええ!!」

 津麦が叫ぶ。その方向を日菜菊が見ると、いつの間にか崖の上まで来ていた壮亮が、右手に青い光をまとい、構えている。


「終わりだ!!」

 壮亮が右手を前に突き出すと、青い光が直線上に輝き、スカリフルに直撃した。


「ぐわああああ!!」

 スカリフルは青い光に包まれ、腕で光を払いのけようとしているが、光は消えず、スカリフルは仰向けに倒れた。





 満身創痍のまま飛んできた様子の壮亮はそのまま地面に手を突いて動かなくなった。


 クラリスの回復魔術で腰の怪我が治った日菜菊は、津麦を抱き起こし、スカリフルを見た。


「な、なんだこの光は……? 身体が……朽ちていく?」

「ヴァンパイアが人から奪った魂を無にする技だ。お前は間もなく本来の寿命を向かえて世界に還る」

「小僧……なぜヴァンパイアであるはずの貴様がこんな技を?」

「それが、現代のヴァンパイアの意思だからよ」

 スカリフルと壮亮と津麦が言葉を交わす。


「ヴァンパイアとヴァンパイア・ハンターが一緒にいるというのは、まさか……?」

「そうだ。対立の時代はとうの昔に終わっている。邪悪なヴァンパイアは、ヴァンパイアとヴァンパイア・ハンター双方の敵だ」

「邪悪……邪悪か。私が幼い頃には、ヴァンパイア・ハンターこそが邪悪に思えたものだがな」

 スカリフルの手や足の先が灰になり始めていた。そんな中、スカリフルは続ける。


「私の家族は皆、ヴァンパイア・ハンターに殺された。対話の余地はなかった。皆、悪事をするようなヴァンパイアではなかったというのに」

「……そういう血塗られた歴史があるのは知っている。それでも、長い年月をかけて、歩み寄ったのよ。ヴァンパイアとヴァンパイア・ハンターは」

「ふ……そうか。私が生まれたのが今の時代だったのなら、私の運命も違っていたのかもしれんな」


 スカリフルは一呼吸置き、さらに続けた。


「ヴァンパイア・ハンターへの復讐、世界への復讐。復讐心が私を突き動かした。何も知らずに平穏にぬくぬくと生きている人間共には虫酸が走った。たくさん殺した。だから、私が邪悪だというのは間違いないな」

 復讐心が生んだ怪物。しかし、その強さを別のことに使えていたらどんなに良かったことか。日菜菊はこの哀れな運命を悲しいと思った。


「新しい時代を向かえたというのなら、貴様らはその道の通りに生きるがいい。だが、再び間違えれば私のような存在が生まれてくるだろう」

 スカリフルが壮亮と津麦に言葉をかけた。


「言われなくとも……」

「私たちは……」

 二人はヴァンパイアとヴァンパイア・ハンターの決意を代弁した。


「それにしても、怪異か。私の知らないことも多かったのだな」

 スカリフルは日菜菊にも言葉をかける。


「……未だに知らないことだらけよ。私もあなたも、本当に怪異の一部に過ぎない」

「ふ、それを知れたことが、地獄への最大の土産かもしれんな」


 いよいよスカリフルの顔の辺りまで灰になり始めた。


「さらばだ、新時代のヴァンパイアとヴァンパイア・ハンター、そして私の知らぬ怪異よ。せいぜい、私のような邪悪を生まないよう、気張ることだ……」

 それが最後の言葉となり、スカリフルは灰となって崩れ落ちた。

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