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怪異研究会の事件ファイル  作者: シマフジ英
File 2 異世界パニック
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2-8話  迷惑な来訪者

 クラリスがルビーからスマホを受け取った日、拓海(たくみ)たちが昼休みに見かけたゲートの見張りが持っていたのは酒ビンだった。言い出したのは異世界ゾダールハイム側の見張りだったのだが、お互いの世界の酒を持ち寄ることにしたのだ。


 もちろん、見張りの仕事中に飲むつもりはなかった。しかし、夜になろうかという時間になり、ゾダールハイム側の見張りが地球側を訪れ、酒盛りを始めてしまった。途中からは全員で酔っ払ってゾダールハイムの監視所まで出向き、料理やら酒やらを振る舞う始末だった。中には監視所で()()()()()()()()()()()()()()までいた。


 お互いの世界への興味が招いてしまった職務怠慢だったが、そのスキをついて、ゾダールハイムから地球にやって来た者たちがいた。泥酔している地球人を利用しての翻訳術で、言葉の準備をした上で。



    ◇◇



 翌日。

 放課後になり、部活のクラスメイトは次々に教室を後にしていた。拓海たちも怪異研究会の資料室に移動しようかとしたその時、突然、教室の入り口の扉から声が響いた。


「失礼! クラリスはいるか!?」

 その声に、2組の教室に残っていた生徒たちは扉の方を見た。見たことのない服装をした男が3人、教室にズカズカと入ってきた。その中で一番派手な格好をした太い体型の男が言った。


「あ、いたな、クラリス!」

「え! デボール卿! どうしてここに!?」

「デボール、お主……」

 デボールと呼ばれた男の出現に、クラリスは頭を抱える様子を見せ、キマロは軽蔑するような視線を向けている。


「クラリス、誰、そのおっさん?」

 浩太(こうた)がクラリスに聞いた。


「僕はクラリスの婚約者だ!」

 デボールがそう言うと、教室が沈黙に包まれた。誰も言葉の意味が理解できなかったのだろう。


 拓海(たくみ)は思考が停止し、莉子(りこ)も動きが止まっている。しかし、その()の後、教室はどよめきに変わった。


「なに、婚約者って!?」

「は? あのおじさんとクラリスとじゃ釣り合い取れないでしょ!?」

 クラスメイトが次々に疑問を口にする。


 そんな中、クラリスが右手で頭を抑えながら言った。

「いや、違うから! 誤解しないでみんな! 確かに私が小さい頃に婚約の儀があったんだけど、事故だったのよ!」


 クラリスが言うには、元々、クラリスの姉とデボールの弟が魔術による婚約の儀を行う予定だったが、二人にはそれぞれ他に想い人がおり、儀式の終わり際に拒否をしてしまった。発動した魔術は止まらず、その時、たまたま近くにいたクラリスとデボールが代わりに婚約の儀の対象になってしまったとのことだ。


「え、そんなの婚約って言わなくない?」

 ()()(ぎく)が突っ込みを入れる。


「魔術が作り出した(ちぎり)は消えてはいないんだよ! 僕とクラリスは結ばれているんだ!」

 デボールがそう言うと、生徒たちから大ブーイングが起きた。


「いやいやいや、意味分かんねーよ!」

「事故で起きたことを利用するなんて、サイテー!!」

「ロリコン野郎!!」

 みんな口々にデボールをけなしている。


「誰だ、ロリコンとか言いやがったのは!! 調査は済んでるぞ、お前らの担任だって僕と同じくらいの年齢のくせに、生徒とできてるだろうが!」

 デボールのその発言は、2組の火に油を注いだ。


剣持(けんもち)先生と柚希(ゆずき)をあんたなんかと一緒にしないでくれる!!」

「デブ野郎!!」

「帰れ帰れーー!!」


 帰れコールが始まると、デボールはわなわなと震え出し、持っていた杖を前に突き出し、叫んだ。

「うるさいぞ、異世界人!! ●△■※!!」


 デボールの叫びで教室は静まったが、何も起こらない。


「今、魔術を使おうとした?」

「だよね? マナもないのに、なんで」

 拓海と莉子が言った。


「なぁに、チキュウにマナがないことを知らんのじゃろ」

 キマロが突っ込みを入れる。


「マ、マナがないだって! なんて世界だ!!」

 デボールが叫んだ。



 クラスメイトの冷たい視線がデボールに向けられる。


「こうなったら! 発動しろ、婚約の契!! ●○■□△!!」

 デボールがそう言うと、クラリスの身体が赤く発光し始めた。


「デ、デボール卿、何を!? 止めてください!!」

「こらデボール、止めんか!! それはやってはならんことじゃぞ!!」

 クラリスとキマロが叫ぶ。


「クラリス、こっちに来い!!」

 聞く耳を持たない様子のデボールがそう言うと、クラリスがデボールの方に向かって歩き出した。その表情は青ざめている。


「おいおいおい、何やってんだ!?」

 浩太がとっさにクラリスの前に入り、クラリスの肩を掴んでデボールと逆方向に押し始めた。


「あ、脚が勝手に動くのよ!!」

「な、なんだって!?」

「すまん! みんな手伝ってくれ! クラリスを止めろーー!!」

 キマロがそう言うと、女子の数人がクラリスのお腹を掴んだり手や脚を掴んだりして、男子の数人が浩太を後ろから押すなどして、クラリスの進行を食い止めようと動き出した。しかし、契の影響なのか、クラリスは凄い力で前進しようとする。


「邪魔をするな!! おい、お前たち!」

「はい」

 デボールが手下と思われる二人に声をかけた。拓海や他の男子数人がすぐに反応し、デボールの手下と取っ組み合いになった。日菜菊は()()()()()()()()()()()()


「クラリス、止まって!」

「ダメよ、あんな奴の言うこと聞いちゃ!!」

「私の意思じゃない!」

「婚約の契の最終手段なんじゃよ! 既に発動した魔術だから、チキュウでも効果を及ぼしてるんじゃ!!」

 止めようとする浩太やクラスメイトの奮闘むなしく、クラリスは一歩一歩デボールの方へ歩みを進めてしまう。


「しっかりしろ、クラリス! 脚止めないと泣かすぞ!!」

 浩太が叫んだ。


「さあ、クラリス!!」

 デボールが左手を前に出してクラリスを呼んでいる。


 その時、自分の鞄の中から何かを探していた莉子が立ち上がり、クラリスの方へ駆け寄った。

「天狗の札、呪縛解除!!」

 莉子は手に持っていた札をクラリスの身体にあて、その言葉を発した。


 すると、札が緑色に発光し、クラリスの身体に帯びていた赤い光を消し飛ばした。それに伴い、クラリスの脚が止まり、力のバランスを失って、浩太やクラリスやクラスメイトが折り重なるようにもみくちゃ状態になった。


 教室の中に静寂が訪れた。取っ組み合いが一時的に止まったものの、目の前のゾダールハイム人を警戒して睨んでいる拓海に変わって、日菜菊が莉子の方を見た。莉子が持っていたのはルビーの店で試した解呪の魔具の一つだった。


 莉子はこれを呪いの一種と判断し、解いてみせたのだ。莉子は日菜菊に向かって親指を立てる仕草をした。日菜菊も親指を立てて返す。


「なんと!! リコ、よくやった!!」

 キマロが叫ぶ。


「バ、バ、バ、バカな!! 婚約の契が解除されただと!?」

 狼狽(ろうばい)するデボールに、手下が駆け寄った。


「い、いや、お前たち!! もうこうなったら実力行使しかない! クラリスを確保して逃げるぞ!!」

 デボールがそう言うと手下が再度、拓海たちの方を向く。


 その時、教室の前の扉が開いた。ちょうどデボールたちの横だ。


「う、うわー、なんだ!? 熊か!?」

 教室に入ってきたのは、球技大会の男子バスケでも活躍した、陸上部で砲丸投げをやっている村岡(むらおか)だった。入学からの2ヶ月でさらに身長が伸び、ゴツさに磨きがかかっている。


「え、な、なんだ!? お前ら、何やってんの?」

「村岡くーーん!! そいつら捕まえて!!」

 女子生徒が叫んだ。


 状況を察した様子の村岡は、右手で一方の手下を突き飛ばし、左手を使って他方の手下の胸ぐらを掴んで地面に投げ飛ばした。


「くそぉぉぉ、最後の手段、人質だ!!」

 デボールはそう叫び、莉子の方を向いている日菜菊に掴みかかった。しかし、拓海が逆サイドから見ている以上、その試みは成功することはなく、日菜菊はあっさりそれを避け、拓海がデボールにタックルを仕掛けた。拓海とデボールの体重差の不利を埋めるため、日菜菊も拓海の後ろからタックルに参加し、デボールを取り押さえた。

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