9-14話 異世界の友人
拓海と莉子はほぼ同時に目を覚ました。普段より随分と早い時間だ。準備をし、制服姿で一緒に家を出た。
「凄い早く出ちゃったね」
「ああ。でも、今日はそういう心境だよ」
「うん、私も……」
電車で移動し、駅から学校までを歩く。日菜菊は寮から教室に直行はせず、校門で待っていた。一人で教室に入るのが嫌だったのだ。拓海たちが校門まで到着すると、日菜菊を連れて教室に向かった。
「あ、クラリス、キマロ……」
いつもよりかなり早く登校したのに、浩太もクラリスもキマロもいた。きっと彼らも早く目が覚めてしまったのだと拓海は思った。
挨拶をして談笑する。他のクラスメイトもいつもより早く登校して来て、クラリスやキマロと話した。
午前中はいつも通り授業を受けた。昼食は、弁当の生徒も含めて全員で学食で過ごした。『好きなの頼んで!』『奢りだぜ!』という声が飛ぶ。
最後の授業の時間が終わると、キマロはクラリスの肩に止まり、クラリスは荷物を持って立ち上がった。自然とクラスメイトたちがクラリスとキマロを送り出す道を作り、クラリスとキマロの通り道に手を差し出した。クラリスとキマロは一人一人とハイタッチをし、その道を歩く。扉の前まで来ると、クラリスは振り返った。
「みんな、本当にありがとう! さようなら!」
「みんなの幸せを祈っておるぞ!」
クラリスとキマロが声を上げる。
「さようならクラリス、キマロ!」
「ここでのこと、忘れないでね!」
「元気でな!」
クラスメイトたちから声が飛んだ。
怪異研究会のメンバーは最後まで送り出すことになっており、拓海たちはクラリスとキマロを先導して歩き始めた。魔の13階段を抜けて裏の屋上に入ると、光り輝くゲートが見えた。
ゲートの前にはゲートの監視員に加え、ルビーと剣持、朱里がいた。朱里はクラリスとキマロを見るなり泣き出し、クラリスに抱きついた。
「アカリ……」
「クラリス……キマロ……」
クラリスは朱里の背中に手を回して慰めるようにポンポンと叩いた。キマロも朱里の肩に飛び移り、朱里に声をかけている。なお、朱里は、ルビーが手を回して中学の午後の授業を公休としてもらってここまで来たということだった。
朱里がクラリスから身体を離すと、柚希が声をかけた。
「クラリス、キマロ、元気でね」
「うん。ユズキにとっては15年を失ったのだから、このゲートは嫌なものかもしれないけど、私たちは感謝しないといけない。ありがとうね、ユズキ」
「ありがとう、クラリス。その言葉だけで充分……。私と宗吾があの魔具を使った意味が見出だせたから」
柚希はクラリスと抱き合い、キマロと拳を合わせた。剣持も声をかけた。
「僕も柚希と同じ想いだ。ありがとう、クラリス、キマロ。健やかに」
剣持はクラリスと握手し、キマロと手をタッチした。
そして、クラリスとキマロはルビーの元に向かった。
「ルビーさん、邪神竜のこと、本当にありがとうございました」
「うむ、チキュウの皆のことはきっとゾダールハイムでも語り継がれる」
「昨日も言ったけれど、私はきっかけに過ぎないからね。まあ、語り継ぐというのなら、好き放題に物語を作って面白おかしく伝えていけば良いんじゃないかしら」
「あ、あはは。シュトールの街の劇団も、色々と話を付け加えるかもしれませんね」
「それにしても一方的に助けられてしまったからの。もし、チキュウがゾダールハイムの力を必要としたら、助けを求めてくれ。必ず駆けつける」
「あら、言うわね。でも確かに、もしそうなったなら、異世界の鍵をもう一度使う許可も出るかもしれないわね」
ルビーは笑いながら言い、クラリスとキマロと握手をした。
希望を灯すような発言内容だったが、きっとそうはならないのだろうと拓海は思った。もし地球が何らかの危機を向かえたとしても、ルビーやルビーの言う上位怪異が何とかしてしまうのだろうから。
ルビーがクラリスたちと挨拶をしたのを見届け、拓海と莉子と日菜菊と浩太はクラリスの前に立った。キマロと浩太の契約解除のため、マナのあるゾダールハイムに少しだけ移動することになっている。
クラリスは再び荷物を持ち、拓海たちがそれを追いかける形でゲートに入る。
ゲートの先にはゲート監視所があり、兵士に加えて領主ガストン、クラリスの父ピエット、シャロンが待っていた。挨拶をすると、キマロが浩太の肩に乗り、浩太は広場の中央に立った。
拓海たちが見届ける中、キマロが口を開いた。
「コウタ、今までありがとう。迷惑をかけたが、この契約は、ここまでじゃ」
「迷惑だなんて思ってないさ。まあ、キマロと距離を取れないのは面倒くさかったけど」
「はは、そうじゃな!」
キマロは何やら呪文を呟くと、浩太とキマロの身体が光り始め、拓海は眩しさに目を瞑った。光が収まると、キマロは浩太の肩から飛び立ってクラリスの肩に着地した。
「契約解除、完了じゃ」
「ああ。お疲れ様、キマロ」
キマロと浩太が言った。
「クラリス」
莉子が一冊の本を持ってクラリスの前に立つ。
「リコ、それは?」
「怪異研究会版のアルバム。クラスの皆に見せられないのもあるからさ」
「ああ、そっか……」
莉子は静かにクラリスにアルバムを渡す。莉子と日菜菊の旅行でのヴァンパイア絡みのもの、怪異研究会の夏合宿、ゾダールハイムを旅した時、邪神竜と戦うためにゾダールハイムを訪れた時などの写真が収められている。
「リコ、みんな、ありがとう。実は私からも……」
クラリスがシャロンに目配りをすると、シャロンが一冊の本を持って莉子の前に立った。
「これ、クラリスから頼まれて作ったアルバム」
「みんながこっちに来た時に私が魔術道具で撮ったものよ。これもやっぱりクラスの皆には見せられないから、さ」
「そっか。ありがと、クラリス……」
莉子が代表してそのアルバムを受け取った。
「あー、もっとたくさん一緒にやりたいことがあったんだけど……な」
「私も。もっとゾダールハイムの案内とかもしたかったよ」
「うん……」
堪えていた様子の莉子だったが、ついに涙が止まらなくなり、クラリスに抱きついた。クラリスも莉子を抱きしめる。二人はしばらくそうしていた。
「忘れないよ、クラリス、キマロ……」
「うん。私も皆のこと、絶対に忘れない……」
「ワシも、絶対に忘れたりせんぞ」
莉子はクラリスと身体を離し、両手で顔を覆いながら一歩下がった。シャロンが莉子に駆け寄り、言葉をかけながら慰めている。
拓海と日菜菊は並んでクラリスの前に立った。
「「クラリス、キマロ」」
「ふふ、その揃った声ももう聞けなくなっちゃうんだね」
「全くじゃのぉ、ヒナタ・コンビ」
「「そうだね……」」
拓海と日菜菊は声を揃えてクラリスとキマロと話す。
「本当に不思議な人だと思ったよ、タクミにヒナギク。リコとのバカップルっぷりもね!」
「「そ、そんなにバカップルに見えた?」」
「誰が見てもバカップルと思ったじゃろうて……」
「でも、心から素敵なカップルだと思う。これからも、リコと仲良くね……」
「「ありがとう……」」
そこまでは声の揃っていた拓海と日菜菊だったが、日菜菊の目から涙が流れ始めた。
「ヒナギク……。でも、それは同時じゃないんだね」
「涙腺の弱さがちょっと違う。でも、感情は繋がってるから、すぐに俺も……」
拓海がそう言うと、拓海の目からも涙が流れ始めた。
クラリスは微笑み、右手を前に出してきた。拓海と日菜菊は順番に握手をし、さらにキマロとも拳を合わせ、下がった。拓海と日菜菊はピエットやガストンや兵士とも握手と挨拶をし、泣き止むことができない莉子の肩を支えてゲートの前まで来た。
振り返ると、拓海はシャロンと目配りをした。浩太とクラリスを少しの間、二人だけにしようという話になっている。
「さようなら、クラリス、キマロ! 元気でな! シャロンに皆さんも! お元気で!」
拓海が代表して声を上げた。拓海の腕の中で泣き崩れる莉子も声を上げ、手を振った。
「さようなら、タクミ、リコ、ヒナギク!」
「お主らも元気でな!!」
クラリスとキマロも声を上げる。手を振り合った後、拓海と日菜菊は莉子を連れてゲートに入っていった。




