9-12話 怪異研究会の旅行
拓海は莉子と共に、温泉旅行でお世話になった宿に連絡を取った。繁忙期ではあるはずだったが、部屋が空いている日があった。
怪異研究会でクラリスとキマロを連れ回す最後の旅行は、その温泉地を再び訪れることに決まった。
旅行の日。
拓海は荷物を持って家を出て、莉子と共に出発した。途中で日菜菊と合流し、かつて日菜菊と莉子の二人で旅行に行ったルートを再びなぞる。乗り換え駅には浩太とクラリスとキマロがいた。浩太の妹・朱里もクラリスたちと最後に旅をしたいということで浩太の隣にいる。
「よぉ、幼馴染ズ」
「おはよう」
浩太たちが拓海に声をかけてくる。拓海たちも答え、電車に乗った。電車から見える背景はどんどんと田舎景色になっていた。
「うわー、グループに送ってくれた写真よりさらに風情あるね」
「自分の目で見ると迫力が違うでしょ」
クラリスと日菜菊が言った。
終点で乗り換え、拓海たちは目的地に着いた。荷物を持ち、かつて泊まった旅館まで歩いていく。日菜菊と莉子が先頭で旅館に入ると、おかみさんが嬉しそうな顔をして出てきた。
「ああ、また来てくれたわね、日菜菊さんと莉子さん」
「こんにちは、おかみさん」
「約束通り、友達連れて来ましたよ」
日菜菊と莉子が挨拶をし、受付を済ませると全員で2階の部屋に移動する。男子部屋と女子部屋を用意していたが、お約束のように最初は男子部屋に集まった。
「おー、窓から見える景色ものどかだな」
「ホントじゃのぉ」
浩太とキマロが窓から外を覗いている。
「まあ、まずは名物の温泉に行こう」
「いいですね! 早く行きましょう!」
拓海と朱里が言った。拓海たちは早速準備をして宿を出た。道中、拓海たちはヴァンパイアのスカリフルが封印されていた神社に立ち寄った。
「ここにそのヴァンパイアのスカリフルが」
「うん。壮亮さんと津麦さんがここに来ててね」
クラリスと莉子が話している。ひとしきり談笑し、お参りを済ませると、拓海たちは川に向かった。
水着で出る川辺は、春とはいえまだまだ気温が低く、肌寒かった。
「夏は外が暑かったから川が気持ちよかったけどね」
「そうそう。川と温泉に交互に入るの、良かったよね」
莉子と日菜菊が言った。
「えー、だったら私も川に挑戦……。きゃああ、冷たい!!」
朱里が川に脚を入れ、少しずつ川に慣れようとしている。
「おい朱里、無理すんな」
浩太は朱里に声をかけてから温泉の方に向かう。
「あああー、気持ち良い!!」
クラリスが温泉に浸かって言った。拓海と莉子と日菜菊も温泉に入った。夏の時より源泉の方がたくさん流れ込むように調整されているようで、とても温かく感じると拓海は思った。
「あぁー、ダメだー!」
朱里が川から上がり、温泉に入ってきた。身体がガタガタと震えている。
「アカリ、風邪引かない程度にね」
「ししし、だったらクラリスが暖めてよ!」
「きゃあ、冷たい!」
朱里が冷えた身体でクラリスに抱きつき、クラリスが悲鳴を上げた。
「でもまあ、この季節でも川と温泉の往復はありかも」
「そうね、行ってみようか!」
莉子と日菜菊は温泉から上がり、川に向かった。『冷たい!』などと言いながら川と格闘する。
「おいおい、マジか」
「俺たちも行くぞ、浩太!」
「え~」
浩太は不平そうな声を上げたが、結局拓海について川に入りに行った。その後も全員で騒ぎながら川と温泉を往復するのだった。
ひとしきりはしゃいだ後、観光スポットに立ち寄るなどしてから宿への帰路についた。夕飯までの間、宿の個室温泉を利用することにし、まずは拓海と浩太とキマロが入った。
「ふぅぅ、何度入っても風呂は良いのぉ。そしてこの温泉というのは格別じゃ!」
「まあ、俺ら日本人には心に染みることだな」
「キマロもできるだけ楽しんでいってくれよ」
「うむ、そうじゃな! ゾダールハイムでも温泉の出る地があるかもしれん。帰ったら探してみるかのぉ……」
キマロが神妙そうな声で言った。
拓海たちが部屋に戻ると、次はクラリスと朱里が温泉に向かった。朱里はクラリスの腕に組み付きながらウキウキした様子で歩いていった。
「朱里の奴、いつもよりクラリスと仲良くしてるな」
「そうなのか?」
「ああ。あいつにとってもクラリスと一緒の最後の旅行だし、そういう心境なんだろ」
「そっか……」
拓海と浩太とキマロで部屋で牛乳を飲みながらそんなことを言い合った。
やがてクラリスと朱里が戻り、莉子と日菜菊が温泉に向かった。クラリスと朱里は牛乳を持って来ている。
「いやー、良い湯だった!」
朱里は腰に手を当てながらフルーツ牛乳を飲む。
「朱里。そんなおっさんくさい飲み方を……」
「えー、いいじゃん! ほら、クラリスもこうやって!」
「え? こ、こう?」
クラリスも朱里の真似をして左手を腰に当てながら牛乳を飲んだ。浩太はやれやれといった表情で、朱里たちの様子を写真に収めている。
それを楽しそうな光景だと思う頭は拓海には残っていたが、日菜菊の方が莉子と一緒に個室温泉に入っているので、思考が持っていかれていた。前回の旅行の時からも、温泉のような場所で日菜菊の方が莉子とスキンシップを取ることも多くなっているのだ。拓海の方への影響も絶大だった。
拓海はそれを隠すように横になっていた。
「あれ~、拓海先輩、ぼーっとしてどうしました?」
「タクミ?」
「え!? ……べ、別に、何でも……ないよ?」
「どうしたのじゃ? のぼせたかの?」
朱里とクラリスとキマロは心配して拓海に近づいてくる。しかし、拓海はあまり今の状況を暴いてほしくなかった。
「拓海……お前……発情してんじゃねーよ!」
「え!?」
浩太に切り込まれ、拓海は狼狽の声を上げる。
「タクミ……そういうことかの」
「ええ!? ま、まさか、莉子先輩と日菜菊先輩が一緒に温泉入ってるから!?」
「タ、タクミ……。そんな風になっちゃうのね……」
「拓海! お前、もっかい温泉行って来い!」
「ええ、でも!?」
「お前にそんな風にここにいられると、俺たちも気になるんだよ!」
浩太に言われ、拓海は腰を上げて再び入浴準備をした。
(ま、まあ、しょうがないか……)
拓海は個室温泉に向かう。日菜菊が状況を莉子に伝え、3人での個室温泉となった。
やがて夕飯の時間となり、拓海たちは食堂に移動した。夏の時にも出てきた川エビの刺し身など、美味しい料理を楽しむ。
「いやー、これは美味しいね!」
「そうじゃの! 来られて良かった!」
クラリスとキマロははしゃぎながら箸をすすめる。浩太や朱里も同じだった。拓海と莉子と日菜菊にとっても、美味しいのは変わらない。
また、他に客がいないこともあって、おかみさんと亭主も食堂に出てきて、ヴァンパイア事件の時のことなどを語り合うのだった。
夕飯を終えて部屋に戻ると、拓海と莉子はクラリスとキマロを窓のところに呼び寄せた。
「キマロ、クラリス」
「ほら、あそこ」
拓海と莉子が言い、莉子が崖を指差した。ヴァンパイア事件の時と同じように、月光に照らされている。
「私がスカリフルと戦った場所だよ」
「ほぉ、あんなところで」
「そっか……」
日菜菊とキマロとクラリスが言った。
「ここは、キマロとクラリスが守った村だよ」
「そ。改めてありがとうね」
莉子と日菜菊が順に言う。
「ゾダールハイムだって、皆に救われたよ。私たちの方がずっとたくさんお礼を言わなきゃいけない」
「そうじゃ。何度だって言うぞ。ありがとう」
クラリスとキマロが言った。
「あーもう、お礼の返し合いをするな」
「そうですよ!」
浩太と朱里が言った。
その日は夜まで語り明かした。クラリスとキマロが地球に来てからこれまでのこと。共に解決した事件。学校行事。どれもかけがえのない思い出だ。
朱里は朝まで寝ないと豪語していたが、真っ先に意識が飛んでしまい、それはお開きの時間を示すことになった。莉子とクラリスは朱里を抱えると、日菜菊と共に女子部屋に帰っていく。
拓海と浩太も床につくことにした。電気を消し、最後にしばし会話を交わす。
「拓海、莉子ちゃんとは上手くやれてるかよ?」
「うん、多分。おかげさまでね」
「そっか。まあ、お前らについては心配してないけどな」
「浩太は……どうするんだよ?」
「…………」
拓海は少しだけ切り込んだ。きっと浩太はクラリスとの関係を進める気はないのだろう。しかし、勇者ゼノシュが浩太とクラリスの間にあるものを認めていたのを拓海は見てしまっている。素直になってしまっても良いのではないかと思った。
「俺にもクラリスにもこの先がある。足かせは作るべきじゃないんだよ」
「もう、気持ちは否定しないんだな……」
「はは、俺が拓海に心配されるとはな」
浩太ははぐらかすように言った。
「キマロは、どう思う?」
「コウタとクラリスが納得できる結末に至れば、ワシはそれで……」
「そっか」
拓海はキマロにも聞いてみたが、キマロの返事も歯切れの悪いものだと拓海は思った。




