9-11話 地球への帰還
勇者たちの旅立ちを見届け、拓海と莉子と日菜菊はルビーと合流した。
「みんな、お疲れ様。よくやったわね」
ルビーが声をかけてくる。
「お疲れ様でした、ルビーさん」
「何とかなりましたね」
「そうね。さあ、ここからは後片付けよ。地球の武器をこの世界に残していくわけにはいかないからね」
「ゾダールハイムのバランスが崩れてしまうからですか?」
「ええ。それは良くないこと。今回の件は邪神竜のことがあったから特別よ。まあ、片付けは私が指揮するから大丈夫。あなたたちはシュトールの街に戻っていなさい」
拓海たちはその言葉に従うことにした。渡されていた魔具を返却し、ゴーレム車に向かう。ゴーレム車に乗り込もうとしている時、エアシップが着陸し、浩太とクラリスとキマロが降りてきた。
「リコ!」
クラリスは莉子に駆け寄って抱きついた。莉子もクラリスの背中に手を回した。
「クラリスお疲れ様! 無事で良かったよ」
「リコ、色々ありがとう……。あの魔術が成功したのもリコのおかげよ」
「私だけの力じゃないよ。皆の力。でしょう?」
「うん……!」
クラリスと莉子は言葉を交わし合う。キマロも莉子の肩に降り立ち、莉子と労いの言葉を交わす。
「さあ、帰ろう」
拓海が言った。浩太たちはそれに頷いた。
拓海と莉子と日菜菊はゴーレム車に乗った。浩太とクラリスとキマロは一度ルビーの元に向かい、挨拶をしてからゴーレムに乗り込んできた。
そして、拓海たちはシュトールの街に帰還した。邪神竜の討伐は既に知れ渡っており、街は大騒ぎだった。クラリスの家に戻ると、そこにはシャロンが待っていた。
「クラリス、みんな!!」
拓海たちがゴーレム車を下りると、シャロンが駆け寄って来た。お互いの無事を喜び合う。クラリスの父ピエットはまだ帰っていなかった。シャロンによると、まだシュトールの街近くの魔術部隊の陣地で残作業をしているとのことだった。邪神竜の黒竜たちは、シュトールの魔術部隊上空にも現れ、ピエットたちも死力を尽くして魔術による迎撃を行ったのだった。
夜には、剣持と柚希も戻って来た。ヴァンパイアの壮亮、ヴァンパイア・ハンターの津麦、ラミアのレシアも合流し、この日はクラリスの家で休ませてもらった。
なお、他の怪異はルビーに合流し、片付けを手伝ったとのことだった。
翌日にはピエットも帰還し、領主のガストンもシュトールの街を訪れた。街は邪神竜討伐のお祝いモードとなっており、拓海たちもその輪に加わった。
夕方になると、拓海たちは地球に帰還するためにゴーレム車に乗り込み、ゲート監視所に向かった。ゲート監視所にはルビーと妖狐のエマと悪魔ベナカーイが待っていた。
「来ましたね、皆様。……レシアがご迷惑をお掛けしませんでしたか?」
「何ですかエマさん、いきなり! 失礼な!」
エマの言い分にレシアが抗議の声を上げる。
ベナカーイは拓海たちに握手を求めて来た。拓海たちは一人一人それに応じた。
「みんな、ちゃんとシュトールの街を満喫して来たかしら?」
「はい」
「クラリスやシャロンが案内してくれました」
「そう。じゃあ、帰るわよ。クラリスとキマロは、どうするのかしら?」
ルビーが尋ねた。ゲートの消滅が近い以上、地球組の帰還はほぼゾダールハイムとの別れを意味する。それは、クラリスとキマロにも近づいている別れの時だった。
「……もう少し、チキュウでお世話になります」
「ワシとコウタの契約もまだ解除していないからの!」
クラリスとキマロが答えた。
「分かったわ。でも、時間はあと2週間とないから、準備はしておくこと。いいわね」
「……はい」
クラリスが答えた。拓海と日菜菊も莉子も浩太も、何も反応することができず、無言だった。
拓海たちはゲートをくぐり、校舎を出て校門まで歩いた。
「何だか、いつもの下校みたい」
「本当だなぁ。あんな大事件の後だっていうのに」
莉子と拓海が高校を振り向いて言った。まだ春休みとはいえ、校内には部活で登校していた生徒たちの気配がある。いつも通りの光景だと拓海は思った。
「ふふ、そう思える方がいいのよ、きっと」
「ああ、そうだ。無事に帰って来れたということなんだから」
津麦と壮亮が言った。
「じゃあ、俺たちはここで」
「またね、皆」
「はい。また会いましょう、壮亮さん、津麦さん!」
壮亮と津麦は帰っていった。
「それでは私たちも。またワムル様にも会いに来てあげてください」
「さよなら日菜菊様、莉子様、皆様!」
エマとレシアも校門を後にした。
「僕はルビーとまだやることがある。君たちは気をつけて帰るんだぞ」
「私も宗吾と一緒に残るよ。みんな、またね」
剣持と柚希が言った。
「はい」
「さよなら」
拓海、莉子、浩太、クラリスは校門を背に歩き出した。春休み中なので日菜菊もついて来ている。キマロはいつものように浩太の肩に乗っていた。
駅に向かって電車を待つ。それはいつも通りだ。しかし、ゲートの消滅まであと2週間という情報は拓海の頭の中を乱すのだった。
「春休み中に、皆でどこかに行かない?」
莉子が言い出した。どうやら莉子も似たことを考えているようだと拓海は思った。
「うん、行こう!」
「まだまだチキュウを満喫し足りんからの!」
「すぐにどこ行くか決めないとね!」
クラリス、キマロ、日菜菊が言った。早いうちに行く場所を決めようという話になり、浩太とクラリスとキマロは最寄り駅で降りていった。
日菜菊は成戸家に帰るため、拓海と莉子だけで最寄り駅で下車する。手を繋いで家までを歩き、二人で拓海の部屋まで行った。
「とんでもない春休みだったね」
「だよな。濃いってレベルじゃないよ」
並んで座り、莉子は頭を拓海の肩に預けて来た。拓海も少し体重をかけることで返す。
(そういえば、莉子と二人きりでゆっくりするのも久しぶりだ……)
拓海はそんなことを思いながら、今すぐ何かをしたい気持ちを必死に抑える。拓海の母・知里も家にいないので、タイミング的にはチャンスなのだが、別の理由で手は出せない。
「な、なあ、莉子。言っとくけど、まだ片割れが家に着いてないから、今はまだ……」
「も、もう!? いちいち説明しなくてもいいよ!」
莉子は頬を染めて言い返してきた。
拓海の外出中に日菜菊が莉子に責められる事態になった旅行の時のことを、拓海はふと思い出した。
「あ、そうだ!」
拓海はあることを思いつき、思わず声が出てしまった。
「どうしたの?」
「あの温泉旅行! あそこに行くの良いんじゃないか!」
ヴァンパイア・スカリフルと戦うことになった温泉地。クラリスとキマロを連れて最後に旅をするには良い場所ではないかと拓海は思ったのだった。




