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怪異研究会の事件ファイル  作者: シマフジ英
File 9 異世界・決戦
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9-10話 勇者たちの長い旅の終わり

 拓海(たくみ)は空を飛ぶ悪魔ベナカーイの背中から邪神竜の爆散を見届けた。


「か、勝ったのか……?」

「分からん」

 拓海の呟きにベナカーイが答える。


 天狗に抱えられた浩太(こうた)とクラリスとも合流すると、3人で手をタッチし合った。拓海はキマロとも手を合わせる。勝てたかどうか分からないのは浩太たちも同じのようで、邪神竜のいた方向を見続けていた。


 拓海たちは、邪神竜を監視していたエアシップに帰還した。妖狐のエマは険しい表情で大地を眺めている。まだ警戒している様子で、九尾の狐は召喚されたままだ。


「エマさん!」

「あ、拓海さん! 本当にお疲れ様でした。……勝てたのでしょうか?」

「分かりません……」

 拓海とエマはそのまま大地を見下ろしていた。



    ◇◇



 退魔の結界の効果が切れ、莉子(りこ)は魔具のスイッチも切った。邪神竜が光に変わるのは目の前で確認したが、その光はまだ邪神竜のいた辺りに渦巻いており、警戒を解くことができない。


 莉子は座り込んでいる()()(ぎく)に歩み寄り、隣に座った。


「ヒナお疲れ様。身体、大丈夫?」

「うん、何ともない。精神的には疲れたけど」

「そっか、良かった……」

 莉子は日菜菊右手に自分の左手を重ねた。日菜菊はその手を握り返してきた。


 周囲ではヴァンパイアやヴァンパイア・ハンターといった協力者や、ゾダールハイムの兵士が現状確認をしようとざわついている。


(あ、そうだ! 賢者クーヤ!)

 莉子はふと自分を導いた賢者クーヤのことを思い出し、最初にいた場所の方を見た。


「あっ!?」

 莉子は思わず声を上げて立ち上がった。釣られるように日菜菊も立ち上がる。


 莉子の見た方向には賢者クーヤがいた。先ほどのように黒いオーラに覆われた状態ではなく、周囲には光が渦巻いている。邪神竜が爆散した後と同じ光だ。


 莉子は日菜菊と共に賢者クーヤの元に駆け寄った。


「ありがとう、異世界の皆さん。邪神竜は、討伐されました」

「え!?」

「上手くいったの!?」

「はい。私がこうして解放されたのが何よりの証拠。ほら……」

 半透明の賢者クーヤは、空を指差す。莉子がそちらを見ると、邪神竜が爆散して場所に渦巻く光の中に人間やエルフ、獣人族といった様々な人々が浮かび上がっているのが見えた。


「邪神竜に喰われた者たちも解放された。皆、ようやく冥界に向かうことができるでしょう」

 賢者クーヤのその言葉は莉子の周囲の者にも聞こえており、特にゾダールハイムの兵士たちから歓声が上がった。兵士たちは次々と通信端末に走り、邪神竜打倒の情報を伝える。



 緊張から解放された莉子は日菜菊と抱き合った。


「良かったよ、無事に終わって……」

「うん、良かった……」

「拓海の方は? 怪我してない?」

「ぜんぜん大丈夫!」

「そっか、良かった……」

 言葉を掛け合い、抱きしめる腕にも力がこもる。


「不思議な関係なのね、あなたたち」

 賢者クーヤに声をかけられ、莉子は日菜菊と身体を離し、そちらを見た。


「大事な人です」

「そう。あの魔術が上手くいって良かったわ」

「クーヤさんのおかげです。クーヤさんが私をここに導いてくれたから、勇者ゼノシュと話すことができた」

 莉子が言った。


「それにしても、言葉が通じているようで良かった」

「え、翻訳術ではないのですか?」

「私にそんな力は残されていない。きっと、何かの奇跡ね」

 賢者クーヤが言った。フルーズのドリームワールドの中で、異世界人の話す言葉が日本語に聞こえたのと同じ現象のようだと莉子は思った。


 そして、日菜菊の左手の、もう欠片しか残っていない紋様が再び光りだした。


「ええ、これは!?」

 日菜菊が声を上げると、その光は日菜菊の左手から離れ、賢者クーヤの前に移動し、勇者ゼノシュの姿になった。


「クーヤ……。クーヤ……なのか?」

「そうよ、ゼノシュ……。ああ、何百年経ったか分からないけれど、ようやく邪神竜を倒せたのね」

「長かった……。本当に長かったよ……」

 ゼノシュはクーヤに歩み寄り、半透明の身体を抱きしめた。


「最後に会えて良かった、クーヤ」

「ゼノシュ……私もよ」

 そう言うと二人は口づけを交わす。莉子は日菜菊の手を握ったままそれを見届けた。もう死んでしまったはずの彼らが、最後にもう一度触れ合えた奇跡を想いながら。


 やがてゼノシュとクーヤは身体を離し、莉子たちの方を向いた。


「邪神竜を倒せたのは君たちのおかげだ。男女二人で一つの魂を持つ存在だなんて、世界は広いんだな。すぐに理解してあげられなくてすまなかった。どうしてかな、今は少し頭が動くよ」

「……ああして話をできただけでも凄いです、ゼノシュさんは」

「そうですよ。さすが、勇者です」

 勇者ゼノシュの言葉に日菜菊と莉子が答えた。


「はは。それにしても二股だなんて、よく言ったな、君は」

「ああ言う以外思いつきませんでした……」

「問題ないさ。頭の動いていなかった俺をよく説得してくれた」

 勇者ゼノシュと莉子は少し言葉を続けた。


「さあ、俺とクーヤはもう行かなければならない。ゾダールハイムを救ってくれた異世界の戦士たち、本来なら全員にお礼を言いたかったが……」

「いや、待ってください! もうちょっとだけ頑張って! もう一人、会わせたい人がいます!」

 日菜菊が勇者ゼノシュの言葉を遮るように言った。



    ◇◇



 拓海のいるエアシップでは、拓海が日菜菊から得た情報を周囲に伝え、大騒ぎになっていた。拓海は浩太、クラリス、キマロとハイタッチをし、兵士たちは抱き合い、エマとベナカーイは握手をしている。エマは九尾の狐の召喚を解除し、その巨大な姿は消え失せた。


 しかし、勇者ゼノシュと賢者クーヤが行ってしまう前に、竜神族の祖メゾギルアとも会ってほしいと拓海は思っていた。急いでゾダールハイムの兵士に声をかける。


「あの! 魔術通信、復活していますよね!?」

「は、はい。どうしました?」

「浩太たちが乗っていたエアシップに連絡してほしいんですけど」

 拓海は、メゾギルアの魂が憑依した人形を持ってきてほしいことを伝えた。


「あー、拓海くん。その心配はないよ」

「え!?」

 拓海が声の聞こえた方向を見ると、そこには人形を抱えたリッチがいた。天狗にお願いして連れて来てもらったようだった。


「そうなると思って持ってきた」

「良かった! すぐに行きましょう!」

 拓海がベナカーイに事情を話すと、ベナカーイは念動力で拓海を持ち上げて飛び立った。リッチも天狗に抱えられて飛び立つ。拓海の誘導で、勇者ゼノシュと賢者クーヤの待つ場所に急いだ。



 目的地が見えてくると、リッチが先に降り立ち、人形に向かってぶつぶつ呪文をかけ始めた。メゾギルアの魂の憑依を解除するようだった。


「莉子!」

「拓海!」

 少し前に日菜菊の方が莉子と抱き合ったばかりだったが、拓海は改めて莉子と抱き合った。


 リッチの手の中の人形が光り出した。拓海がそちらを見ると、光が飛び出し、勇者ゼノシュと賢者クーヤの前に移動して竜神族メゾギルアの本来の姿に変わった。ゼノシュやクーヤと同じく、半透明だ。


「ゼノシュ……クーヤ……。もう一度会えるとは……」

「メゾギルア……長かったな」

「ああ……。本当に……」

 メゾギルアは泣き崩れた。ゼノシュとクーヤの魂は、手をメゾギルアの背中に置き、優しく慰める。


「ごめんね、メゾギルア。私はもう泣けるほどの力が残っていない」

「俺もだ、メゾギルア」

「構うものか、そんなこと……。ああ、本当はあの時、戦いを終えて、お前たちの結婚式を開いてやりたかった」

 メゾギルアは悲しげに言った。


「もし奇跡があるのなら、きっと来世で」

「ええ。来世で……」

「……世界のために全てをかけたお前たちだぞ。きっと生まれ変わってもう一度出会える。そこに私もいられたら、いいな」

 拓海たちはその光景を見守った。本当に来世でまた会えることを祈った。


 ゼノシュとクーヤとメゾギルアは、立ち上がって拓海たちを見る。


「俺たちは行く」

「改めてありがとう、異世界の皆さん」

「私の子孫たちに宜しく伝えてくれ」

 ゼノシュはクーヤと手を繋ぎ、拓海たちに背を向けて歩き始めた。少し遅れてメゾギルアがその後を追う。


 ゼノシュたちの身体は空に向かって歩み出し、邪神竜がいたところに渦巻く解放された魂たちのところに向かった。


 ゼノシュたちの行く先には、勇者と魔王の物語の記念館で見た、ゼノシュの仲間たちが手を振っていた。賑やかな様子でゼノシュたちを迎え入れ、共に歩き出す。


 生き物の形をしていた魂は次々と光に変わり、消えていった。勇者ゼノシュと賢者クーヤ、その仲間たちの姿も、見えなくなってしまった。

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