98限目 プレイ
彩花は困った顔をしてレイラを見た。
彼女の真剣な瞳をみて、誤魔化すのを諦めた。
「なんて言うか……。小学校のころのこと恨んでいるのです。当時は何度も自殺を考えました。けど、私は臆病で死ねませんでした。あはは」
笑って軽く流そうとしたがレイラの瞳はそれを許さず、彩花は笑うのをやめた。
「だから、中学で彼を見つけ出した時は仕返ししたかったです。けどまだ、その時は中村幸宏の事があったので忙しくて、話しかけられても冷たくあしらっただけでした」
レイラは彩花と相馬が一緒にいるのは一度しか見たことがなかった。教室ではほとんど、彩花はレイラと一緒にいたのだ。
それを、思い出しながら、黙って彩花の話を聞いていた。
「レイラ様を追っている時には何度も、レイラ様の見えないところで、桜花会、特にレイラ様に近づく事を否定されました」
「特に私にですか」
桜花会を敬遠するのはなんとなく理解できたが、自分を特に気にする意味がレイラにはわからなかった。
(亜理紗みたいに意地悪してねぇぞ)
自分の過去を振り返った。
「レイラ様は桜花会の上級生に“様”をつけませんよね」
「ええ、同じ学生なのに“様”とかっておかしいですわ。初等部の時、私自身を呼ぶ時“様”はやめてほしいと言ったのですが認められませんでしたわ」
レイラは初等部の桜花会を思い出した。初等部は生徒会がないため、桜花会の影響力は中等部や高等部より強い。
(あの頃は扱いはまるで“神”だったからな。はっきり言って気持ち悪かったんだよな)
「それで、桜花会の中でも“異端”と一般生徒は言っています。そう言われるのはレイラ様の桜花会らしくない振る舞いも影響しています」
「“異端”ですか」
レイラが少し考え込み、何かをひらめいたような顔をした。
「そうですわ。私の事を“レイラ”と呼んで下さっても構いませんわよ」
「えー。何か試してます? 送迎を難しいと言ったのはレイラ様が桜花会だから周囲の影響を考えてですよね。それなのに呼び捨て許可なんてレイラ様の特待Aにも目をつけられます」
力強く力説する彩花にレイラは乾いた笑いをうかべた。
「彩花さんは頭がいいですわね」
「これでも中等部を主席合格してますからね。定期試験で常にトップを走るレイラ様に誉められて嬉しく思います」
(別に学力の話しじゃねぇんだけどな。学生にとって頭がいいと勉強ができるは同異義語か)
自分の台詞が学力に直結られたので寂しく感じた。
「それで、何がしたのですか?」
「私は、相馬の悔しいがる姿や悲しんでる様子が見たいです」
「はぁ」
彩花は目的をはっきりいうとレイラは頷いた。
「レイラ様と一緒にいると本当に彼、いい顔するのですよ」
「はぁ」
「ただ、レイラ様と仲違いをすると嬉しそうなんですよね」
チッと彩花は舌打ちをして顔を一瞬歪めたがるすぐに元に戻った。しかし、レイラはそれを見逃さず眉を寄せた。
「あ、勿論レイラ様と純粋に仲良くしたい気持ちはありますわ」
「それはありがとうございます」
とってつけたような台詞にレイラはぶっきらぼうに答えた。
「信じてませんね?」
「最初は利用しようと考えていたようですが、今は好意的に感じますわよ。まぁ、いいですわ。目的はわかりました。これからはどう彼と関わるつもりでいますの?」
「意地悪をして私の小学校と同じ思いをして貰おうと思いましたが……」
唸りながら顎に手をあてて考えはじめた。レイラは、静かに彼女の言葉を待った。
「全然、効果ないのですよ。キツく当たる困った顔や悲しい顔をするので“ざまぁ”とは思うのですが次の瞬間、にこりと笑い私に優しい言葉をなげるのですよ。気持ちが悪いですよ」
彩花は当時の事を思い出しているようで眉を寄せ、歯を噛み締め、車の椅子を勢いよく叩き彩花はレイラに詰め寄った。レイラはその激しさに驚いて少し後退した。
「彼が苦しめがいいのですか?」
「そうです。苦しんで私にかしづけばいいのです」
「そうですか。では私を巻き込まず2人でプレイして頂きたいですわ。勿論困ったことがあれば支援しますわよ」
「……プレイ」
車の速度がゆっくりになっている事にレイラは気づいた。
学園の最寄り駅の一つ隣の駅についたのだ。
「そろそろ着きますわよ。今後の相馬対応はご自分でなさい」
彩花は外を見ると不満そうな顔をした。
「えー、学校じゃないんですか?」
レイラは彩花の砕けた言動を嬉しく感じた。
「登校時間に学校まで言ったら目立ちますわよ」
「そうですね。桜花会と登校なんて標的になりそうですね」
彩花は納得すると学校指定のコートを着て自分で車開けて降りると、後部座席の扉を開けようとした敏則は浮かせた腰を運転席に戻した。
彩花はレイラに軽く手をふり、レイラの車が見えなくなるのを確認した後駅へむかった。
すると、目の前に知った人物が現れて彩花は足を止めた。
「レイラ様に対して随分気軽な態度をとるんだね」
「……」
ニヤニヤとした笑いを浮かべ立っているのは阿倍野相馬であった。
 




