97限目 友だちだから
翌日。
レイラは車に乗ると彩花の家に向かった。彩花の家は一般的な大きさの一戸建てだ。その家から数メートル離れた場所に敏則は車を止めた。
「どうしたのですか?」
「判断に困っております」
敏則はレイラの問いにゆっくりと玄関の横を指し答えた。レイラは彼の指の上をなぞるように視線を動かし、その指が差すものを見た。そこには彩花の家の前をウロウロする不審な人物がいた。
(阿倍野相馬、家まで見張っているのか。もしかして、偶然を装い一緒に学校に行く作戦か?)
「車を玄関まで寄せて下さい」
「承知致しました」
車はゆっくりと動き出し、彩花の自宅の玄関に向かった。その間、レイラはじっと相馬の様子を見ていた。
彼は、彩花の自宅に近づく車に気づくと慌て物陰に隠れた。
(完全に不審者の行動だな)
車が玄関前に着き止まると、すぐに玄関の扉が開き彩花が出てきた。
敏則が車から出ようとすると、その前に彼女は自分で後部座席の扉をあけて入ってきた。
「おはようございます」
レイラは笑顔で挨拶した。
「……あ、おはようございます。勢いよく入ってきて申し訳ありません。あの、玄関の外に相馬が……」
彩花の顔色はよくなかった。
「気づいていたのですね」
「気づいていたと言うか、私が家をでる時間に毎日います。それで話かけてきて……」
敏則は彩花が座った事を確認すると、「出発します」と声をかけゆっくりと車を走らせた。
「何か酷い事をされましたの」
「いえ、終始優しく話をします。内容とは学校のことや自分の家族の事を話してきます。私は返事をしません。一方的です」
(あー、あれか好きな子と一緒にいたいってやつかぁ)
彩花は「気持ち悪い」とつぶやいた。
(まぁ、確かに興味ない男が近づいてきたら嫌だよな。でもなぁ、相馬からしたらひたすら話しかけてアプローチしてるのかもな)
レイラは少し考えてると、彩花の名前を読んだ。彼女は返事をしてレイラの方を向いた。
「あの、はっきり言ったらどうですの。気持ち悪いと、そして小学校の恨みも話してみたらどうですの?
」
「え……」
彩花は驚いて、目をパチクリさせた後下を向いた。
「私は桜華にきてから相馬には強くあたっています。小学校の時の恨みもありましたから……。でも、近づいてくるんですよ」
レイラは眉を寄せて、具体的に話すように伝えると彩花は「うーん」と考えはじめた。
「えっと、あの人は私と同じ特待Sですが生徒会にはいれるほどの学力がないのでそれをバカにしました。レイラ様に近づくなと言うのでそれも全否定しました。昨日は私を無理やりお昼に誘ってきました。しつこいので仕方なく応じましたが、そこで再度学力についてバカにして後、飲み物を買ってこさせました。朝や放課後は無視してもつきまとうのでその都度、罵倒しています」
レイラは話を聞いてポカンとなった。思っていた事と違って困惑した。
「何してもにこやかに笑いなが、優しく話しかけてくるので気味が悪いですよ」
彩花はイライラしていることを隠す事なく全身で表現した。
「私と仲良くする事は今も否定されるのですの?」
「“友だち”になったと伝え、これ以上レイラ様の悪口を言うなら“死ね”と言いました」
彼女の過激な言葉にレイラは目を点にして、「それは……」と言い過ぎである事を伝えようとしたが、その前に彼女は目を細めて言葉を続けた。
「そしたら、その場で土下座をしたのです。思わず逃げてしまいました」
そう言う彼女から悲しげな様子はなかった。
言葉で表すには難しい表情であったが、少なくとも負の感情でない。
その時、レイラは昨日の教室での出来事を思い出した。
相馬はひどく悲しげな顔をすると、彩花は楽しそうに笑っていた。
(夏に初めて彩花に話しかけらえた時も最初はしおらしかったが途中で変貌したな)
「それでどうしたいのです? このまま、毎日送迎は難しいですわよ。私にも予定がありますし」
彩花が本気でストーカー被害で困っているのではないような気がした。
(そうだよな。苦労の多い境遇の彩花が対して被害のないストーカーっていうのか。相馬に心病むわけないか)
じっと、レイラは彩花を見つけた。
「あれ? その様子だと気づいちゃいました? 可哀想な被害者のつもりでしたのに」
「その顔、隠す気ありませんわよね」
ニヤニヤと笑う彩花にレイラはため息をついた。
「小学校の時、つらかったのは本当ですよ。だから仕返しをしたいのも本心です」
「それは、好きな子に構ってほしいための、小学校男子にありがちな行動ではないのですか」
彩花は眉をひそめ、目を細めた。
「そうとは思いませんが、仮に好きでも、その理由なら何をしても良いわけではありません。実際、当時の私は深く傷つきました。アイツのせいで他の人間から悪意しかない嫌がらせも受けました」
そう言う彩花の目は笑ってはいなかった。彼女の気持ちもわかるためレイラは彼女の行いを全否定はできなかった。
「それはそうですわね」
「だから、一週間で構いません。送迎をお願いします。そうすれば、私に構わなくなると思うです」
彼女のお願いにレイラは即答できなかった。レイラがもし黒服生徒であったのら二つの返事で承諾した。しかし、実際は白服だ。
桜花会メンバーしかも次期会長の自分が送迎をするという意味を考えた。
(なんでも力になろうとか意気込んだが……。安易なことはできねぇよな)
「難しいですわね。そもそも、一週間の送迎の意味ありますの? 本当に諦めるのでしょうか」
彩花は真顔になって考えた。
「……ってそれはリスクがたかすぎますよね。レイラ様は桜花会でした。ぽくないんでつい忘れてしまうんですよね。へへへ」
首を傾げて冗談ぽく彩花は笑った。
「送迎はもう大丈夫です」
ヘラヘラと笑う彩花の肩を両手で触れた。その手の力が強さに彩花は驚き彼女の顔をじっと見た。
レイラは笑っていなかった。
「私は友だちですわ。できる事なら力になりますわよ」
「へへへ……」
笑って誤魔化そうとしたが、レイラはそれを無言で見つめた。彩花は彼女の圧に負けて頬をかいた。




