94限目 家にこだわりはない
憲貞はレイラと亜理紗、そしてリョウの顔をゆっくりと見た。
「私からは以上だが、何かあるかね」
リョウは不満げな顔して首を振ると、レイラは思いついたように口を開いた。
「そうですわ。亜理紗の桜花会の特典である特待A制度を撤廃してほしいのですわ。」
「ーっ」
その言葉に一番驚いたのは愛里沙だ。彼女はレイラの手をひいたがレイラは気にせず、憲貞と香織をみていた。リョウは眉間にシワを寄せている。
(なんで、亜理紗が驚いてんだよ。さっき話したろう? 本気にしてなかったか)
「難しい。特待の配置は生徒会が決めているが選定は学園側が決めている事であり金銭的な問題が発生するから桜花会では決められない」
「亜理紗は罪を犯しましたわ。それは……」
レイラは顎に手を当て亜理紗を見ながら考えた。それを、亜理紗は不安そうな顔で見ていた。
「中庭占拠の罪ですわ。黒服の皆様に迷惑をかけて更に世話をしてもらうなどと図々しいにも程かがありますわ」
「なるほど。しかし、それはレイラ君の指示ではなかったのではないのかい?」
憲貞は首を傾げた。
「そうですわ。勿論、私の特待Aも撤廃して構いませんわ。私たちの罪ですので特待Aの待遇はそのままにしてほしいのです。たしか、桜花会が問題をおこした時の規定で特待Aの撤廃というのがありましたよね」
「わかった。学園側と相談する。それでは失礼する」
憲貞が立ち上がると、香織も挨拶をして立ち上がった。そして、リョウの方をみた。
「リョウ、一緒に戻るよ。君の仕事はまだ残っているんだ」
「……はい」
リョウは立ち上がると寂しそうな顔でレイラを見てから「では、また家で」と言って香織の後を着いて言った。
憲貞らが見えなくなって数秒後、愛里沙は大きく息をはいた。それを見てレイラは「緊張しましたわね」と言うと愛里沙は勢いよくレイラを見た。
「それは亜理紗だけですわ。そうでなくて」
テーブルを叩き、大きな声を上げる愛里沙にレイラは首を傾げた。
「なんで、退学してもいいなんて言うのですか」
「話の成り行きですわ」
「成り行きって……亜理紗を庇ったから、扇子を奪った日から、亜理紗に構いすぎですわ」
「奪われてないですわ。渡したのですわ」
感情的になる亜理紗に対して、レイラは静かな声で伝えた。側からみれば亜理紗がレイラをせめてるようにも見える。
「本当に公立中学に行くことになったらどうするのです?」
「普通に通いますわよ」
「もし本当に家を追い出されたらどうするのよ」
「養護施設から公立中学に通いますわよ」
(俺の学力なら奨学金で高校行けるだろうし、大学は企業と契約すれば大丈夫だろう)
あっけらかんと答えるレイラの手を強く握り、亜理紗は身体を震わせていた。
「特待A廃止まで」
「いらないって言いましたわよね。必要でした?」
「亜理紗はいらないですわ。そうじゃなくてレイラ様の……」
レイラは、少し考えると震える亜理紗を自分の方に引き寄せて抱き締めた。
「大丈夫ですわ」
優しく囁くと、それ以上亜理紗は何も言わなかった。




