92限目 信念を貫く
優雅に現れたのは桜花会会長の天王寺憲貞と副会長の北大路香織だ。レイラと亜理紗は2人頭を下げた。
「天王寺会長に香織先輩、本日は天気がよく庭園での昼食日和でございますね」
にこりと、微笑むレイラの横で亜理紗は必死に口の中から食材をなくそうと格闘しながら頭を下げた。
「あぁ、食事中ならば座ったままで構わない。せっかくの楽しい時間を邪魔してしまいすまないね」
憲貞はレイラの近くにくると眉を下げた。そしてチラリと亜理紗の方を見た。
「いいえ。先輩方に会えて嬉しく思いますわ」
レイラは彼らを誘うように、空いている椅子を手の平を上にして差した。
「そう。ならご一緒させてもらおうかな」
憲貞の横にいた、香織がどかりと亜理紗の横にある椅子に座った。そして、亜理紗に座るように手招きをすると彼女は顔を青くして座った。
「そうか。すまないね」
我がもの顔で座る香織とは正反対の態度を示した憲貞は申し訳なさそうにレイラの隣に座った。全員が座ったことを確認するとレイラは「失礼致しますわ」と椅子に座った。
亜理紗は真横に香織、斜め前に憲貞が座ったため、緊張で体が動かなくなっていた。
「あぁ、私たちは食事がすんでいるから気にせず食べてくれたまえ」
「いえ、私たちももう食べ終わりましたの」
そう言って、数口しか食べていないお弁当をしまい、横で固まっている亜理紗の空のお弁当箱も包み彼女のカバンにしまった。
「随分仲良くなったんだね」
にこやかに香織が話しかけてきた。
「勿論ですわ。これから二人で桜花会を仕切っていくのですから」
「そうかい。亜理紗もそう思っているのかな」
亜理紗は香織に顔を見ずに頷いた。
(査問会がトラウマになってるのか。以前は香織に対してそんな怯えた表情はしなかっただろう)
「香織先輩、どうやら亜理紗は査問会がトラウマになっているようですね。だから、先輩の顔を見られないようですね」
「それはすまないことをしたね」
すぐに謝ったのは憲貞だ。眉を下げて寂しげな顔をして亜理紗を見た。亜理紗は顔を上げずにじっと膝に置いた自分の手を見ていた。
「しかし、亜理紗君のやった事を考えれば仕方がないことだ。レイラ君から扇子を奪うなんて桜花会の退会どころの話ではない。恐喝で警察に突き出されても文句は言えないことだ。君の以前の特待Aがどうなったか知っているだろ。うん」
笑顔で優しい口調であるが、圧が強く反論することができない。
「あ……、う……」
亜理紗はガタガタと体を震わせて、言葉にならない声を上げた。それを見て、レイラは額に手を当ててため息をついた。
「あの方は自主退学ですわ。先輩方は亜理紗を脅しにきたのですか? 今回の件は解決してますわよね。それを更に責めるのは趣味がよくありませんわ」
レイラは椅子ごと亜理紗に近づき、彼女の手を握ると真っ直ぐに憲貞を見た。
「ずいぶん、愛里沙の方を持つんだね。今回、レイラも被害者でしょ」
テーブルに肘をつき、組んだ手の上に顎をのせてにこやかに香織が微笑んだ。
「被害者ですか。扇子を“渡した”時の件をおっしゃっているのでしたら見当違いですね。あれは扇子を渡す際に“触られた”だけですわ」
「ほぉ」
「ふーん」
レイラの言葉に憲貞も香織も目を細めて頷いた。顔を上げた愛里沙だけが目を大きく開いた。
「なるほど、では亜理紗の罪は中庭占拠のみだと言うのかい」
「中庭占拠は私の指示ですわ。ですから、皆様にお詫びしましたわ」
「え……?」
亜理紗が驚いた顔でレイラを見ると、香織はクスリと笑った。
「今日の朝の騒動を知らないか。高級なお菓子が配られたろ」
亜理紗は香織に返事せずにレイラをみた。そのため、香織に眉を寄せて彼女を睨みつけた。
「香織先輩。脅すのはやめてください。だから、返事もできないのですよ」
レイラは自分の中にある亜理紗の手を力強く握りしめると真っ直ぐな瞳で香織をみた。
香織は、ため息をつき乱暴に背もたれに寄りかかると腕を組んだ。
「ハン。何を言っているんだい。亜理紗だって変わらない、いや、私より酷い所業を行っているではないか。自分より弱いとわかれば強くでて、強いと思えば今のような状態だ。レイラの後ろに隠れて何もいえやしない」
足を組み、愛里沙を指差した。その間、愛里沙は助けを求めるようにレイラの顔を見ていた。
「権力や発言力の強い方に屈してしまうのは当たり前のことですわ。怖いですもの。しかし、それで人をおさえても不満は残りますし信頼されませんわ。愛里沙の行動には問題がありましたわ。ですので、今後そうならないようにしていきますわ」
「根拠は? 対策は?」
胸をおさえ、身を乗り出して香織に訴えるレイラを彼女は鼻で笑った。
「レ、レイ……ラ、さ」
その時、愛里沙が握っていた手に力をいれ自分の胸に抱きかかえた。
(え、あ、おっぱい)
愛里沙のふくよかな胸に手か包まれてレイラは顔赤くしたが誰もそんな事は気にしなかった。
「もう、いいですの」
涙を流しながら、首をふりレイラの方をみた。
「これ以上、桜花会幹部に逆らわないで。そこまでして守る価値は亜理紗にはないですわ。このままじゃ……」
言葉を詰まられせる愛里沙をみて香織はニヤリと笑い、目を細めてレイラに視線を移した。
「そうだね。私の家も憲貞の家も大道寺に対抗するだけの力はある」
横で黙って聞いてた憲貞は無言で頷いた。
「馬鹿馬鹿しいですわ」
きっぱりと言い放つレイラに、その場にいた全員が目を大きくした。そのどさくさにまぎれて、レイラは愛里沙の胸にある手を自分のもとに戻した。
(もったないが、それはダメだろ。うん)
呼吸を整えて、周囲を見ると全員の視線が集まっていた。
「馬鹿馬鹿しいとはどういう事かな」
香織の冷たい目がレイラに突き刺さるが、彼女は一切気にしない。
「子どものもめ事に、自分の権力を使う大人は馬鹿でしかないですわ。香織先輩と天王寺会長の御家族がそう言う政治家でしたらこの国の先は真っ暗ですわね」
ため息をつき首をふりながら話すレイラに、香織は笑顔を見せた。
「真っ暗かもしれないよ」
「私は別に公立中学に転校でも構いませんわ」
その時。
真後ろの生け垣で大きな音がした。レイラは驚いて振り向くと、よく知る人物が生け垣から頭を出していた。




