表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/130

80限目 愛の押し付け

 レイラは亜理沙と別れて、帰宅した。

 自室の前までくると、見覚えのある人物が立っていた。レイラは、その人物が兄である事を判断すると、その場で足を止めた。


なぎさん、ここまでで構いません」


 後ろを歩いていたカナエの退職後にきた専属家政婦の凪に伝えると、彼女は頭を下げて下がった。


「レイラさん」


 レイラに気ついたリョウは足早に彼女に近づいた。


「待ってましたよ。査問会があったのですか? 詳しく教えてください」


 食い気味くるリョウにレイラは数歩下がり体を引いた。そこで、リョウは自分が近づきすぎた事に気づき謝罪すると下がった。


「全く、こんな時に父に手伝いをしなくてはいけないとは……。査問会が開かれるとわかっていたら登校したのに」


 眉をよせてため息をついていた。


「桜花会の書記である真人様から報告書が配信されていませんか」

「勿論、確認済みです。その上で聞きたい事があります」


 リョウは顎に手を当てて、自分の腕にある時計を見てから少し考えるとレイラの方を向いた。


「居間へいきましょうか。そこで食事を食べた後に話を聞きたいです」

「話す事などありませんわ。全て報告書に書いてある通りですわ」


 レイラは首を振って、否定するとリョウを目を細めてレイラに近づくと彼女の手を引いた。


「え、ちょっと待ってください。わたくし、制服のままですわ」


 レイラは足に力を入れて抵抗したため、リョウは手を離した。


「着替え、待ってます」


 腕を組み不愉快そうな顔をして、レイラの部屋の扉の横に寄りかかった。


(何を聞きたいんだ? めんどくさいなぁ)


 リョウは動かずレイラを睨みつけるので、彼女は諦めて「わかりました」といい部屋に入った。部屋に入ると、鞄を机の横に置き制服を脱ぎカゴに入れるとクローゼットからワンピース出して着替えた。


(本当はシャワーを浴びたかっただけどな)


 レイラは、外にいるリョウの顔を思い浮かべてため息をついた。鞄からまゆらからもらった眼鏡の入ったケースを出した。


「なんで、今年は問題ばかりなんだ。でも、もうすぐ一緒に住めるな」


 眼鏡ケースに向かってつぶやくとそれを大切そうに机の上に置いた。


 部屋の扉を開けると、その目の前にリョウがおり驚いて数歩下がった。


「いきましょうか」


 にこりと笑うリョウの圧に負けてレイラは返事をすると居間の向かった。居間に着くと、2人で来た事にタエコは驚いていたが深くは聞かずに食事を用意してくれた。レイラがいつものカウンターに座るとリョウはその隣に座った。


 タエコの料理はとても美味しかったが、不機嫌な顔をしたリョウがもくもくと横で食べていたため味がしなかった。一切会話のない食事も気まずかった。普段ならばタエコが声をかけてくれるのだがリョウが休憩を出してしまったのだ。


(なんでタエコを追い出しだんだよ。空気が悪りぃ)


 心の中で悪態をつきならリョウを見ると彼は平然と食事をしていた。


「ごちそうさま」


 リョウは食事の挨拶をして、食器を台所に持っていく時チラリとレイラの方を見た。彼女は視線を感じてそっちを向くと彼と目があった。

 リョウは無言で首をソファの方に動かしてから、ソファに向かった。


(はい、はい、ソファに来いって事か)


 レイラは食事を終えると挨拶をしてリョウと同じように食器を片付けた。そして、重い足どりでリョウの向かいに座った。


「査問会の内容は報告書で読んでいます」


 レイラが座ったのを確認するとすぐに話始めた。


「まず、亜理紗様が持っていた扇子ですが、レイラさんが香織様にもらったのは知ってます。その事が、主従関係の意味ではなくだだ、預けたと記録されていました。それがなぜ、亜理紗が持っていたのですか」

「査問会の報告書にあった通り、わたくしの意思で渡したのですわ」


 腕を組み、見下ろしてくるリョウの迫力に負けないように必死に彼の瞳を睨みつけるように見た。


「では、初めから亜理紗様に問題行動を止めるつもりだったのですね」

「そうですわ」

「いい加減にしてください」


 大きなため息をつき額に手をやるリョウにレイラは戸惑って言葉が出なかった。


「レイラさん」


 リョウはいつもよりも低い声で彼女の名前を読んだ。


「学園での自分の立場を理解してます?」

「立場……」

「そうですよ。あの亜理紗様と主従関係になったのですよ。どんなに大変な事だか理解していますか? 彼女の行いが全てレイラさんの責任になります。なんでこうなる前に相談しないのですか。いや、私がさっさと動くべきでした。レイラさんが扇子を受け取った時点で憲貞様に抗議するべきでした。もしくは亜理紗様が扇子をレイラさんから奪った時点でレイラさんと話すべきでした。まさか、亜理紗様を庇うとは思っていませんでした。これは私の判断ミス。レイラさんの事を理解しているつもりでいました。本当に、不甲斐ないです」


 リョウが一気に早口で話したのでレイラは口を挟むことができなかった。

 彼は息を整えると、レイラの事を真っ直ぐに見た。


「だから、つまり、心配しているんですよ。わかります?」

「そうですか」


 レイラは小さな声で答えた。


「それで、お兄様は今後どうしたいのでしょうか」

「そんなの決まっています。今すぐに転校させて平穏な日々を送ってもらいたいです。亜理紗様なんかと関わるなんて……。辛い目にあうに決まってます」


 リョウは目に涙を浮かべた。それが頬に落ちないうちに慌てて腕でぬぐった。


(泣く事か?)


「転校なんて嫌ですわ」

「そういうと思ってました。だから、せめてこれを持っていてください」


 そう言って、リョウはポケットから小さな蝶がついているネックレスを渡した。レイラはそのネックラスを手にのせて首を傾げてじっと見た。


「これで、レイラさん居場所や会話を全部聞くことができます」

「……誰がですの」


 恐る恐る聞くと、リョウは満面の笑みで自信満々に「私に決まってます」と答えた。


(いやいやいや、おかしいだろ)


 レイラがそっと、ネックレスをローテーブルに置いた。そして、それ両手を向けて首を振った。


(全力で拒否だ)


 するとリョウは目を細めた。


「それでは、転校ですね。もしくは、亜理紗が卒業するまで休学してください」

「何を言っていますの」


 レイラが、意味がわからないと強く反発するが、リョウは笑顔を崩さなかった。それが帰って恐怖を感じた。


「できないと思っていますか? 私がなんで学校を休んでまで父の手伝いをしているかわかりますか?」


(親父の手伝い? 家の事じゃねぇのか? マジでなんなんだよコイツ。病んでるのか? レイラに変な依存してるのか? これ承諾しねぇといないのか? プライバシーとかねぇーじゃん)


 レイラは、ローテーブルに置かれたネックレスを眉をひそめてみた。綺麗に輝くそれがレイラの目には禍々しい物にうつった。

 なかなか、ネックレスを手にしないレイラを見て、リョウはため息をついた。


「わかりました。転校の手続きを進めます。それまで部屋から出ないでくださいね。それと、ここにくる予定だった河野さんはどうしましょうかね」


(まゆら)


 レイラは、素早くネックレスを手にした。


「まゆらさんは、やっと憧れの学校に行けるのです。それを止めてはいけませんわ。このネックレスをつけてればいいのですね。だだ、お風呂は外しますわよ」

「ええ、お風呂は外して頂いて構いませんよ」


 リョウは満足そうに笑った。


(マジ、監視じゃんかよ。変態兄貴だなぁ)


わたくしを監視して何になるのですの?」

「監視なんてとんでもありません。見守っているのです。理由は勿論、証拠集めです。亜理紗様を、含めレイラさんに損害を与えた者には罰が必要です」


 拳を握りしめ力説するリョウにレイラは「はぁ」としか答えられなかった。


「そうですわ。明日亜理紗と出かける約束をしました」

「え?」

「お兄様は彼女を切り捨てたいようですが、わたくしは彼女を救いたいです」

「何を言っているのですか?」

「お兄様が行かなくとも私は行きますわ」


 レイラがきっぱりと告げると、リョウは「分かりました」と不貞腐れた顔をした。それにレイラは笑顔を見せた。

 レイラのその笑顔を見て、リョウは何か裏があるのではと考えたが言葉にはしなかった。


「それでは、明日10時に待ち合わせしてますので30分前には出発しますわ。それでは失礼しますわ」


 レイラはリョウの返事を待たずに、居間を出ていった。


 それとすれ違いにタエコが戻ってきた。


 リョウは彼女に挨拶とすると、居間を出て自室に向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ