表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/130

7限目 ストーカー

 レイラが車に乗ったのを確認すると運転手は後部座席の扉を閉めて運転席に乗った。そして「それでは出発します」という声と共にエンジンが掛かった。

 レイラは車の窓越しにトメを見ていた。彼女はいつも車が見えなくなるまで頭を下げてくれる。レイラもそんなトメが見えなくなるまで彼女から視線を外さなかった。


 しばらくすると図書館が見えてきて車の速度が落ちた。図書館に着くと運転手は降車して後部座席の扉を開けた。レイラは車を降りると、黒いチョーカーを運転手から貰い迎えの時間を約束し図書館へ向かった。


 まゆらがいるかもしれないと思うといつもの図書館がなによりも楽しい所の様に感じた。足取り軽く、昨日と同じ場所に着くと探すまでもなくすぐにまゆらを発見した。

 昨日と同じ様に三つ編みに黒ぶち眼鏡、大きめのパーカーにジーパンをはいて、同じテーブルに座っていた。


 レイラは走って駆け寄りたい気持ちを必死に抑えてゆっくりと彼女の方へ歩いた。


 彼女が驚かないように優しく声をかけた。


「おはようございます。まゆらさん」


 まゆらはレイラの声を聞くと読んでいた本から目を離し、勢いよく立ち上がった。


「レイラさん、おはようございます」


 心底嬉しそうに挨拶をする彼女は太陽のようであった。それを見たレイラは彼女の可愛さに転げまわり発狂しそうになったが必死にそれを耐えた笑顔を作った。


「座りましょうか」

「はい」


 まゆらは両手でずり落ちる眼鏡を抑えながら嬉しそうに答えた。

 レイラはまゆらが席に着くのを見てから彼女の隣に座った。対面席も空いていたがテーブルが大きく、話をするには遠すぎた。

 レイラはテーブルに座りながらまゆらの方を見た。


「疑問に思ってしたことですが、まゆらさんはなぜそんなに嬉しいそうなのですか?」

「レイラさんに会えたからですよ」

「私と会ったのは2度目ですよね?」

「……以前も……話しましたが……、ずっと、綺麗だなと見ていたので……大好きなんです」


 まゆらは下を向いてしまい、レイラは最後の方がよく聞き取れなかった。そのため「もう一度お願いしますわ」と催促したがまゆらは頬を染めて黙ってしまった。


(まぁ、推しメンに喜ばれて嬉しいけど。不思議な感じだ)


 レイラはまゆらが大好きだが、彼女が自分の事を好む要素が不明であった。


(悪役令嬢とヒロインだろ? なんで、好かれてんだ? もしかして、レイラは悪役令嬢じゃない? じゃ、誰だよ。レイラはモブらしくない設定だぞ)


「あ……あの、昨日本をとって貰いました……」

「そうですわね」


 まゆらは声は小さく下を向いているため聞こえづらかった。レイラはまゆらの声を聞き逃さないように彼女のほうに椅子を近づけた。


「あ……、あの」

「それで? 続きを聞かせてくださいます?」


 レイラは自分が近づいたことでまゆらがどもったことに気づいたが、こんなことで話の腰がおられては日が暮れてしまう。そのため話を続けるように促した。


「あ、はい。それは今回初めてではなくて……以前もとってもらったです」

「そうでしたの」


(マジか、マジなのか? まったく記憶にねぇぞ。その時は今の外見が違うのか? ゲームのまゆタソと同じ格好なら今回見たいにすぐ気づくと思うだけどな)


 レイラは手を重ねて膝の上に置き、にこりと優しい笑顔を浮かべながらまゆらの話を聞いていた。まゆらは相変わらず顔を上げることができず下を向いたまま話を続けた。


「その時……レイラさん美しさに……魅入ってしまって……それからあの……」


(まゆタソのがめちゃくちゃ可愛いよ。なにせ、ヒロインだから。まぁ、それと張り合うためにレイラも美人なんだよなぁ、多分。あ、やっぱり悪役令嬢だよな。あれか? 昔は仲良かったがレイラが裏切る設定とか?)


 下を向きて、身体をふるまゆらの眼鏡はまたズレた。


(それ、不便すぎねぇ?)


 レイラは鞄から眼鏡のケースを取り出すとそこから眼鏡を出した。透明のリム、テンプレが水色と銀色をした眼鏡だ。その眼鏡を眼鏡拭きで綺麗に拭いた。


 優しくまゆらに声をかけた。


「まゆらさん」


 レイラに呼ばれてまゆらは頭をあげた。勢いよく上げたので、また眼鏡がズレ彼女は両手で抑えた。


「はい」

「これをかけてみて下さい」

「え……あ、はい」


 まゆらは自分の眼鏡をテーブルに置くと、レイラから受け取った眼鏡をかけた。

 レイラはまゆらの眼鏡のかかり具合をみた。


(頭のサイズはレイラと変わらねぇみたいだな)


「どうでしょうか」


「よく、見えます」


 そう言って目を大きくしてレイラを見たまゆらは、頬を赤く染めてうっとりとした顔にした。それは憧れのアイドルにでもあったような表情だ。


「レイラさん。レイラさんのお顔はこんなにも素敵だったんですね」


 その表情を見てレイラの顔は真っ赤に染まった。


(目が開くとヤバい。なんじゃ、この整いすぎた顔はぁぁ。あ~もう、まゆタソ、まゆタソ、まゆタソ)


 心の中で叫びながら、ソレを出さないように必死に笑顔を作った。


「それは良かったですわ。で、話し続きをお願いしますわ」

「あ、はい。それから……いつもレイラさんを……探して、いました。ごめんなさい。ストーカーみたいですよね。……気持ち悪くてごめんなさい」

「いいえ、そんなことありませんわ」


(こんな可愛いストーカーなら大歓迎だけど、まゆタソとあった事、両親あいつらにバレてんだけっけな。どこから見てんだ?)


 レイラは首を動かして部屋の中を見回したが、以前来た時と同じよう誰もいない。扉が閉まっていることから、誰かが入ってくれば音で気づく。


 図書館で同性同世代の人間と話しているだけであるからやましいことは一切ないが、彼らのせいでレイラは友だちがひとりもいない。


「ありがとうございます。えっと……それで、レイラさんがとても勉強熱心であたることを知ったり」


(しねぇと学校の授業に追いつけねぇだよ。成績落とすマジヤバなんだって)


「絵本コーナーで迷子になっていた小さな子の保護者を探したり」


(あ、あの泣いて煩かったクソガキか。なんとかしねぇと勉強に集中できなかったんだよな)


「本や勉強する姿勢は美しくまさに淑女です。ハーフアップにされた髪はお美しく。勿論、今のお団子も最高です。その美しくお顔にとてもお似合いです」


(う? ハーフアップって昨日か?)


 言葉の途中で、まゆらは顔上げてレイラを見つめていた。その顔は照れたようなさっきの態度は全く違い目を輝かせていた。


「今日のお洋服も素敵です。その洋服は2ヶ月前に着ているのを見ましたが今回間近で見られて嬉しいです。それに……」


(2ヶ月前?)


 少しずつ近づいてくるまゆらの顔にレイラは面食らい身体を下げた。

 まゆらはそれに気づき慌てて、元の姿勢戻ると「すいません」と言ってまた頭を下げた。


 レイラはすぐに笑顔に戻りまゆらをみた。


(そっかぁ、そんなにレイラの事気に入ってくれたのかぁ。じゃ、やっぱりこの後裏切る設定かぁ。裏切らないようにしなくちゃな、そしたらまゆタソと仲良くできて、悪役令嬢の破滅も回避できるんじゃね?)


「まゆらさんは私が好きなんですね」


 まゆらは顔上げると、大きく目を開きレイラをじっと見つめた。


「はい。優しく美しいレイラさんは女神様です」


 興奮したまゆらは、照れる様子はなくフンと鼻息を荒くして言い切った。


(う? 待てよ。これ乙女ゲームだよなってことはまさか、裏切るのはまゆタソか? 今はレイラを好きと言っといてそのうち攻略対象とできてレイラをふる。だから、レイラはキレてまゆタソをいじめるだな。隠れ百合ゲーか。じゃ、この好きも本気に相手しちゃダメだな)


 レイラの顔が険しくなりまゆらは困ったように眉を下げた。そして、「あっ」っと言ってまゆらはかけている眼鏡に触れた。


「あ……眼鏡。すいません。お返しします」


 眼鏡をとり、レイラに差し出すと、彼女は手に平を見せてそれを止めた。


「あげますわ。その方が見えやすいですよね」

「そんな……こんな、高いですよね」


(高いのか。眼鏡詳しくねぇだよな)


「そうなんですか。私は眼鏡に詳しくありませんが同じ眼鏡をかけている方を見たことはありませんね」

「だから……あの」

「では交換しましょうか」

「え? これとですか」


 レイラは置いてあったまゆらの眼鏡を見た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ