67限目 品格
しばらく見ていると、会長席の後ろにある扉が音を立てて開いた。
そこから、会長の天王寺憲貞が血相をかえて飛び出してきた。そしてレイラの側に来ると膝ついて彼女の顔見た。
塗れたタオルを渡されたので、レイラは「ありがとうございます」と言ってタオルを受け取ると冷やした。
「レイラ君、大丈夫かい」
「そう思うのでしたら、叩かれる前に助けてくださいます?」
「いや、それは。すまない」
憲貞は後から出てきた、6年副会長の北大路香織と5年副会長の中岡圭吾の方を横目でみた。
「ごめんね。痛かった? じゃ、腹いせに憲貞を叩いていいから」
「香織君」
笑いながら言う香織に強くなしなめると、憲貞はレイラの方を向き、彼女の手を取るとその手を自分の頬に当てた。
「レイラ君、君が望むなら叩いても構わないよ」
「そうですか」
レイラは憲貞の言葉にうなずくと彼ほ手をふりほどき、自分の手を引いた。
その瞬間。
憲貞の顔が青くなったがそんな事は気にせずにレイラは全力で憲貞の頬を叩いた。
大きな音がなった。
憲貞はバランスを崩して床にお尻をつけた。
その瞬間、ソファのあたりで笑い声が聞こえた。
「使いますか?」
レイラはにこりと笑い、自分の冷やしていたタオルを会長に渡した。
「あ、ありがとう」
憲貞は受け取ったタオルで赤くなった自分の頬を抑えると立ち上がり、ふらふらと歩きながらソファに向かった。
「圭吾」
憲貞は圭吾に横に座ると彼に助けを求めるように、名前を呼んだ。彼は持っていた書類をローテーブルに置くと、にこりと憲貞に笑いかけた。
「自業自得ですね。俺らは同罪なのに自分だけレイラちゃんにいい顔しようとするからですね」
「ほんと、ズルイ奴だ」
「……」
自分の味方がいない事を悟ると、憲貞はため息をついてローテーブルの上にあったお菓子を口に入れた。
レイラはそんな三人を気にすることなく、ペンを動かしていた。
しばらくすると、レイラは書類をそろえて立ち上がり圭吾の側に行き、声をかけるとそれを渡した。
「ありがとう」
圭吾は受け取ると、それをパラパラとめくり頷くと立ち上がり会長机に置きに行った。
「それではこれで失礼いたします」
レイラが頭を下げて立ち去ろうとすると、「まちなよ」と香織が止めた。
レイラは真っ直ぐ背を伸ばして、座っている香織をみた。
「なにかないのかい?」
「はい。あっ」
レイラは首を傾げた。少し考えてから香織に向かって頭を下げた。
その間に、圭吾はもとの席に戻っていた。
「豊川先輩に、香織先輩から頂いた扇子を盗られました。申し訳ありません」
「思ってないのに謝らなくていいよ」
「そうですか」
(あー、バレたかぁ)
香織は「クックック」と笑った。その振動で、彼女の大きな胸が揺れた。
(あれはやべーなぁ)
レイラが香織の胸をじっと見てると、彼女はそれに気づき、わざと胸のしたで腕を組んだ。
レイラが香織の顔をみると、彼女はニヤリと口角を上げながら、口を開いた。
「レイラのあの対応を責めるつもりはないよ。だだ、私たちが見ていたのに助けなかった事や裏でなにか動いてること気にならない?」
「お任せします」
すると、憲貞が不安そうな顔して、じっとレイラの瞳を見つめた。
「いいのかい? 君の事、囮にしているのだよ」
「囮でしたの? たまたま、遭遇したのだと思いましたわ」
「え……」
「会長は、私を使って何をしたのですの?」
ニヤリと笑うレイラに、憲貞は慌てて手を振った。
「え、いや……偶然だ。だだ、レイラ君と亜理沙君がここへ来るのは知っていた。そして、亜理沙君がレイラ君に良くない感情を思っている事も知っていた。それで二人の様子を見ていた。それだけだ」
憲貞は申し訳なさそうに話すと、香織は眉を寄せてため息をついた。
「会長は正直だね」
圭吾がにこりと笑い、憲貞に話かけると彼は不貞腐れた様な顔をした。
「当事者が知らないのはおかしいではないか」
「豊川先輩を“罠に嵌めよう”としたのではないのであれば私は、なんでも構いませんわ」
レイラの言葉に香織と圭吾、そして憲貞は目を大きくしてレイラを見た。
「違う。その話ではない。なぜ亜理沙を庇うんだい? 君は頬を叩かれたし罵倒されたではいか」
レイラは憲貞の言葉に首を傾げた。
そこ横でニヤニヤと、香織が笑いながら「なんでも構わないねぇ」と呟いた。圭吾はピクリと動いたが憲貞とレイラの耳には届かなかった。
「そうですね」
「仕返ししてやろうと思わないのかい?」
憲貞の言葉にレイラが驚くと憲貞に目を細めた。
「やられたら、やり返すですって」
レイラが「ハン」と鼻で笑うと憲貞は口を閉じた。圭吾は何も言わずにレイラを見ていた。
「それではレイラは、亜理紗に何をされても黙ってみているつもりなのかい?」
香織が眉を寄せると、レイラは首を振った。
「何をしても許される世の中はありませんわ」
レイラは、三人の先輩をじっとみた。香織は不適な笑みを浮かべ、圭吾は穏やかに微笑んでいるが憲貞だけは不安そうな表情を浮かべた。
レイラがそれ以上誰も発言しない事を確認すると「失礼いたします」と言って頭を下げた。
そして、レイラが部屋を出ると扉は音もたてずにしまった。
その後しばらく沈黙が続いた。
「で、どうします?」
沈黙を破ったのは圭吾だ。憲貞はため息をついて、首を振った。
「ハン。亜理紗の行動は桜花会の品格を貶めかねない。予定通り、今後の様子を映像と共にまとめ学園側に提出する。判断するのは私たちではない」
香織は腕を組み、凛と通る声で言った。その姿はまるで女帝のようである。
「確かに、彼女を退会させる権利はありませんよね」
圭吾は頬を抑えながら、軽く言った
「当たり前だ。桜花会一人退会させると相当な損益がうまれる」
「そうですね」
香織と圭吾の話を憲貞は黙って聞いていたが、納得しないようは顔をしていた。二人はそれに気づいていたが特にそれに触れることはなかった。
憲貞はふと腕時計を見ると「これで私は失礼する」と言って立ち上がった。
香織と圭吾は口々に挨拶をした。憲貞はそれに返事を返すと桜花会室をでた。
憲貞は、扉の横に全く同じ顔をして立っている二人をみた。
一人は黒い学ラン、もう一人は黒いセーラー襟のワンピースを着ている。どちらも桜華の一般学生標準服だ。




