64限目 問い詰める
部屋にいたリョウは、片耳ににイヤフォンをつけて、机に向かい勉強していた。
彼は突然現れたレイラに驚く事なく座ったまま彼女の方を向くと微笑んだ。
「レイラさん。どうしました?」
レイラは真っ青な顔をして、身体を震わせていた。
「お兄様、お兄様、お兄様、お兄様」
鬼の様な形相になり、リョウに詰め寄った。余りの近さに彼は身体をひき、椅子から落ちそうになったが手で必死に支えた。
「ちょっと待って下さい」
リョウはレイラの身体を押し、自分から離そうとするが彼女は一切離れず睨みつけた。
「……」
余りの勢いに、リョウは仕方なく彼女を力まかせに自分の方にひき寄せ抱きしめた。
「落ち着いて話をしましょう」
しばらくは暴れたレイラだったが、リョウの力に勝てないと理解すると大人しなった。
彼女が落ち着くと、リョウは抱きしめる腕を緩めた。
その途端、レイラは彼から身体を離し、拳を握りしめるとリョウの頬にむけた。
しかし。
「だから、落ち着いて下さい」
レイラの手は難なく、リョウに抑えされてしまった。 手を戻そうとしたが、彼の力に勝てない。
「クソ」
いつもとは全く違う表情を見せるレイラにリョウは嬉しそうに笑っていた。それが、余計にレイラを苛立たせた。
「全く、そんな汚い言葉遣いはいけませんよ。最近は直ったと思ったのですが……」
「盗聴」
リョウは何も言わずに目を細めて首を傾げた。
必死に手を振りほどこうとするが、掴まれたままびくもしない。レイラは顔を真っ赤にしてリョウを睨みつけた。
「お兄様のせいで、見知らぬ女性がひどい目にあいました。どう責任取るつもりですか?」
「ひどい目……?」
「知らないとは言わせないですわ。本来、まゆらさんとのまち合わせは総合図書館ですよね? それをカナエさんを通してあの幸弘に伝えたですわね。おかげで見知らぬ女性が……」
レイラはそこで言葉を止めて首をふった。
彼女はあの時の公園での出来事を思い出した。被害者と思われる女性は髪は長くレイラ自身と変わらない、背格好も似ていた気がしたが服装まではわからなかった。
「レイラさん」
名前を呼ばれ気づくと、リョウにレイラの両手を掴まれ椅子に座らせられていた。彼は目の前で膝をついていた。
「レイラさんの怒りはもっともです。でも、安心して下さい。今回、誰も傷ついてはおりません。そのために動いたのですよ」
リョウはそう言いながら、イヤフォンをつけていた耳を抑えて、腕にある時計を見ると、少し考えてから再度レイラの方を見た。
「明日も休日ですね。しかし、レイラさんは午前中習い事ですね。13時くらいがいいですかね」
「なんの事ですの?」
「レイラさんが聞きたがっていた真相をお話します」
「……」
レイラはその提案にのりたくはなかった。話を今すぐに聞きたかったが、「河野さんにも会えますよ」とリョウが言葉を続けたので今回は引き下がることにした。
「誰も被害に合っていないのは本当ですのよね?」
「もちろんです。落ち着かれようでよかったです」
「……」
取り乱し乱暴な態度を取ったことを指摘されて、レイラは言葉がでなかった。
リョウはレイラの手を離すと立ち上がり、彼女に手を差し伸べた。レイラは不満そうであったが、その手を取り立ち上がった。
更に落ちていた鞄を広い渡した。
「ありがとうございます」
レイラは立ち上がりその鞄を受け取ると、渋々礼を行った。
「いいえ、大切な物が入ってるのですよね。忘れないように」
「……はい」
レイラは頭を下げて、挨拶をするとすぐに自室に戻った。
部屋にはいるすぐに机の横に鞄を置き、着ていた服を脱ぎカゴに入れると、部屋着のゆるいチュニックに着替え、ズボンを穿いた。
そして、椅子に座ると鞄から眼鏡ケースを取り出し、まゆらと交換した眼鏡を机の上に置いた。
「まゆら」
それから、引き出しを開けての底を外し、そこから小さな南京錠のついた本を取り出しダイヤル式を回して南京錠を取ると本を開けた。
それは本型の小物入れになっており、小さな紙がいくつも入っていた。
レイラは紙を一つ一つ手にして、丁寧に読んでいった。以前レイラの専属家政婦であったトメがレイラへ送った手紙だ。
「トメ」
彼女たちの事を思うとレイラの気持ちが少しずつ落ちつてきた。
「会いたいな」
レイラはパソコンを立ち上げて、“総合図書館”と検索すると、ヒットした。
レイラは目を大きくして、その記事を読んだ。
「集団暴行未遂事件」
その記事には中村幸弘以外にも数名の名前が載っていた。更に主犯とされる中村幸弘には余罪もあると書かれていた。
「余罪……」
彼について更に検索すると、過去の事件が次々と出てきた。ほとんどが性犯罪であった。だだ、殆どが匿名の自称被害者の書き込みであり、信憑性は低い。
「なんで、親父はこんなヤバい奴と婚約を承諾したんだ……? 何か利益があるんだよなぁ」
レイラはため息をつくと眼鏡や手紙を片付けて、パソコンを消すと立ち上がりベッドに伏せた。その時、自分の手が目に入った。
(赤い……)
赤くなった手をさすりながらレイラは落ち込んだ。
(俺は俺なんだな。力じゃ兄貴にも勝てねぇ)
レイラはため息をついてゆっくりと立ち上がると居間に向かった。
夕食はタエコがいつもの様に美味しい食事を用意してくれていた。それを食べると入浴を済ませてから自室に戻った。
「あー……」
椅子に座るとレイラはため息をつき、鞄から教科書を取り出すと学習を始めた。
勉強しているうちに、それに集中して様々な出来事を忘れる事ができた。
前世では勉強に集中するなどありえなかった。知識を得るのが楽しいと思ったのもこの体のおかげだ。
キリの良い所までやると、時計を見た。
「もう、こんな時間か」
レイラは机の上を片付けるとベットに入った。
眠れないかもしれないと不安になったが、そんな事はなくすぐに夢の中に入った。




