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62限目 おかしい

「なにかありましたか?」


 エンジンかけ出発してから数分後、俊則としのりはレイラに優しく声を掛けた。レイラは顔を上げて、バックミラー越しに彼の顔を見た。彼は眉を下げて心配そうにレイラの方を見ていた。


「いいえ。お気遣いありがとうございます」

「また、気分転換しましょうか?」

「……お願いしますわ」


 レイラは少し考えてから、彼の提案にのった。敏則が何を考えていて何を知っているのか分からない。ただ、以前“中村幸宏なかむらゆきひろ”の情報を伝えるため彼の学校の前を通った様子からして、口止めされているとはレイラは想定していた。


(今度は何を教えてくれるんだろか)


 こっそりと教えてくれる敏則の情報にレイラは期待していた。

 車は自宅とは反対方向に走り出した。


「でも、大丈夫ですの? 車の居場所は家の者に知られていますわよね」

「それならご安心ください。以前遠回りした時、“レイラさんの気分転換”と伝えましたら問題ありませんでした」

「そうですか」


 敏則は自信満々に言ったがレイラは心配になった。以前、家族の食事会で両親が彼を私の運転手から外そうとした事を思い出し怖くなった。


「あの……やっぱり……」


 そう言いかけてが、赤い光が窓から車内に入ってきたため言葉をとめ外を見た。窓の外に数台のパトカーが停まっているため道路が混み合って車の進みがゆっくりになった。


(なんだ?)


 そこは、道路に面した大きな公園であり大きな木が茂り日差しを遮っているため真夏でも涼しい。

 その反面、外から公園内部の様子が見えにくいためカップルに逢引に使われる事もある。公園内に大きな図書館があり児童書が揃っているため日中は子ども声がする。


(え……?)


 パトカーの影に知っている顔が見えたため、言葉を失った。


(中村幸宏……? いや、でも、他人の空似かも)


 数人の男が制服をきた男性に連行されていた。その中に、中村幸宏の姿があったのだ。更に長い髪の女性らしい影も見えたが顔はわからなかった。レイラは目を細めて見ようとしたが、車はその場から離れてしまった。


(複数の男に、女性、そして警察なぁ。あははは)


 レイラは気持ちが悪くなり、胸を両手で抑えた。そして、ゆっくりと呼吸をして気持ちを落ち着かせた。


「レイラさん?」


 敏則がレイラの異変に気づき声をかけた。レイラは首をふり、バックミラー越しに微笑み敏則を見た。


(しかし、この事を敏則は知っていたのか? 知っていたならなぜ止めない)


 疑問と共にレイラの中にモヤモヤとしたモノが現れた。


「パトカー多かったですね。何か事件でしょうか?」

「理由知らなのですか?」

「ええ」


 レイラは眉を寄せて、正面を見て運転する敏則をバックミラー越しに見た。彼は真剣な顔をしている。


「では、なぜ気分転換にこの道を選んだのですか?」

「もともとは総合図書館へ行く予定だったのですよね」

「……? えー、あ、そうですわ」


 レイラ、少し考えてからニコリと笑い敏則に同意した。


「本来は変更を私が伝えようと思ったのですが……」

「いえ、いえ。リョウさんが伝えてくれましたので大丈夫ですよ」


(兄貴だと……? 徳山図書館と聞いて、そこに行ったのだから問題はないはずだ。なんで、途中で違う場所に情報があるんだ?)


 レイラは意味が分からず、敏則を問い詰めたかったが深呼吸をしてそれを必死に抑えた。


「お兄様が、総合図書館であった待ち合わせ場所を徳山図書館に変更と伝えて下さったのですね。それを感謝しなくてはなりませんわ」

「ええ、お優しく気遣いのできる方ですよね。あのままでは間違える所でした」


 レイラの頭の中は疑問だらけになったが、話を合わせてみる事にした。


「本当に困りますわよね」

「カナエさんは、来たばかりですし仕方ないですよね。最近は見送りしていますし仕事を覚えたようで安心しています」


(カナエが総合図書館と伝えただと? カナエに渡したあの紙に“徳山図書館”と書いてあったはずだ。時間が経ったから忘れた? いや、1週間前に確認している)


 車が速度を落としたので、レイラは窓の外を見た。そこには見慣れた自宅があり門にはカナエが頭を下げていた。

 敏則に後部座席の扉を開けてもらうとレイラは礼を言って降りた。すると、カナエが迎える挨拶をしレイラはそれに返事をした。

 レイラが部屋に向かうと、カナエがその後をついた来た。レイラは足を止めると、チラリと後ろを歩くカナエを見た。


「カナエさん、車の手配ありがとうございます。目的に無事到着しましたわ」

「いえ。リョウさんが助けて下さいました」

「兄がですか?」

「あの……、申し訳ございません」


 レイラは彼女の言葉に立ち止まり振り返った。彼女は頭を膝につくくらい頭を下げていた。

 レイラは彼女に側に行くと、背中に触れた。


「カナエさん、話してください。謝罪では何も伝わりませんわ」

「はい……」


 カナエはゆっくりと頭を上げた。その目には涙を浮かべており、レイラは戸惑った。しかし、それを悟られないように優しい笑顔を作った。


「あの……、今日のお出かけに事は以前、レイラさんに指示書をもらっていました」

「指示書……? あ、あのお願いを書いた紙ですか? そんな大層な物ではありませんわ」

「でも……、仕事ですから。私、その紙がないと動けないのですが……、あの……それを、なくしてしまいました」


 頭を下げて、手に力を込めて身体を震わせた。レイラはそんな彼女の背中を優しく撫ぜた。


「大丈夫ですよ。そんな事で怒ったりはしませんわ。それで兄が助けたのですわね。詳しく聞いてよろしいでしょうか」


 カナエは何度か頷くと、頭を上げて真横にいるレイラに視線を向けた。レイラ顔を上に向けてカナエの顔を見た。


「あ……、失礼いたしました。レイラさんを見下ろしてしまい……、えっとどこに……」


(あぁ、そこまで気が回るようになったのか。いや、山崎からの指示かな。書面になれば守れるらしいからなぁ)


 レイラは周囲を見た。廊下は静かで二人の声しか聞こえなかった。レイラは少し考えてから、「来てください」と言って足を進めた。カナエは返事をすると、レイラについていった。

 暫く進むと、応接室に着いた。レイラは躊躇することなく、部屋をノックすると扉を開けて中にはいった。カナエは緊張しながらも後に続いた。


 室内はソファが2台ありそのソファの間にローテーブルがあった。それ以外は特に何もなくシンプルな部屋だ。

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