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61限目 騙された

 兄であるリョウからまゆらとの約束を聞いてから一か月がとうに過ぎていた。それまでは何もない平穏な日々が続き、色々ありすぎた後だと不気味に感じた。


 レイラがピアノ室でピアノを弾いていると扉を叩く音がした。レイラが返事をすると、現れたのはカナエだ。


「失礼致します。出かける準備ができました。荷物をお持ちしますか?」

「大丈夫です。向かいます」

「それでは、いつもの様に車の前で待っています」


(とうとうきた。クソ兄貴を通しての約束だが、まゆタソと会う日だ)


 以前まゆらと会う前はワクワクと気持ちが高揚したが、今は緊張の方が上回っていた。

 レイラは鞄を持つと、立ち上がり扉を出て車に向かった。


 外に出ると、風は冷たく長袖でも肌寒く感じた。


 車の前では運転手の敏則としのりが後部座席の扉を開けていた。その横にカナエがおり、レイラを見ると「いってらっしゃいませ」と言って頭を下げた。レイラは彼女に挨拶をすると車の乗りこんだ。


 敏則は扉を閉めると運転席に乗りレイラに声を掛けると車を走らせた。

 レイラが窓の外を見ると、頭を下げるカナエの姿が見えた。


 すぐに、夏まではよく通っていた徳山図書館に着いた。


(まゆタソと連絡をしなくなってから、ここに来るのは避けていたんだよなぁ)


 レイラはいつもの黒いチョーカーをつけるともうセミの鳴き声が聞こえない道を通り図書館へ向かった。中にはいると、すぐに階段を上りまゆらと初めて出会った場所へと行った。

 部屋に入るとそこには誰もいなかった。シーンと静まりかえった部屋に足を踏み入れるとレイラの足音が響いた。

 レイラは以前よく、まゆらと一緒に勉強した場所に座り、横目で隣の席を見た。


(まゆタソ、ここに座っていたな)


 レイラの目には一生懸命勉強するまゆらの姿がうつった。懐かしくなり胸がジーンとした。


(まゆタソ)


 レイラの表情が自然と緩んだ。


(勉強して待っているか)


 レイラは鞄から、教材を取り出すとそれをめくりながらノートにペンを走らせていた。

 彼女は勉強を始めると時間を忘れてそれに集中した。前世では勉強をするのは好きではないレイラだったが、今のレイラは教科書を見れはすぐに理解できるため勉強が楽しく感じるようになっていた。


(よし、Ok)


 一つの単元を終了して顔上げると、日がだいぶ傾いているのが見えた。レイラは腕にある時計を見ると目を潜めた。


(はぁ? 待ち合わせ時間すげー過ぎているぞ)


 レイラは辺りを見回すと、来た時と同じで誰も居なかった。その時廊下で足を音が聞こえたので入り口に目を向けたが、その足音は姿を見せずに聞こえなくなってしまった。


(クソ兄貴)


 レイラの腸は煮えくり返ってたが、誰が見ているかわからない場所であるためその感情を必死で抑えた。

 何度か深呼吸をすると、鞄から眼鏡ケースを取り出して机の上に置いた。それを開けると眼鏡を取り出した。以前、レイラの専属家政婦だったトメが直してくれため綺麗になっていたが年季を感じる物だ。


 レイラはそれを大切に両手に乗せると眺めた。


「まゆタソ……。寂しい」


 小さく息を吐くと目を細めた。レイラはこの眼鏡を1度しかかけていない。しかし、肌身離さず持っていた。眼鏡をそっとケースに入れて鞄にしまうと、レイラは力を込めて、ペンを持った。そして勉強を再開した。その筆圧は先程とは比べ物のならなほど濃かった。


「はぁ」


 あれから、数時間勉強するとレイラは手を止めてため息をついた。部屋の中は先程とは変わらず誰もいなかったが窓の外は日が沈みかけて空が赤くなっていた。


(夕焼け……。ここに随分いたなぁ)


 レイラは腕にある時計を確認した後、机の上の物をすべて鞄にしまった。そして、その鞄を持つと立ち上がり、歩き始めた。外にでると、風は冷たく冷え込んでいた。


(さみぃなぁ。日中と寒暖差があるな)


 レイラが駐車場に着くと、いつもの乗っている車が止まっており俊則が笑顔で後部座席の扉を開けて待ったいた。

 レイラは彼を見つけと軽く頭を下げて、車に乗り込んだ。俊則はそれを確認するとゆっくりと扉をしめた。そして、運転席に座った。

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