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36限目 自意識過剰な男

 中村幸弘なかむらゆきひろは優しい笑顔で声をかけた。


(帰りてぇ……)


 レイラが断る方法を考えていると幸弘は眉を寄せて難しい顔をしている。レイラが首を傾げて彼の顔を見た。


「即答しないってことは、レイラちゃんもしかして断ろうとしている?」

「はい」


 レイラが即答すると幸弘はため息をついて首を振った。


「あのさ、君はまだ子どもだからわからないかも知れないけど俺と付き合いたい子はたくさんいるんだ」

「俺……?」


 幸弘は食事の時とは別人のように乱暴な口調になった。レイラはそれに目を細めた。


「あぁ、大道寺家のお嬢様に乱暴な口調で話してごめんね? でも婚約者だからいいだろ」

「候補ですよね」

「はぁ? 俺が候補のわけないだろ」


 レイラの言葉に彼は強く反発した。そして、レイラのことを上から下までじっくりと見た。それがレイラには気持ち悪く感じたが表情に出さないように必死に笑顔を作った。


「そうですか」


(めんどくさい男だな)


 レイラは諦めて彼の言葉に従うことにした。


「少しでしたら……」


 レイラの返事に幸弘は嬉しそうに笑った。そして、背中を押され、ロビー中央にあるソファに座るように促された。

 レイラは抵抗することなく座った。


(あ、ここの席、フロントから見えないなぁ)


 幸弘が「失礼するよ」と言いながら隣に座った。


(近いな)


 あまりの近さにレイラが距離を置くと、彼はニヤリと笑って近づいてきた。


「照れなくても大丈夫だよ。まぁ、俺みたいな人間がそばにいるだけで落ち着かないよな」


 自信過剰すぎる彼の発言にレイラは疲れを感じ「そうですね」と肯定した。すると、彼は嬉しそうに頷き、レイラの肩を抱いた。その瞬間レイラはあまりの不快感に体をびくりと動かした。


「そんなに緊張しなくていいよ。君は可愛いから特別だ」


 そう言って、そのまま肩をなぜ始めた。


(ぶっ飛ばしていかな? だめだろうな)


 レイラは諦めて体の力を抜いた。それに気分をよくした幸弘はニヤニヤしながらレイラを見た。


「あのさ、率直に聞くけど俺が婚約者であること知っていた?」


 レイラはもう“候補”と言うもの諦めて、時間が早く過ぎることを祈りながら笑顔で対応した。


「いいえ。本日初めて知りましたわ」

「やっぱ、そかぁ」


 幸弘はソファにもたれ掛かり、足を広げた。そのせいでレイラの座る場所が狭くなった。移動しようにも彼に肩を抱かれているため動くことができない。


(このクソガキ)


「親が決めた婚約者だから、結婚承諾するけど俺を独占しようと思うなよ。そんなの俺の周りの人間に恨まれるかな」

「……」


(なら結婚しなちゃいいじゃん。候補なんだし)


 幸弘はゲラゲラと下品な笑いを浮かべた。

 レイラは彼の言っていることが理解できず、笑顔にまま首を傾げていると幸弘はレイラに顔を近づけた。


「将来有望な俺と結婚できるだから、お前は幸せだよ。だから、俺のやることに一切口を出すんじゃねぇぞ。俺はな、お前のようなしょんべん臭いガキと一緒にいるような人間じゃねぇの」

「そうですか。では婚約破棄と言うことでよろしいでしょうか」

「はぁ? 嬢ちゃんの頭じゃわかんねぇのかもしれないがこれは、政略結婚なわけ。断ることはできないんだよ」


 幸弘は突然、レイラの平らな胸に乱暴に触れた。


(だから、候補だって。あー、それとコレ強制わいせつ)


 レイラは触られた胸を見てため息をついた。

 幸弘を見ると彼は相変わらずニヤニヤとしている。


「どうした? カッコいい俺に近づかれて照れているのか?」


(カッコいい? レイラや兄貴の顔を見ても自分を誇れるとかマジスゲー。つうか、本当に頭いいのかコイツ? 大学生が中学生の胸を公共の場でもんじゃマズイだろう)


「どうした? 俺に見惚れて何も言えなくなったのか。まぁ今日あった記念だ。キスぐらいしてやる」


 そう言って幸弘はレイラの胸を触れている手に力を入れた。その力に負けてレイラはソファに倒れてしまった。


 レイラの上に幸弘が覆い被さった。


 レイラが起き上がろうとすると、幸弘は自分を支えている手と反対の手でレイラの肩を抑えつけた。必死に抵抗するが自分よりも大きな男性の力には勝てなかった。


(おー、マジかぁ。コイツ成人済みの大学生だろう? 何考えてんだか。コレやるとコイツの医者になる夢は厳しくなるが仕方ないよなぁ。俺はコイツとキスしたくねぇし)


 レイラは目をつぶり、大きく息を吸った。その意味が幸弘には理解できなかったらしく首を傾げた。


「キャァー」


 レイラは全力で声を上げると、幸弘は驚いて目を丸くして固まった。


 次の瞬間。


 走ってきた2人のベルボーイが彼をレイラから引き剥がし、フロント・クラークの制服を着た男性がレイラを支えた。


(女の子するかな)


 レイラは彼の顔を見ると涙を流して震えた。後から、彼と同じ制服を着た女性が現れると男性はレイラを彼女に預けた。

 彼女は震えるレイラの肩を優しく支えた。そして、「歩けますか」と聞かれたのでレイラは「はい」と小さく返事をした。レイラは女性に支えられながら医務室に行くと、ゆっくりと椅子に座った。

 泣きじゃくるレイラを女性は優しく抱きしめて、頭をなぜながら「大丈夫ですよ」と何度も声を掛けた。


 それに対してレイラは少し罪悪感を持った。


 しばらくすると、扉を叩く音がした。女性が返事をすると扉が開き、父、貴文たかふみが入室してきた。そして、泣きじゃくるレイラを見て目を細めなが側にきた。


「何があった」


 貴文たかふみは冷たい声で言い放った。レイラは途切れ途切れなりながら、あった事を説明すると彼は大きなため息をついた。


「そうか」


 無表情で話す貴文たかふみの様子を見てレイラの側にいた女性は目を大きくした。


「大道寺様、お嬢様は今回のことで深く傷……」

「君には関係ない話ですよ」


 貴文は笑顔を作り、女性の言葉にかぶせて強く発言した。顔は笑っているが目が全く笑っていないその表情に女性は固まった。


(マジか、このクソオヤジ。襲われた娘を慰めないのかよ)


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