17限目 桜花会
一通りお互いに褒めあうと、口を押さえて上品に笑った。前世ではできなかった女子同士の会話がレイラは楽しくて仕方なかった。
「そういえばレイラ様、朝、香織様とお話なさっていましたね」
「ええ」
夢乃がうっとりとした顔をした。
「羨ましいですわ。香織様は勉強もスポーツもでき素敵な方に声をかけて頂けるなんて」
「そうですわ。女性ですが、そこらの男子よりかっこいいですわよね」
夢乃と藤子はキャッキャと香織の素晴らしいについて、語り盛り上がっていた。レイラは、そんな彼女たちを可愛いと思いながら見ていた。
(女子最高だな。こんな可愛い姿がまじかで見られるなんて)
レイラ達が会話に花を咲かせている中、初等部から上がってきたメンバーは教科書を出して必死に勉強をしていた。
「あの、御手洗さん……」
「なにかしら?」
藤子は真後ろに座ると女子生徒が話しかけた。藤子は眉をひそめて迷惑そうな表情をした。
「藤子さん、呼ばれてたたげで睨んでは可愛そうですわよ」
レイラが注意すると、藤子は不満そうな顔をした。
「レイラ様とのお話中に割り込んでいらしたのですよ。失礼ですわ」
「全く、その通りですわ」
二人が頷きながらレイラを見た後、彼女たちは女子生徒を再度睨みつけた。女子生徒は下を向き何も言わない。
(まったくもう。えーと、こいつは特待Sで、生徒会の中村彩花じゃねぇか)
レイラは4月にもらった、桜花会と生徒会及び特待生の顔写真入りの紹介冊子を思い出した。レイラは冊子に載っている人間は全て覚えていた。
「中村さん。何か藤子さんに話したい事があるのでしたら、私のことなんて気になさらずにお話下さい」
なるべく優しい笑顔を心掛けたが彩花はチラリとレイラの顔をみたがまた下を向いた。
「ちょっと、レイラ様がわざわざ声を掛けてくださっているのよ。顔を上げなさいよ」
「そうよ。失礼な方ね」
二人が強い口調で彩花に言った。
レイラが二人の様子を見てため息をつき、彩花を見ると彼女は顔をあげて困った顔をしてこちらを見ていた。
(やべぇ、怖がらせちゃったかな。しかし、俺らに声を掛けるなんて度胸あるよな。“白服に関わるな”って暗黙のルールがあると聞いたが知らねぇのか。まぁ、特待Sの生徒会だから別か)
「お二人とも、声を掛けて下さったのに威圧しないでください」
「でも、レイラ様。この方は桜花会を分かっていませんわ」
「そうですわ」
(桜花会なんて、だだの金持ちの子どもってだけだろう。そんなたいそうなもんじゃねぇ)
「桜花会……?」
「ご存じありませんの?」
彩花の言葉に藤子は目を大きくしたと思ったら、眉間に眉を寄せて鬼のような形相をした。レイラの反対側にいる夢乃も同じように恐ろしい顔をしている。
周囲を見渡せば、先ほどまで楽しそうに話していた者や必死で勉強していた者も黙り、レイラ達を見ていた。
(いや、知らねぇわけないだろ。こいつ特待Sの生徒会だぞ。つうか、夢乃と藤子はこいつのことしらねぇのか? いや、同じクラスだからそんなわけないか)
「いいですか。桜花会と言うのは素晴らしい家柄の方々が集まるところですわ」
藤子は立ち上がり、腕を組み彩花を見下すようにいった。
(ちげーよ。学校に高額な寄付金を渡している奴らだよ)
「そうですわ。その素晴らしい方々は貴女のような下々の人間が話すことなど許されないのです」
夢乃も立ち上がり腕を組み、藤子と同じように見下していた。
(下々って……お前らも桜花会じゃねぇだろう。そして、彩花は特待Aのお前らより上のSだって)
「下々って、御手洗さんも山下さんも黒服ですし桜花会じゃないよね? それならば私たちと同じでしょ」
(彩花、素晴らしい。よく言った。つうかよく言えたな。さすが生徒会って、そうじゃねぇよ。どうすんだよ。めっちゃ注目のまとじゃねぇか。それじゃなくても俺は目立つのに……)
彩花は今まで下を向いていたのが嘘のようにはっきりと言葉を返したのだ。
クラスが静まり返っているため、三人の声が教室中に響き渡っていた。レイラは目立ってしまっていることに不安なった。
「なんですって。私たちはレイラ様に選ばれたのです。そもそも、敬語をつかいなさい」
(俺は選んでない)
「えー。桜花会付きの特待Aを選ぶのは学園でしょ。そもそも、その特待って勉強できれば誰でもなれるわけだし」
(その勉強が結構難しいのだが特待Sに言われると……)
彩花はどんどんヒートアップしていき、彼女の声は大きくなって言った。
「それに桜花会ってただ沢山寄付金を出してるだけでしょ。親の力じゃん。なんでも子どもが敬われるなんておかしいじゃない?」
(あ、それはマズイ)
教室内にブリザードが吹いた。
周囲を見なくても周りの生徒が真っ青な顔をしているのレイラには分かった。そして、レイラの左右いる二人は教室内の空気とは対照的であった。
「なぁ……」
「確かにそうですわ」
顔を真っ赤にして怒鳴ろうとした藤子をレイラは言葉をかぶせて止めた。更に何を言おうとしている夢乃をじっと見つめると彼女はバツが悪そうに下を向いた。
レイラは首を振り、立ち上がると藤子と夢乃を下がらせて自分が前に出て、彩花に近づいた。
「おっしゃる通りですわ。ですが、桜華学園はご存じの通り全国の学校を見てもトップクラスに設備の整った学校ですが学費は他の私立とそこまで差はありませんわ。そして、特待生の特典をご存じですよね」
「私、特待で入っているのよ」
「そうですね。ならばよくご存じですね。ではそれが維持できるのはなぜでしょうか」
「……寄付金」
「その通りですわ」
レイラが丁寧に1つ1つ説明するたびに彩花の顔色が変わっていった。
(さすが、特待生。学校の仕組みがわかったようだな)
「つまり、特待生の特典も学校の設備のほどんどが寄付金ということ?」
彩花が眉を下げて恐る恐る確認した。レイラは少し考えてから彼女の耳元に口を近づけるとレイラの家である大道寺家の寄付金額を伝えた。すると、彩花は目を大きくしてレイラの顔を見た。
「え? マジで?」
「本当ですわ。桜花会に入れるほどの寄付金の場合はその額が公表されていますわよ」
「だから? “白服には逆らうな”と言われたんだ」
「あら、“さからうな”に変わったのですね。私は良いのですが他の桜花会の方ははっきり言って今の貴女の態度では反感をかってしまうと思いますわ」
「お金の力って強いよね」
「ええ、そうですわね。特にここには桜花会があります。学園の考え方はお分かりになると思うのですが……」
レイラは口元に手をやり困った顔をした。彩花はニコリと笑った。そして……。
「郷に入っては郷に従えですね。レイラ様?」
「分かって下さって嬉しいですわ」
レイラはそう言って周囲を見ると、両手を軽く叩いた。すると、止まっていた時が動き出したかのように教室にいる生徒たち、今の出来事がなかったかのように行動した。
(あー、言いたくねぇし、やりたくねぇけど)
レイラは憂鬱な気持ちで彩花を見るとそれを悟り夢乃は藤子の顔を見た。
「藤子さん」
夢乃が藤子に声を掛けると彼女は「はい」っと言って、彩花のもとに行った。それに気づいたレイラ内心“申し訳ない”と思ったが立場上そうも言えず、笑顔を浮かべて傍観していた。
「レイラ様の寛大な心に感謝しなさいよ。他の桜花会の方々でしたら明日、貴女の席はないわよ」
「そんなに?」
「そうよ」
藤子は眉間にシワをよせてぶっきらぼうに答えた。
その間に、レイラは席に座りパラパラと教科書を読み始めた。夢乃もレイラと同じように席にすわったが、藤子の様子が気なる様でじっと見ている。
レイラは眉を寄せて、机に肘をついて彩花をチラリと見た。それを見た夢乃は顔を青くして藤子に“早くしろ”とサインを送った。彼女はすぐに理解して頷いた。
「それで、さっき何を聞きたかったの?」
「なんで一部の生徒だけが必死に勉強しているのですか」
「あら、まともな敬語使えるじゃない。で、勉強? あぁ、これからテストだからに決まっているでしょ」
「え? そんなの聞いていない……です」
その言葉を聞いて目を大きくしたのは彩花だけではなかった。まわりで友達と談笑をしていた生徒も彩花と同じような表情をした。
「聞いてなくても、桜華は例年そうなの」
藤子は捨て台詞の様に吐き捨てるとさっさと席に戻り、前を向いた。それっきり彼女は後ろを向くことはなかった。
しばらくすると、授業時間になり担任教師が入室してきた。その頃には全員が必死に教科書を見ていた。
「今年の生徒は優秀ですね」




